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ハーミリアの魔術譚  作者: 茅野 遼河
2/6

新世界の治癒の魔術士(2)

「直すって……お前に出来るのか?ハーミリア。」

「あ、いや……。」

勢いで言い出してしまったが、魔術士である事を隠している以上どう説明するかに戸惑うハーミリア。

「(剣に興味があるから?それは直せる理由にならないし、この剣じゃなくてもいいよね。ベインさんの仕事を手伝いたい?不自然にも程があるよね。何か……いい理由。)」

「ほら、直せないなら返してすぐ帰れ。もう遅いんだから。」

「っ!い、いいんですか?こここんな暗い時間ですよ?剣を取り返そうとしたら私……大声あげます。(これじゃあ脅迫だよ!!!)」

「なっ。お前そんなキャラだったか?」

ベインから少し冷たい目線を向けられて落ち着き始めるハーミリア。

「こ、これはそのテンパっただけで。本当はもしかしたらやりたい事を見つける鍵になるかもと思ったんです!(自然!すごく自然!)」

「……そうか。じゃあ、明日持ってこい。一応急ぎの品だからな。無理だったらすぐに返しに来い。」

「はい。」

ハーミリアは剣を袋に包んでもらいそれを肩からかける。

「後、どうしたんだその猫。」

「え!?」

路地裏にいた猫が後ろをつけて来ていた事に全く気付かなかったハーミリアは驚き、一歩後ろに身を引く。

それにまた近づくように猫に顔を擦りつけられ反応に困るハーミリア。

「気に入られたんじゃないか?ペット大丈夫なんだろ?一旦連れ帰ったらどうだ?」

「うーん。追い払うのもアレですよね。」

ハーミリアは猫を抱き上げ、ベインにお辞儀をして帰ろうとしてすぐに転びそうになる。

恥ずかしそうにチラッとベインを見てから小走りで帰る姿はまだまだ少女である。

「まったく……頼りない奴だな。」


×××


「はぁ...大変だったぁ...。」

家に着くなり両親から質問攻めにあったハーミリアはヘトヘトに疲れきりベッドに飛び込んだ。

そんな目に合うのも仕方がない。一人娘が突然、武器の入った大きな袋と猫を夜遅くに持ち帰ってきたら「何があった!?」と驚くのも無理はない。

「直させてなんて言っちゃったけど...どうしよう、これ。」

ハーミリアは治した事は数えきれぬ程あっても、直した事は一度もないのだ。

魔術とは、体内に存在するマジルギーを魔術文字へと変換し、それを多種多様な組み合わせで一つの魔術として魔術士は扱う。

しかし、魔術文字とは古代文字のようなものでそれを実際に読める魔術士なんてほんの一握りしか存在しない。つまり魔術を扱う原理こそわかっていても、実際は魔術士たちの経験と閃きによるものなのだ。

それは同じ魔術でも別の人間が使えば全く違う魔術の可能性もある、という事にも繋がる。

「考えてたって仕方ないよね。まずは普段傷を治す魔術を使ってみて……。」


────数時間後。


「直っちゃった...。昔っからだけど私魔術文字が読めてる気がするんだよね。気のせいかな。とりあえず剣は直ったし、出来るだけ早く返しに行けるようもう寝よっか。」

直した剣を机に置き、寝る支度を始めるハーミリア。

「あ、猫ちゃんも一緒に寝る?」

「ニャァ。」

「寝るって事でいいのかな。」

聞いてみたって猫の言ってる事なんて全くわからないハーミリアは、少し慎重に猫を抱き上げ一緒に布団の中で横になる。

「おやすみ……。」


×××


「これ...本当にお前が直したのか!?」

朝からベインの鍛治屋から放たれた大声は街に響き渡る程のものだった。

「しーっ!まだ寝てる人がいるかもしれないんですから、もう少し静かにしてください。」

「あ...コホンッ。それで本当にお前が直したのか?」

「そうですよ。この街で剣を直せるのってベインさんくらいですよ?ズルのしようがないです。」

ベイン自身もそんなことはわかっていたが信じられないのも無理はなく、ハーミリアのその修正はあまりにも精密なもので、完璧以外に言うことがない。

それどころか、この剣の状態はもはや修正ではなく生成の域だった。壊れていた物を直したのではなく、ゼロから新しい物を作り出した、と言っても過言ではない仕上がりを、鍛治の経験があるわけでもない少女が一晩で仕上げてしまうのだから、ベインからしてみれば夢でも見ている気分だろう。

これほどの仕上がりは熟練の鍛治職人がいくら時間をかけたとしても程遠い。

「何度見ても驚かされるな。魔術ってやつには。」

「え...?」

「あ...。そういえば、やりたいことは見つかったか?」

振り返って話をそらそうとするベインの肩を、ハーミリアは後ろからガッチリと掴み冷たい目で

「それは無理がありますよ。」と、呟くとベインも諦めて「ですよね。」と返すだけだった。


「ええええええええええええええっ!?ベインさんは知ってたんですか!?」

「バカっ!声がでかい!」

ハーミリアを壁に押し付け、口を押さえる構図に自然となってしまった。

「この状況、第三者から見たら間違いなくベインさんはロリコン性犯罪者ですよね。」

「お前、そういうキャラじゃないだろ。」

「冗談ですよ。でも、その反応見た感じ他の人は知らないんですね。」

「さっきも説明した通りだ。俺とソフィアは幼なじみで兄弟みたいなもんだったのは知ってるだろ?それでたまたま知っただけだ。ハーミリアのことも知ってるのはソフィアから聞いたからで。」

ソフィアとベインは年齢は三つ違うが、家が近く両親の仲が良いため昼間はよく二人でいたのだ。ハーミリアもソフィアと一年しか変わらないため二歳から、ソフィアとの面識こそあれど家の近辺でしか行動しないベインと知り合うのは、その数年後のことになる。

その際、たまたまソフィアの魔術を見てしまったベインに「もう一人使える子がいるよ。」と紹介されたのがハーミリアだった。

その直後ソフィアの母に口止めをされ、ベインが魔術について知ってることハーミリアは知らされていなかったのだ。

「じゃあ剣も返しましたし、帰りますね。」

「ああ。それとこの前のノート。あれは正真正銘、お前の...。正確にはソフィアからハーミリアがどうするかに悩んでたら渡してくれって頼まれてたもんだ。」

「ソフィアが!?」




数年前この街にいた魔術士ソフィアがハーミリアに残した一冊のノート。これが彼女が経験する大冒険のきっかけとなる。

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