新世界の治癒の魔術士(6)
「それで、なんで俺らはこんな覗きみたいなことを」
「だって寝れないですし! 見ておきたいじゃないですか。私たちの敵!」
「お前少し楽しそうじゃないか?」
「そ、そんなこと! 別に敵とかわくわく、とかこんな夜ふかし初めてでわくわく、とか思ってないです!」
「ああ。丁寧な説明ありがとう」
ドゥーグの家の小窓から外を覗き、敵を待ち構えるドゥーグを見守るハーミリアとベイン。
だが、変化のない外の雰囲気にハーミリアは飽き始めていた。
「ふわあぁ。寝ます?」
「お前が言うか! はあ。まあそうだな。待ってても仕方……っ!」
突然、外に立つドゥーグが武器を構えた。それはつまり敵が現れたという事だ。
現れたその敵のあまりの禍々しい姿にハーミリアは言葉を失い、ただ目を見開く事しか出来ずにいる。
一言で言えば黒い鉱石の塊。
どこまでも深く黒い鉱石のような人型の何かが、二足歩行で現れたのだ。
ただ、言葉の通り鉱石のような何かの塊であり人の形はしているがその姿はゴツゴツとしている。
「ベインさん……なんですか、あれ」
「俺が知るか。むしろ魔術かなんかだろあれ。俺にお前が教えるべきだろ」
「生き物……なんですかね」
「生き物の定義ってのがよくわからねぇが、あれは人形みたいなもんに見えるがな」
「あ、それちょっとわかります」
ドゥーグへとゆっくり近付くその何かの動きは上から糸で操られるかのようにカタカタとしている。
自分で歩を進める、というより何者かに動かされているように見えるのだ。
だが、何か様子がおかしい。
「なんかドゥーグさんキツそうじゃないか?」
「防戦一方って感じですね。やっぱり力を貸しましょう!」
「元々起きてられるんだったらそうするべきだったろ」
ドゥーグの家から2人は飛び出し手助けに入る。
「私じゃ頼りないかもですけど」
「オマエェェエェ……ユルゥ?サナ……イィィ?」
「ひっ! なんかこっち見てませ────」
「ハーミリアっ!」
ベインは突然ハーミリアへと襲い掛かる怪物の前へと割り込み、怪物がハーミリアへと向けた手を剣で抑える。
ドゥーグは目を見開き、怪物の変化に戸惑う。
「今その野郎……喋りやがったのか?」
「何を言ってたか聞こえなかったけど、多分そうっすね」
「え? まさか今まで1度も?」
「ああ。そいつが言葉を発した試しなんか1度もねぇ。いったいどうなってやがんだ。」
「そうなんすか。まぁとりあえず今どうするかを決めますかね!」
右足を踏み込み、力を入れ直し怪物を押し返すベイン。
即座にドゥーグが大剣で追撃を仕掛けるが、それをひらりと躱し怪物も体勢を立て直す。
「やっぱりなんかおかしいなぁ、今日の野郎は。あいつは過去に一度たりとも俺の攻撃を避けたりもしなかった。どういう風の吹き回しだ」
「ハーミリアになにかあるのか? そんな事よりあれの対策ってなんですか? バラバラにするとか」
「バラバラだァ……? カァッ。バラバラにする前に元に戻っちまうからそんなん叶いやしねぇよ! 朝が来れば自然とどこかへ帰る。それまで凌ぐ、それだけだ」
「俺らがきたって出来るのは防戦だけ、ってことすか」
「まあ今度ばかしはハーミリアもいる。危険がない程度に色々試してみるか!」
ドゥーグは大剣を深く地面へと突き刺し、両拳を強く握りしめ唸り始める。
その体は少し血が浮き赤く光り、蒸気を放つ。
「ちょ、ちょ。ドゥーグさんから湯気出てますよ!」
「ふうぅぅ……ん。俺のわかる魔術の中でもちょっとばかり老体に堪えるもん使ってみただけだ。なぁに、気にすんな」
地面に刺していた大剣をドゥーグが抜くのを合図にするように怪物は爪を立てドゥーグの胸元へと突き刺そうとするが、魔術の強化により硬質化したドゥーグの皮膚にはその爪は通らない。
大剣を振り上げ、それを力の限り振り下ろす。
「粉……砕っ!」
大剣の当たった部分だけでなく、胴体のほとんどが粉々に砕け散り、形を保ったのは腕と足だけだった。
「あぁん?」
だが、少しずつ元の形へと復元を始める怪物。
その復元速度は尋常じゃなくまだ細々としているが、充分な人の形へと戻っていた。
「ならおめェが治るより早く粉々にすんだけだァ! ベイン。ちぃと力貸せやァ……」
「俺でも貸せる力があんなら……っ」
「私のわかる補助の魔術です! 微々たるものかもしれませんけど、私だって役に立ちます!」
「そうだな、子猫から猫に成長したくらいには強くなれた気がするよ」
「それ褒めてませんよね!」
「褒めてる褒めてる。前のお前はもっと何も出来なかったろ」
「褒めるどころか無意味に傷つけられています!」
「これ終わったらジュース奢ってやるから今は黙ってろ!」
「わかりました! 全部水に流してあげましょう!」
なんて単純で、たんて安い女なんだろう。
ハーミリアは精一杯強化の魔術をベインへと集中させる。
「いけるかァ? ベイィン……」
「出来るだけサポートしてみせますよ」
そして、始めるハーミリアにとって最も長い一夜が────。




