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アースダイバーズ  作者: アリカ&サリリィ
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8.私は普通の女の子

 

 無音の宇宙空間に一人の人影が凄い勢いで流れていき、既にその体は重力に引かれ、もう間もなく大気圏へと突入しようとしていた。




 がっちりと作り込まれた鉄の箱に、身動きが出来ないアリカ。


 必死に、必死にもがいても、動く事も、もがく事も出来ず、息も絶え絶えで、その狭く苦しい閉鎖空間で、ただひたすら、叫ぶ事しか出来なかった。




 目の前に広がる青い地球。




 そこに辿り着く前に、一つの命が散ろうとしている。




 そんな光景を、多くの人々が見守り、願った。




 どうか、虚構であって欲しいと。




 友人は願った。




 どうか、生きて帰ってきて欲しいと。




 例え、それが届く事は無くても……。




 そこに居た、全ての人々が、ただ、祈っていた。









「私は……」






「普通の……」






「女の子……」






「普通の……」






「女の子……!!」






 ―――





「アッ、アリカ!! それはダメェ!!」


 画面にぼそりぼそりと聞こえてきたその声に反応し、サリリィが叫び声を上げて机を叩きました。




 それは、彼女の暗示。


 自分は普通で在りたいと願い、自分がバカなりに普通に成ろうとする為の。




 でも、これは大抵の場合で……失敗する。




 ううん、成功した事なんて一度も無い。

 最後の就職面接の時だって……。


 ////////////////////


「アリカ君、希望の職種はありますか?」

「あー……えーっとぉ~……」


 目が泳ぎ、視線が定まらない。

 パニックするとあの子はいつもこう。


「せ、先生のスーツ新品ですね、うらやましいです!!」

「新品ってよく分かりましたねぇ……でも服の事はどうでもいいですから……」

「あ、ええとそうですね、希望の職種……えっと、あー……なんだっけ?」

「ハァ……」


 ////////////////////


 だからサリリィは……その言葉を聞いた時、不安でしょうがなかったんです。

 もう、失敗すれば……後は無いのだから。







 けれど……途端に、周囲から変な声が聞こえてきました。




「マジかよ……!?」




 その声が聞こえ……サリリィは……私はモニターを前に目を疑いました。








 ピッ

 宙間制御アクチュエータ手動モード、アクティベート



 ピッ

 オートバランサー調整角度補正、アクティベート


 ピッ

 気圧同調機構スタンバイ、アクティベート


 ピッ

 各部関節管制システムマニュアル、アクティベート

 ピッ

 高度解析システムオープン、アクティ

 ピッ ピッ

 空間認識アクティ加速度軽減システムアクティ

 ピッ ピッ ピッ ピッ

 アクティベート アクティベート アクティベート アクティベート

 アクティ アクティ アクティ アクティ……―――――






 モニターに表示されたウィンドウが次から次へとアクティベート(許可)を表示し移り変わっていき……そんな様子を周囲の人間が唸る様に見つめ吠えていました。


「あれって視界認識センサー操作だよな……」

「ありえねぇ、速過ぎるだろ!!」


 誰しもが、その光景を前に目を丸くする事しか出来ませんでした。




 だって、誰もそれが一体何が起きているのか把握出来ていなかったのですから。




 ……私を除いて。






 思えば、それは間違った認識だったのかもしれない。


 パニックすると、目が泳いで支離滅裂な事を言い始める。


 それは彼女が「バカ」なだけなのだ、と。




 でもそれは、きっと違ったんだ。




 目が泳いでいたのは、周囲の情報を取り込もうとする為。

 景色から、情景から、得られた情報を使い、その場に適応しようとする一種の極限状態。


 でも、彼女から言う事はちぐはぐ……それもその筈……口から声を出すのは、伝えたい事が纏まっていないのではなくて……余りの情報量の多さに、口が付いていけてないだけ。






 それに気付いた時、私は心底……自分が「バカ」だったと後悔した。






 認識した事を表に出すことは出来ないけれど、感じた事を何よりも早く行動に移す事が出来る器官がある。




 それは『目』だ。




 情報をインプットし、脳からアウトプットされた情報をいち早く取り込む感覚器官、視覚を司る部位。




 視覚からインプットし、かつそれを視界によって圧倒的速度で制御するアリカは……






 いわば   ―――認識と思考の天才―――







「す、凄い……」


 思いがけず、私はその時ただ一言、そう零した。


「どどど、どうしよう~!?」


 時折モニターから聞こえてくる、画面の動きとは全く噛み合っていない動揺の声に周囲が笑いを上げながらも……私は再び静かに見守り続けました。






 ―――どうか生きて……―――






 ―――






「どういう……事だ……!?」


 モニターに映し出されたスーツの内側の映像……そこに映り続けていた圧倒的な光景を前に、ヨシヲ社長は食い入る様に凝視していた。


「何だ、何が起きている?」

「ス、スーツを……全手動で操作しようとしているんだ……!!」


 驚愕するのも無理はないよね、あのアリカがこんな事出来るなんて彼女を知ってる人は誰も夢にも思わない事なんだから。


「手動で動かす為の人工知能サポートプログラムでも入っているのか?」

「そ、そんなの入っている訳がない……予算もAI育成技術もそこまで追い付けていないんだ……」


 驚く様な答えに、公安局員達も驚きを隠せない。


「マニュアル操作で高度操作などと……この娘はその手の専門技術系のデザインチャイルドなのか?」

「いや、彼女はノーマルだ……」

「バカな……」




 人口密度の制限を行うコロニーにおいて、遺伝子操作は普通に行われている。

 それ故に専門技術に関する高い能力を持った者は多く居るが、決してそれらも「普通の人間よりも少々出来る」程度でしかない。




 それすらも比較対象に成り得ないアリカの動きは、ヨシヲ社長やその話を聞いた局員達にとっては「異常な現実」に他ならなかったみたい。


「だが、なんでもいい……アリカが生きて帰ってくれるなら、それでも……いい!!」




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