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アースダイバーズ  作者: アリカ&サリリィ
2/10

2.就職先見つかりました

 実質、「最後の晩餐」とも言うべき最終フリーの日……アリカは半分諦め気味で、最後の自由を楽しむ為にシャフトボード……公共用の個人輸送台、棒みたいな乗り物に乗って別の街に向かったの。


 彼女達が住んでいたのは居住区。

 その隣のフロアにあるのが目的地の遊回区……簡単に言えば色んなレクリエーションがある街ね。


 普通に就職して、普通に働いてれば休日があるのでこういう場所に訪れる事は出来るけど……強制就労所に通う者はそんな自由は与えられない……仕方ない事だけど。


「あー……どっかに就職先落ちてないかなぁ」


 そんな事を呟いて……シャフトボードに乗った私の髪を巻き上げる空気の感触を楽しみながら走ってた。



―――――――――――――

シャフトボード

 鉄の棒を曲げて作ったような簡素な作りだけどハイテク技術は満載。抵抗無しで道を走れるし、それ用のルートと安全対策が施されてるから事故は殆ど無いんだ。

 聞いた話だと、反重力なんとか、融気性なんちゃらっていう技術が組み込まれてるんだって。

―――――――――――――



「ブブー!! アナタノ入場ハ許可サレテイマセン」

「んなーーー!?」


 早速の洗礼。

 それも道理……明日から強制就労所に行く人間が遊び惚ける事が出来るなんて有り得無い訳で。

 ……まぁ理由は別にあるんだけど。




 結局アリカは遊回区をぐるりと囲う壁を前にして自分のフラストレーションをぶつける事も出来ないまま……その周囲を散策して暇を潰す事にした。




 分かれた区にはそれぞれ隔壁が存在し、大きな区を囲う隔壁はそのままコロニーの外壁とも繋っていて、それが連なる事でコロニーという集合体が形成されている。

 でももちろんそれだけじゃあコロニーというモノは成り立たないくらい大きな施設。


 それぞれを繋ぐ境界にも街はあるし人が住んでて世界を成り立たせている。

 それは皆が知る事で……アリカも同様に。


 その時は「遊回区の近くなら遊べる施設が有る筈」なんて思って歩いてたっけ。


 汎用区と違って外殻区と呼ばれるそこはシャフトボードが入れない地域。

 仕事をする人達ばかりが来るような場所だから一般乗具は進入不可なんだ。

 幸い犯罪に対しての対策は徹底に次ぐ徹底により撲滅されていて、こんな所でも一人で歩ける世界なんだ。




 人気の少ない道をアリカはキョロキョロと見渡しながら歩き、遊べる場所を探した……ある訳ないのにね。






 でもその何気ない行動が、アリカの運命を大きく変えた。







 その時、ふと目に付いた。


 何気ない視線だったけど。


 古ぼけた風貌、ちょろちょろと錆に塗れた外装を持ったその建物は……手入れも行き届かず放置された様な場所。

 けどその立地に僅かに積まれたガラクタは、昨日今日放り出された様に光り輝いてる……そんな光景が私の好奇心を一突した。


「なんだろうこれ~……」


 恐れを知らないアリカは軽い足取りでその建物の前に立つと……数世代前かな、旧世代の部品や道具が幾つも転がってて彼女の目を惹いた。


「あーあれ学校で見た事があるー!!」


 コロニーを建造・修理する為の道具が目に留まり、ついついはしゃいで……まばらに通りゆく人の変な物を見る視線があったかもしれない……でもそんな事に気付く事も無くアリカはそんな光景をただ楽しんでた。


 その時、ふとその目に一つの看板が映った。


「オウギ・レクリエーション・ラボラトリ……?」


 おバカだからって文字が読めない訳じゃないよ!?


