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この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。

雑木林物語

作者:林 たろう
暑い夏の真っ盛りに、学校から帰ると真っ先に家の近くの雑木林に小さなナイフだけを持って駆けて行く。胸が高鳴り、大粒の汗が滴り落ちるが一向に暑さを感じない。雑木林は遊び場の宝庫だった。友人たちと基地を作って戦争ごっこをする。倒れている木を集めて陣地を作り、ナイフで竹を削って弓矢を作り、相手の陣地に矢を放つ。顔にあたろうが怪我をしようが子供たちは全く気にせず瞳をキラキラさせて遊びに没頭する。
真っ赤な太陽が沈み夕焼けも終わる頃友人たちはてんでに帰っていく。しかし悟は帰らなかった。何故ならこれから夜が雑木林が最もいきいきと生に輝くのを知っていたからだった。
母親に怒られるのを承知の上で真っ暗になった秘密基地の中で、悟は足を組んでしゃがみこみ、あの声が聞こえるのを今か、今かと待った。
突然[ホー]と山笛吹いた用な声が聞こえる。[今日こそは捕まえてやるぞ]握りしめた小さなナイフと戦争ごっこをしときには使わなかった、先を尖らせた弓矢を背中に背負って、ゆっくりと音をたてずに秘密基地から抜け出してひとんど四つん這いで声の方に向かって行く。少しずつ、少しずつ声は大きく近くなってくる。悟はほぼ真上の木の上に声の主がいるのを認めた。
一週間位前に偶然その声を聞いてから、その姿を想像して夜も余り眠れなかったのに、実際のその声の主の姿はテレビの上の転がっているだるま人形にほとんどそっくりな鳥だった。余りの間抜けっぷりにクスっと笑った途端に、声の主は鳴くのをやめた。[しまった。気づかれた]と思いつつ気配を一生懸命に消してじっと待った。体のあちこちをやぶかに刺されながら辛抱すること数分。また[ホー]っと鳴き出した。[しめた]と弓矢を用意して月明かりに照らされて浮かび上がっている、そのだるま鳥に狙いを定める。キリキリ弓を引き絞って一気に放つと[ギャー]という鳴き声と共にだるまに見えた鳥が、矢が真ん中に刺さった状態で落ちてきた。
まぐれだった。実際のところホントに弓矢があたるとは思っていなかった。追いかけていた時の高揚感は消えて暗い海に落ちた用な罪悪感が押し寄せてくる。
地面に落ちただるま鳥はビクビクしたあと血を流しながら動かなくなった。余りの事に暗闇の中で悟は泣き出し弓矢をへし折って、その動かなくなっただるま鳥を背中のバッグに入れると、暗闇の雑木林の中を家へと走った。
何回も転びながら家に着くと庭に面した縁側で祖父の英がタバコを吸っていた。悟を見つけるなり、母親を呼ぶこともせず、じっと悟を見下ろす。[
何があったか簡単にいってみ]英に言われて悟は無言で弓矢の刺さっただるま鳥を出して英に見せる。そして一言。[当たっちゃったんだ]
無言の沈黙が数秒過ぎると英は何を思ったかむんずとだるま鳥をつかんで家の奥へと持って行った。慌ててついていこうとすると母親の真海が現れて顔から火が出るほど怒られた。
夕食時になると見慣れぬ鍋が出てきて中でグツグツ何かが煮えている。家は悟と英と真海の三人暮らしだった。父親は数年前に出稼ぎに出たきり行方不明になっている。すると突然。英が[今日は悟が食いもんとってきた。地鶏鍋と洒落込もう]という。真海が何か言おうとするのを遮って英が[命は何があっても粗末にしちゃならん。死んだ鳥にとっては食ってやるのが最高の供養だ。悟、今日は残さず食えよ]
初めて食べた鳥の鍋は薄気味悪くはあったがとても美味だった。その頃には鳥を遊び半分で死なせてしまった罪悪感は多少なりとも癒されていた。英の教育の仕方はいつも実戦的だった。無駄と言える事がほとんど無かった。
