すし。
転生者『これが“すし”だよ!』
異世界人『魚を生で食べると、こんなにうまいなんて!
しかも、魚にこんな種類があったとは……!
さすなろ!』
NIOさん「……は?(憤怒)」
「よ、よくぞ私を倒したな、勇者よ。
しかしこの私、『海のシオカラーイ』は四天王の中で最弱……四天王の面汚しよ……ガクッ」
旅を始めて一年が経ち。
なろ主は遂に、四天王の一角を崩しました。
素晴らしい快挙です!
「はあっ、はあっ……なんとか倒したぞ!」
息を切らして仰向けに倒れ込むなろ主。
本当に強くなりましたね。
自分のことのように嬉しいです。
「終止圧倒してましたね。
さすなろ!」
「いやいや、奴隷ちゃんも、本当に強くなったよ……ていうかその魔法、どこで覚えたの?」
「前の中ボスが使ったのを見よう見まねで……」
「て、天才か!?」
なろ主が私を誉めてくれます。
嬉しくって、ちょっとこしょばいけど、ここで満足しててはいけません。
『かってかぶとの おをしめよ』
なろ主が言っていた辺境の村『ニホン』のことわざを思い出して、私は自分のほっぺたを両手で叩きました。
……痛いです。
私が一人でそんなことをしていると。
何を思ったのか、地面に倒れこんでいたなろ主は、突然がばりと起き上がって。
「よ~し、今日は、お目出度い日本料理にしよう!
ちょうどココは海だし、魚を取って、アレを作ろう!」
そんな言葉を発しました。
多分私を労ってくれているのだとは思いますが。
……どうせなら、ニホン料理以外が良いです。
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なろ主が、生魚の切り身を丁寧に切り分け、『す』とか言う調味料で味付けされた『はくまい』にくっつけています。
くっつける部分に塗ってる緑色の物体は、ニカワみたいなものでしょうか?
なろ主の一連の動作はまるで職人で、目の前でリズミカルに握られていく一口大の『さかなとはくまい』は、見ている分にはとても綺麗でした。
あくまで、『見ている分には』、ですが。
「これは、寿司っていうんだ。
ほら、右から『サケ』『サバ』『アジ』『イカ』『タラ』だよ。
まだまだ、どんどん握るね」
聞いたことのない魚の名前を連呼するなろ主ですが。
私にはそれが『アニサキス』『アニサキス』『アニサキス』『アニサキス』『アニサキス』にしか見えません。
でも、少しだけ安心しました。
なろ主なら、「フグの刺身だよ~」とか言う可能性もありましたから。
……なあんて。
流石の『ニホン料理』でも、フグは食べないですよね。
「ご飯の上に、生のおさかな……ですか」
げっそりする私に、なろ主は
いつもの言葉をかけます。
「まあまあ、だまされたと思って」
うんざりしながら、ふと目を移すと。
オレンジ色のプチプチとした宝石箱みたいな『すし』が目に入りました。
「あれ?
このまるいプチプチ、きれい……」
「ん、それはイクラの軍艦巻きだね」
生々しい『すし』の中で、一つだけメルヘンな物を見つけました。
よ、よ~し。
「う……ううう~!
え~い、ままよ!!(パクッ)」
口の中に広がる、磯の生臭さ。
プチプチと弾けた宝石からは、ねばねばした液体がどろどろと流れ出してきます。
思ったのと、全然違う味です。
もっと可愛い味を想像していた私がバカでした。
込み上げる胃酸ごと宝石箱を飲み込みます。
「お、おえ~!!
何ですかこれ?」
「魚の卵だよー」
あまりにもあまりな発言に、それは、自然と出た言葉、でした。
「死ね! なろ主死ね!!」
「死……!?」
流石に酷い仕打ちだったので、私は『すし』完全拒否しました。
なろ主は、自分で握った二人分の『すし』を一人で食べて苦しそうにしていますが、自業自得です。
……ちょっと可哀想なこと、しましたかね?
……いえいえ、たまにはコレくらいやらないと!
あ、でも、卵焼きの『すし』は美味しかったです。
だからNIOさんはお寿司も好きなんだってば!




