大木に貼られた紙
まず僕達は記憶を頼りに「おふだ」を置いた場所の周辺を探すことにした。
「んー。やっぱないかなぁー。」
当然ながら10年も前に置いた「おふだ」が今もそこに置かれ続けているという事はない。
「やっぱ10年も経ってるんだから無いだろ。諦めるか?」
と、軽く捜索断念案を出してみたが、当然彼女は首を振った。
「諦めないよ!」
「だよなぁ〜。」
パッと顔を上げ、彼女の方を見ると僕は何かに気がついた。
「あっ・・・あれ。」
そういって僕は彼女の方を指差した。
「ん?私の顔に何かついてる?」
「そうじゃないよ。ほら、あの木。」
そこには大木があり、そして不自然にも幹の真ん中に、何か紙のようなものが貼られているのを見つけた。
紙にはこう書いてあった。
夢を求む若き男女へここに記す。
大きく水湧くところに穴あり。
続きはそこに記す。
「要するに、水が湧いているところに行けばいいんでしょ。」
「水が湧いているところってどこだよ。」
「うーん・・・」
水が湧いているとなるとやはりどこかの山の中なのだろうか、意外と近くにあるのではと、僕は色々考える。
先に口を開いたのは彼女だった。
「川。ねぇ颯斗君、ここって確か大きめな川があるよね。」
「あぁ、まぁあるね。」
「ってことはさ、そこの上流の方にたどって行けば水が湧き出てるところに行けるんじゃない!?」
なるほど。と僕は納得する。でも、ここで一つ思う。
「それってさ、相当歩かない?だって源水の方まで行くってことだろ?」
「もちろん!そうするしかないでしょ。」
必死の抵抗を言葉で試みるもそれは全く彼女には効かないのだった。
彼女に引っ張られるまま僕達は一度この山を下り、川の上流に沿って歩いた。
この川はこの辺りでは「山生川」と呼ばれ、「やまうみ」と読む。山から湧き出る地下水が一気に流れでて、出来たといわれており、山から生まれたということでその名がついたということを僕は今更思い出す。
水はとても透きとおっていて、小さい魚もよく見られたりする。小さい頃少し遊んだっけなと思い出す。
喉も渇いていたので僕の方から休憩を申し出た。
「なんだ颯斗君、体力ないなぁ。」
「どんだけ歩いたと思ってんだよ。ってかなんで君はそんな体力あるんだよ!」
「うーん」
と、彼女はそれ以上はなんとなくごまかしたような気がした。
再び歩き出して、色々話をしながら歩いているうちに、自然とここ10年について
の会話になった。
「都会はどんな感じだった?まぁ一括りに都会って言っても君がどこに行っていたか聞かされてなかったんだけど・・・」
「東京にいたんだ。別に格段変わったことは無いよ。友達も出来たし、生活もまぁアパートぐらしではあるけど、特に不自由な事はなかったよ。」
彼女の表情と少し過去形めいた言い方が少し気になったが僕は続けた。
「東京か、遠いとこに住んでるんだな。ん?そういえば今日親は?」
「実は1人で来ました〜!」
「は?」
僕は分かりやすく動揺する。
「いやいや大丈夫かよ。親にちゃんと許可取ったのかよ?」
「まるで颯斗君、お節介な人みたいだね。大丈夫。ちゃんとOKでたよ。友達の家に泊まるとか言って。」
咲良と今でも連絡を友達がいるのだろうか?
「どうした?そんな、ん?って顔して。あ、わかった。ここの誰が友達なんだろうと考えたね。」
まぁ、図星である。
「親に言ったのはうそだよ。」
「嘘かい!ってかならやばいだろ!今夜どうするよ。」
「知らない。野宿でもするよ。」
「いや、それも駄目って。」
「じゃあ颯斗君泊めてくれる?」
「え?」
と言いつつも、親に話してもOKが出なさそうなので、親にバレないようにこっそりうちの家の2階に泊めることになってしまったのだった。
バレたら怒られるだけで果たして済むだろうか。
色々話をしているうちに大分歩き、ついに僕達は水が湧き出ているところまでたどりついた。
大きな滝があって、岩などからも水が湧き出ている。まるで小さな湖のようにもなっている。
「ところで穴は?」
「あれじゃない?」
と、彼女が指差した方を見ると大きな滝のその真後ろに、わかりにくいが洞窟のような穴があった。
ただ少し問題が。
「どうやって行くんだよ。道ないぞ。」
「泳ぐ!」
「はぁ?」
すると彼女はそのまま水の中に入り、「まぁまぁ深いなぁ」とか言いながらどんどん泳ぎ進んでいった。
彼女だけで行かせるわけにもいかないので、仕方なく僕も水の中に入り、彼女を追いかける。
「おい、待てよ。待てって。」
泳ぎながら彼女に向かって声を上げるが、水が口の中に入って中々まともな発音にならない。そして何より彼女が泳ぐスピードが意外に速いのである。
30メートル程しか泳いでいないはずなのに今まで歩いてきたダメージが重なり体はぐったりである。
「遅いよー。」
「君が泳ぐの速いんだよ。」
「褒めてくれてありがと。じゃあ行くよ。」
洞窟に入り少し進むと何故かそこにはロウソクに火がついていた。そしてすぐ行き止まりになった。しかしそこには確かに紙が貼られていた。
夢を求む若き男女へここに記す。
神宿りし開けた空き地に続きはある。
「えー、ヒント少ないなぁ。」
「神宿りし場所ってスタート地点意外思いつかないんだが?」
今はパッと思いつかないが日も暮れてきたのでこの続きは明日することになった。
さぁ、どうやって家に入ろう。