小学生の悟に小さなナイフで色々な物を作ることを教えたのも英だった。ヒゴノカミという名前のその小さなナイフは悟にとってはこの上ない宝物だった。木の枝で作るパチンコはいくつ作ったかわからない程だったし、弓矢や竹トンボなども同じくらい作った。
もちろん友達の持っていたファミコンも羨ましかったが、悟にとってはその小さなナイフの方が遥かに大切な物だった。
昨晩の出来事に懲りてはいたが、いつものように学校から帰ると雑木林に走って行った。カサカサなる落ち葉を踏みしめながら小枝と落ち葉を集めて焚き火をする。親に内緒の火遊び悪ガキ達にとっては日常的な遊びだった。もちろん火事の怖さも知っていたのでバケツに水をくんではいた。
苦労して雑木林から竹をかり出してくると竹の表面を焚き火であぶって曲げると両端を紐で縛って弓を作る。矢はその辺りの葦の枯れたのか竹を削って作る。
悟は友達のなかでは弓作りの子供名人だった。友達から作ってくれる様に良く頼まれ、悪い気はしなかったので沢山作った。
他に木を削って木刀も作った。手頃な長さの木の枝を拾ってきて小さなナイフで綺麗に削ると美しい木刀ができた。悟は英から剣道を教わっていたので木刀を使ったチャンバラ遊びではいつも勝っていた。しかし余り相手を負かすと次から遊んで貰えなくなるのでいつも手加減していた。悟はそういう計算ができる子供だった。家に帰ると英気まぐれで将棋の相手もした。
最初ちんぷんかんぷんだった将棋は悟が小学校を卒業する頃には英とほぼ互角に指せる所までになった。英は悟にとって父親以上の存在であると同時に遊びも含めたこの上ない師匠だった。
そんな英の教育をうけながら悟は中学三年生になっていた。母親の真海は悟を大学までいかせるつもりだったが悟は高校にはいかずに働くつもりだった。思春期真っ盛りの悟にとって学校生活は檻の中に閉じ込められた様なものだった。勉強は標準以上にできていたが、悟にとってはそんな事より早く自由の身になる事の方が重要だった。親の心、子知らずで悟は高校受験を拒否した。
16歳で近くの木工所に就職すると悟は一心不乱に働いた。仕事を覚えるのは早く、二年で現場責任者になった。そんな18歳の夏に英が突然ころりと死んだ。
原因は心臓発作で死ぬ直前まで元気だったので悟は何が起こったのかすぐには理解できなかった。英は最後に一言[悟、、]とだけ言った事から、最後まで悟の事を心配していた様だった。
それから丁度一年後に真海は知らない男を家に連れてきて、その男と結婚するつもりだと言った。悟は家を出ようと思っていた所だったのでこれ幸いと快諾した。
二十歳の冬に悟は1人の女の子と付き合うようになった。あの雑木林で遊んでいた幼馴染みで名前は晶と言った。二十歳の誕生会友人達と集まった時に偶然再会したのだった。
初め悟は晶が誰か全く覚えていなかったが[あの雑木林の戦争ごっこ楽しかったなあ]という言葉で思いだし、その話で意気投合して付き合う事になったのだった。
父子家庭の晶は料理が上手で物を大切にするこだった。台所で晶が使う包丁は、亡くなった祖母がくれた銘入りの和包丁で12歳の頃から使っていて、祖母が使っていた期間と合わせると三十年以上になる品だった。初めて晶の手料理をご馳走になった時に、晶が[私の宝物なの]と言って見せてくれたのだった。職業柄刃こぼれを見つけた悟はその場でその包丁を研ぎ直してあげたのだった。晶は[どんな贈り物より嬉しい!]と目を輝かせて悟に抱きついてきたのだった。
悟にも宝物があった。それは小さい時に英がくれたヒゴノカミだった。実家を出るときに部屋の片付けをしていたら小さなアルミ箱から偶然でてきたのだった。情けないほどに錆び付いていたが専門の技術でメンテナンスをしたところ、買った時とほぼ同じ状態にでき、それからは肌身離さず持っていたのだった。

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