おにぎり。
転生者『これが“お握り”だよ!』
異世界人『んん!
白米がホクホクで、中と“ウメボシ”の塩っ辛さと良く合う!
この、“ノリ”とかいうヤツもパリパリして美味しい!
さすなろ!』
NIOさん「……は?(立腹)」
勇者様であるなろ主のお仕事は、もちろん魔王征伐なわけですが。
まだまだ力が足りないので、近隣を脅かす魔物を狩ることで経験値を貯めて、魔王城へ一歩ずつ進んでいくつもりなんだそうです。
なろ主のレベルが低いと言うのは、ある意味チャンスです。
私もなろ主をサポート出来るくらい、強くならなくちゃいけませんね!
というわけでここは『はじまりのむら』から数十キロ離れた草原のど真ん中。
村を襲うゴブリンの住み処まではまだ道半ば、といったところでしょうか。
出来れば今日中に『やわらか森』の入り口までは進んでおきたいですね。
そんな私の考えを知ってか知らずか、なろ主が声を掛けたのでした。
「ちょっと休憩しよう、奴隷ちゃん。
『腹が減っては戦はできぬ』っていうし」
『はらがへってはいくさはできぬ』
お腹が空いてたら戦えないと言う辺境の村『ニホン』のことわざだそうです。
このことわざ自体には激しく同意します。
激しく同意しますが……。
「出来たぞ奴隷ちゃん。
日本料理の『お握り』だ!」
……やっぱりなろ主、ニホン料理をぶっ込んできた……。
「な、なろ主……なんですかコレ……石炭にしか見えませんけど……?」
「見た目は悪いけど、これは海苔って言って、海草を加工したものなんだ。
ほら、食べてみて」
「か、海草を加工したもの?
海草って、海のゴミですよね?
『ニホン』ではそんな物食べるんですか!?」
海草なんて、食べても下痢するだけです。
『ニホン』は一体どれほど貧しい村なのでしょうか……。
「陸の恵みの『ごはん』を、海の恵みの『海苔』で包んだ日本人のソウルフード、『お握り』。
……良いから、騙されたと思って」
また出ました、『騙されたと思って』。
こちらの拒否する気持ちを根こそぎ奪う、魔法の呪文です。
「う……ううう~!
え~い、ままよ!!(パクッ)」
「……ど、どうかな?」
「……お、おぇ~!
黒い紙が喉に張り付いて気持ち悪い!
最初、一瞬だけ『パリッ』としているから騙されそうになるけど、その数秒後に海草に戻ってるじゃないですか!」
「え、あれ?」
「しかも、この、なかに入ってる赤い実、信じられないくらいしょっぱい!
な、なんですかコレ!?」
「ああ、それは梅干しだよ。
『梅はその日の難逃れ』と言って……」
「はあぁぁ!? 梅!? あの、木の実の、梅!?」
「え、え。
うん、そう、だけど」
なろ主は何でもないことのように言っていますが。
梅の実には……青酸配糖体という毒が入っています。
つまり、これは確実に……私を殺しに来ています。
「……わ、私を、ころすんですね?
わ、私は……そんなになろ主を傷つけていたんですね?」
あまりの出来事に、涙が次から次にぽろぽろと溢れてきます。
確かに、『ニホン料理』に関してはボロクソに言ってましたが、だからって毒殺するくらい憎まれていたなんて……。
「なら、申し訳ありませんけど、ここでお別れです……大丈夫、なろ主はきっと立派な勇者様なれます……。
さよならッ!」
「な、なんで突然死のうとしてるの!?」
私が自身の喉元に突き付けた刃物を、なろ主が驚いた顔で奪い取ります。
因みにこの誤解は、梅酒を飲むまでちゃんと解けることはありませんでした。
お握りも梅干しもクソ不味かったけど、梅酒は美味しかったです。
もちろんNIOさんはお握りスキー。




