初めて探検で見つけた場所
田舎町という言葉から想像することは何か。
田んぼがあって、トンボが飛び回っている。山は木々が生い茂り、夏は蝉の合唱が聞こえる。川の水は透きとおっていて、鯉がいたりする。とにかく自然豊かな場所だろうか。他にも、木造造りの古い民家があって、人通りは少なく、静かなところとかもあるだろうか。この町は大方その全てに当てはまる。
当時の僕たちは、探検と銘打ってこの町をあちこち歩き回った。彼女はそれをもう一度やろうと言っているらしい。
僕はずっと手を引かれたまま彼女と走り続けていた。
「どこまでいくんだ」
「私たちが探検で初めて見つけた場所」
彼女は振り返ることもなく、走り続けながら答える。
「初めて見つけた場所……」
幼い頃の記憶なんてなかなか覚えていないものだ。
僕の場合、昨日のことですらはっきりと覚えている試しがないのだから、十年前のことなど、なおさら覚えているわけもない。
着いたとき、ようやく記憶が蘇ってきた。
この町は周囲を山で囲まれたいわゆる、盆地になっている。
それらの山の中で一番大きいのは、神住山と呼ばれていた。あくまでも住民が名付けた呼称であって、正式名称などはないようだが、神様が住んでいるというこの地域の言い伝えを元に人々はそう呼んでいる。
山を少し登ると名前もわからない小さな神社がある。木々が生い茂り、日はほとんど当たらない。鳥居も正殿とおぼしき建物も、こけに覆われていて、老朽化加減を見る限り、今にも倒壊しそうなほどである。
しかし、神が住んでいると言われるくらいの山だ。この神社に祀られているなら、もう少しきれいにしても良さそうなものだが、管理をしている人はいなさそうだ。そもそもこの町に住んでいる人でもここにお参りにはこないだろう。
「すごいね、まだ残ってるんだね」
「本当にな。僕もあの時以来、来てなかったから知らなかった」
曖昧な記憶ではあるが、この神社は十年前と変わらない気がした。というのも、古くなるのは当然だが、当時から既にこれぐらいぼろぼろだったはずで、彼女の言うとおり、残っているが不思議なのである。
「じゃあ始めますか。」
「一体何をするんだ」
「願い事を叶えます」
彼女の言ったことが、いまいちよくわからず首を傾けた。
「言い伝えだよ」
僕たちがここを探検するきっかけとなったのは、僕のおばあちゃんが話してくれた言い伝えだった。
「颯斗、咲良ちゃん。こんな話を知っているかい」
「何?おばあちゃん」
「町を囲む山の中には神様がいらっしゃる場所があるの。そこに願い事を書いたおふだを置いておくの。そして、十年経つと神様がそのおふだをどこかに隠してしまうの。それが山の中かもしれないし、はたまた自分の家の中に隠されているかもしれないし、場所は分からないわ。でも、そのおふだを見つけると、そこに書いてある夢が叶うって言われているんだよ」
そして、十年前、僕たちはこの神社を見つけた。
「やっぱりここは神様を祀ってるのか……それでさ、お前はその言い伝えを信じてるわけ?」
「ーー信じてる」
彼女は真面目な表情で即答した。
僕は何も返さなかったが、
「言い伝えだよ! きっと本当だよ! 颯斗君は夢がないなあ」
と、責められた。そして、手をグーの形に、僕のおなかめがけて一発入れてきた。
「痛っ!何すんだよ、今のは間違いなく理不尽だろ」
彼女は聞く耳を持たずにそっぽを向ける。そのときに見た少し不機嫌そうな横顔を、僕はなぜかきれいだと思った。
観念した僕は、捜索を受け入れた。すると、彼女はすぐさま表情が変わり、笑顔を見せた。
「でも、捜索範囲ってこの山だけじゃないんだろ、それこそこの田舎中を相当探し回ることになるぞ?」
それでも彼女は、まるで心配ないという風に答える。
「探すための手がかりがきっとこの辺のどこかにあるはずだよ。神様なんだから、きっとヒントぐらいは残してくれるでしょう?」
そんな都合の良いことがあるのだろうかと感じたが、しかし、手がかりが見つからなければおふだ捜索は打ち切りにできる。
彼女とのこれからの探検が嫌というわけではないが、少し休みたいというのが本音であった。
ここまで走り続け、体力はもうほとんどない。彼女が平気でいられるのはどうしてだろうか。
とにかく手がかり探しに時間をかけよう。そう思ったが、神は休息を与えてはくれないようだった。