新しいカーテンは何色がいいだろう?
「私達、ずっと一緒よね?」
「誰のどんな言葉も、私達を引き裂く事は出来ない」
2人は繋いでいる手を改めて握り締め、厳かに口を開いた。
「誓います」
「誓うわ」
互いに目を閉じて、優しく額を合わせる。
「・・・大好き」
「私も、大好きだよ」
夕暮れの教室、橙色に染まったカーテンの中で交わされた密約は、ほの甘い口付けで締結された。
それから数年、違う仕事に就いた今でも、2人は常に連絡を取り合っていた。
端から見ればただの仲の良い友達同士。
しかし、実際は人には言えない秘密の関係だ。
久しぶりのデートとあって、何だか落ち着かない。
待ち合わせ場所に着いて周囲を見渡し、まだ相手が来ていない事を確認すると、バッグから鏡を取り出してメイクや髪型に崩れがないかチェックする。
それから、スマホの着信メールを確認して、思わず緩みそうになる口元を押し隠すその姿は、何の変哲もない群集の中で見かけるカップルの待ち合わせと特別変わりはない。
ただひとつ、違う事があるとすれば、彼女の待ち合わせ相手も女性であるという事だけだ。
「ちょっと早く着き過ぎちゃった。そろそろ来るかな・・・」
小さく漏れた独り言も、恋人との待ち合わせに胸を膨らませる恋人同士のそれだ。
「・・・あっ!」
遠くに恋人を見つけ、思わず小さな声を上げてから、相手が気付く様に大きく手を振る。
「ごめん!待ったよね?」
そう言って走って来た彼女に、そんな事ないよ、と笑って見せる。
それから、どちらからともなく自然と手を繋いで歩き出した。
「今日は暑かったね」
「うん、空調効いてる建物の中は良かったんだけど、やっぱり外はねー」
夜の雑踏の中を進み、2人は待ち合わせた駅から徒歩で約20分のマンションへ向かう。
「何か食べたい物ある?」
「うーん、特にないかな・・・簡単な物でいいよ」
「そっかー・・・じゃあ、適当にある物でいい?」
「うん、お任せで」
友達との会話と、恋人同士の会話。
話す内容は同じでも、やはり言葉の温度が違う。
「そうそう。昨日、職場の新人君が『今日デートなんすよー』とか言って彼女の写真を自慢気に見せてくれたんだけどさ、それが明らかに盛ってて、思わず『スッピン見た事ある?』って聞きそうになった」
「聞かなかったの?」
「いや、聞いたら可哀想だと思って」
「聞いちゃえば良かったのに」
「だってもし本当は新人君だけが付き合ってると思い込んでるんだったら、かける言葉もないし・・・後のフォローが面倒じゃない?」
「あー・・・成る程」
「私の彼女の方が可愛いよ、って自慢しても良かったんだけど、それは困るでしょ?」
「それはまだダメだからね?」
「分かってるよ、カミングアウトするまでは内緒だって」
そう言うと、繋いでいた手を持ち上げて口付けた。
「もう、誰か見てたら・・・」
「大丈夫、夜の住宅街だから誰もいないよ」
それでも困ったように眉尻が下がったままの恋人を見て、ひとつ大きく深呼吸をすると、真剣な面持ちで向き直る。
「・・・何?」
ただならぬ空気を感じ取って、彼女も心構えをしてから問う。
「いっそ、世田谷で一緒に住まない?」
「え・・・それって・・・」
どういう事?という言葉の続きは、不意に抱き締められた腕の中に吸い込まれて消えた。
「・・・ごめん、もうちょっとちゃんとした形で言いたかったんだけど」
「つまり、えっと・・・その・・・」
抱き合った身体から感じる、互いの鼓動の速さ。
「うん・・・結婚しよう」
「・・・うん!」
これから先、たくさんの障害が2人に立ちはだかるとしても、あの日交わした約束は、そう遠くない未来にはペアリングとなって彼女達を祝福するだろう。




