幼馴染
僕は彼女を、咲良を知っている。
一言で説明するなら、幼馴染というのがいいだろう。彼女とは小さな事でよく喧嘩をしては、その度に親にはいつも僕だけが怒られるという理不尽さを経験した。
ゆえに、当時の僕としてはあまり咲良を好いているつもりは、一切なかった。
まだ当時幼い僕から見て、彼女に対し、美しいや可愛いの類いを思ったりもしなかった。だから、不覚にも美しいと思わず発してしまうほどの今の姿は、想像もしていなかった。そして何より最後に会ったのはもう、十年も前になる。
当時の彼女はすごくやんちゃで、女の子というよりは、むしろ男の子に印象が近い。というのも、体の大きさも彼女の方が大きかったし、喧嘩をすればすぐに手を出してくるような短気なところがあった。
「訊きたいことがある」
「何かな」
「お前はーー本当に咲良なのか。だって、昔はもっと男みたい……」
「はあ? 今何て言った?」
と、彼女は思いっきり僕に蹴りを入れた。イライラしているときに蹴られるサッカーボールの気持ちを体感した。
「悪かった、冗談だよ。蹴らなくてもいいじゃないか」
「いや、今のは蹴られて当然だね」
何となくおもかげのある接し方。本当に咲良のようだ。この感じがとても懐かしく感じた。けれど、どことなく今までと違う気もした。
十年前、彼女は突然この田舎町から引っ越していった。理由は父親の仕事の都合だったはずだ。
彼女のことを好いてはいないと言いつつも、割と悲しかった。しかし、子どもなんてそんなもんなのだろう。言うことと思うことは真逆だ。当時の僕もそれなりに強がっていたのかもしれない。
彼女と再開できたこと。これは僕にとって嬉しさよりも、驚きが大きい。今一番に抱く疑問は、なぜ彼女がここにいるのかだ。
彼女は言った。
「夏休みだから遊びに来たの。本当に何も変わってないんだね。この町も、颯斗くんも」
それを褒め言葉と取るべきか否かは微妙だなと思う。
「けれど、この十年、一度も戻って来なかったのに、どうしてまた」
彼女は少し困った表情を見せた。
「まぁそれは……タイミングがなかったの。私だって色々忙しかったんだからーーところで颯斗くん、今からご予定は?」
話の切り替え方に違和感を持ったが、まるでそれは理由は訊かないでほしいと暗示してるように感じた。あえて僕もこれ以上話を掘り下げることはしない。
「別に予定とかはないけど。ただぶらぶらと散歩してただけだし」
「暇人」
「うるさいな。僕だって課題とかあるんだから暇じゃあないんだよ……ただ今は休憩中みたいな感じだよ……」
それを聞いて彼女は笑い、突然僕の手を握った。
「とりあえず久しぶりに帰ってきたんだから、探検しよう。昔みたいに。」
手を引かれて走り出す。田舎町の慣れた風を新鮮に感じさせてくれるのは、きっと彼女のおかげなんだろうか。
我ながら赤面しているのがわかる。もし、彼女が振り向いたそのときは日焼けだと言おう。
言い訳は整った。