 ……そう書かれた看板の文字をゆるりと目線を動かしながら読み上げると……ふと、その下に、「社員募集中」と書かれた紙が一枚ぶら下がってた。


「社員……募集中ッ!?」


 この時代に紙……でもあまりにも物珍しい旧時代的手法ローテクながらそんな事に全く意を介す事も無く、書かれた文字に目を輝かせ……迷う事無くアリカはその門を叩いた。


「社員になりにきましたーーー!!」

「んなっ、いきなりなんだぁ!?」


 通過儀礼つうかぎれいとか礼儀れいぎとか一切無視して、私……じゃなくてアリカは叩く勢いで扉を開け、乗り込んだ。

 多分これが就職出来なかった理由なんだろうけど。


「……あ? 今社員に成りたい、そう言ったんか……?」


 アリカの目の前に居た人物……それがここ、略して『OR-Lab.』と呼ばれる会社の社長。

 小柄で太目、それでいて大柄な態度……よく言う「博士」みたいな人。


「そのとーり!!」

「おおぉ!?」


 そんな人に大柄さでは負けてないアリカは態度で圧倒……というかその時「彼」は嬉しそうな顔を浮かべてたっけ。

 なんでかって? ……そりゃもう……。


「そうかぁー!! 社員になってくれるかぁー!! ヨッシャヨッシャア!!」

「ヨッシャヨッシャー!!」


 そんな申し出に大喜びで迎える「彼」を見たアリカは一緒に大手を振ってバカ騒ぎ……フフッ、凄く面白かったよ。




 そんな僅かな時間のバカ騒ぎが収まると……冷静になった「彼」が自己紹介してくれた。


「あー紹介しておこう、私の名前は『ヨシヲ=オウギ』だ。 この会社の社長で研究者をやっとる」

「へ~ツーネームなんて珍しいね」

「古い人間だからな」


 この世界において、いわゆる「ツーネーム」……名前と苗字だけの人間は少ない。

 殆どが割り振られたミドルネームを持って生まれてくるのだけど……この人はその制度が生まれる前から生きてる人って事。


「んじゃ今更色々説明も面倒くさいだろうしな、ほれ、さっさと証明書出さんかい」

「ん……証明書……アーーーッ!!」

「なんだァーー!?」


 この時自分のバカさ加減にはほとほと呆れたものだよ……身分証明機器を忘れてたんだから。

 道理で遊回区に入れない訳だよってね。




 こうしてアリカは猛ダッシュで自宅に帰り……夕刻を指して夕方の光景を映す背景の中、再びOR-Lab.へと向かっていった。



―――――――――――――

ヨシヲ=オウギ

 ORLの社長 兼 博士。背は低めで太め。御老体だけど割と元気。

―――――――――――――




 シャフトボードを無造作に乗り捨て、体力の続く限り走った。

 時間切れとかそういうのは無いけれど、ただ無我夢中むがむちゅうだった。

 強制就労所に入れられるのを防ぎたかったという気持ちも強かったけど、自分を受け入れてくれる所があるっていう事が堪らず嬉しかったのだと思う。




「持ってきましたー!!」

「なんだァーー!?」


 夕食を食べていたヨシヲ社長など気遣う事も無く再度突入するアリカについつい驚き……含んでいた物を吹き出してしまっていた。


「エホッ、エホッ……もう少しお前さんは節操というものを学んだらどうかね……ほれ見せてみぃ」


 ヨシヲ社長の言われるままに身分証明機器を取り出し指を触れると……宙にアリカの経歴が連なる様に表示された文が表示された映像が映し出された。


 それを彼が自分の証明機器とリンクさせ情報を抽出しながら文を読んでいくと……元々しかめっ面だった顔がどんどん歪んでいったのがよーく見えた。


「アリカ……随分とまぁ酷い経歴じゃな……悪気無しでここまで凄い経歴なんて相当出来るもんじゃねぇよぉ」

「いやぁ~意識してないんだけどどんどん積み重なってっちゃってね~!」


 意識しないから問題なんじゃないかって当時ヨシヲはそう思ってたらしいよ。

 全く持ってその通りだと思う。

 張本人である私が言うのもなんだけど。


「まぁええわ……やって欲しい仕事は誰でも出来る様なモンだからなぁ……んじゃ、ええか?」

「おっけー!!」


 ヨシヲ社長が相槌を誘うと、アリカは嬉しそうな笑顔を縦に振りそれに応えた。


 この世界において雇用方法は簡単……就職先の担当と証明機器をリンクさせ、上司が承認するだけ。

 彼が社長である以上、彼が認めればその時点で雇用が確定する様になってる。


 つまり、ここでヨシヲ社長が入社を認めれば……私は晴れて明日からの強制就労所出所義務から外れる事に成る訳だ。




 ピッ……


 ヒュゥゥン……




 電子音が鳴り、宙に映し出された画面にあるアリカの経歴に一つの文字が刻まれていく。

 そこに映し出された文字……「オウギ・レクリエーション・ラボラトリ入社」。


 その文字を見たアリカは……浮かばせていた笑顔を見る見るうちに潰した様に歪ませその喜びを最大限に表情で表して……


「やったァーーー!!」


 大声と共に感極まった歓びを体全体で表す様に……体一杯に両手を振り上げた。




 こうしてアリカは、見事強制就労所行きを跳ね除ける事に成功し……大いに湧いたんだ。

 次の日になってちょっとした絶望が待ってるとも知らずにね……。







 家に帰ってスケジューラーから「強制就労所出勤」の文字が消えたのを両親と一緒に喜んだのは今でもしっかり覚えてる。




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