第2話 世界を変える男と世界を変えた少女 中編 ~People will talk~
1週間も投稿遅れ、前後編詐欺、内容短め、お許しください。
旅行で東北の方へ行っておりまして……。
篠本 憂の存在は長い間公には知らされていなかった。もちろん、人とかかわっていないわけではないので、2chでにわかに騒がれてはいたが、特に注目を浴びることはなかった。
故に彼女は、蓼園 肇の庇護を受けながら、平穏で明るい毎日を暮らしていた。
ところがそれは、とある小さな事件がきっかけで崩れることになる。当時、ニュースを見ていた者ならば少しは耳に聞き入れたことだろう。
「蓼園市猫連続殺害事件」である。
概要は題名通りなのでいちいち語る必要はあるまい。
犯人は立花 憂が通う私立蓼園学園高等部の2年生であった。記者たちは個人情報を秘匿したが、ネットには犯人である少年の個人情報が流出し、学園の自由を尊重する方針は放任主義として裏目に出ている、という批判が学園に殺到した。TVでは、とあるふくよかなニューハーフの芸能人と毒舌芸人として名高い男性タレントの二人がトークするバラエティ番組にて、この話題に対して学園を鮮烈に批判し、話題を沸騰させた。
この事態を承けて学園は、今まで立花 憂の存在を公にしないためにかたくなに断ってきたTV局の取材に応じ、猫の事件にまつわる悪い印象を払拭しようと試みた。
蓼園グループ各社が、その番組のために最大限の寄付をしたのももそういった意図が絡んでいた。
立花 憂は、TV局の取材の日に休むことになった。如何せん彼女は目立ちすぎるからである。養護施設の出であり、総帥と呼ばれる男の援助を受けていて、ダメ押しとばかりに男女問わずに人の目を引き付ける美少女と三拍子そろっていれば、確かに目立ちすぎるだろう。
撮影は順調に進行し、何事もなく終わるはずだった。
ところが、最後の最後に予想外の事態が起こってしまう。
————番組の一番最後に、学園のアイドルとして立花 憂の後ろ姿と思わしき映像が流れたのだ。
ネットというものは普段それを使わないものには考えられないくらい恐ろしく早く情報を特定し、拡散していく。その様はまるで水面に波紋が広まるようであり、一度流された情報は二度と完全に消すことが出来ないのは純白のドレスにワインをぶちまけるかのようだ。
番組が放送された後、2chで今まで隠されていた立花 憂の画像が大量に拡散された。
この事態に動いたのが立花 憂の友人たちだった。彼らは写真を拡散しないようSNSの様々なところで呼びかけた。
この子の友人としてお願いがあります。この子をそっとしてあげて下さい。この子は学園のアイドルになりたくてなっている訳ではありません。
この子は障がいを負っているのです。それでも頑張るその姿がご覧の通りの容姿と相まって、アイドルに祭り上げられているだけなのです。
この子は平穏を望んでいます。晒し者にしてあげないで下さい。どうかよろしくお願いします。
この呟きに、拡散させた者たちは心を動かされ、次々と立花 憂の画像を削除し始めた。逆に、それでもなお画像の拡散をやめない者は炎上し、曝しあげられた。
『障がい』、『晒し者』。この二つの言葉を堂々と公言したことで、良心に訴えかけたのがうまくいったのだ。
世の中には、全く理不尽な理由でその素顔や名前、年齢などを世間に公開されることはそう珍しくもない。とある男性が、ゲイビデオに出演していただけなのに今や動画投稿サイトに彼の顔や体、動作などを切り取られて面白おかしく加工されてしまい、外を出歩けなくなったという話もある。
そういう実例があるため、ネットの心無い悪行から立花 憂を守ろうと人々が結束したのである。
世間に存在が広まってしまったものの、周囲の大人や友人の働きにより、立花 憂は前と変わらない平穏な日常を過ごせていた。これまでよりも立花 憂の周囲に警戒する必要はあったのだが、それでもこの平和が崩れることはないだろう、
———————そう思っていた。
そんな儚いものは簡単にぶち壊されてしまうということも忘れて—――――――。
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