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三方ヶ原の合戦後

今回は織田信勝について書いてみました。不定期更新になる事は確定です。

気が向いたらまた、書き始めます。

1573年4/20


「うむ。武田についてじゃ。何か策がある者はおらんか?」


家臣達より一段高い場所に座る織田信長が言った。手に持つ閉じた扇子で畳を叩いてることから大変機嫌が悪いと判断出来る。家臣達は長年にわたる経験から勘づいていた。下手な事を言えば、マズイ。


「お館様、もう一度三河守様に援軍を送るべきかと。」


「柴田殿、援軍を送ること当たり前ですぞ!援軍を送ったとしても武田に対抗出来るかどうか...。」


柴田勝家の発言に意を唱えたのは丹羽長秀である。柴田と丹羽は家臣達の中でも上位に位置する。


1573年1月に武田軍と徳川織田連合軍の合戦があった。結果は武田軍の勝利であった。これは三方ヶ原の合戦である。この合戦で武田軍が勢い付き、織田信長の同盟相手の徳川家康は風前の灯火になった。


織田包囲網が形成されており、広大な領地を持つ織田家は大軍が動かせなかった。兵力を分散させる必要があるからだ。嘗ての同盟相手浅井家と朝倉家の対応の為、近江に戦力を置く必要がある。東から迫ってくる武田軍に大軍を差し向ける事は不可能であった。近江の戦力を動かせば、浅井朝倉軍が近江を占領してしまうかもしれない。


近江が取られては京へのルートが確保出来ない。事実上、京から追い出された事になってしまう。折角手に入れた京をみすみす手離すことはしたくない。だが、現実は難しい。武田軍を退けないと、本拠地尾張と美濃が危うい。だから、家臣達に意見を求めたのだ。


「猿、貴様どうだ?」


「大軍を動かせたとしても、我が軍に損害があれば、敵国に時間を与えてします。」


猿、後の豊臣秀吉だ。8月から羽柴秀吉と名乗るようになる。


「お待ちください!!」


「お館様がいらっしゃいます!!」


外で侍女や従者達の騒ぎ声が部屋の中にいる者達にも聞こえた。あり得ないことだ。大切な会議中に外で騒いでいる。苛立っている武士達に斬られても文句は言えまい。


部屋に鶯の鳴き声が段々近づいてきた。時折、鳴き声が消えると障子を開ける微かな音がする。そして、すぐに鳴き出す。床を歩くと鶯の鳴き声が消える仕組みになっている。誰かが来たことを伝える為だ。いつ、殺されるかわからない戦国時代からこそ多く屋敷で用いられている。


鶯の声を知らならない大人はいないだろう。鳴き声を出している人物は子供の可能性が高い。家臣達に冷や汗が流れ出た。自分の子供なら自分が罰を受ける事になるからだ。また、悲しい事に大きくなる鳴き声と共に小さな子供が走る足跡も聞こえて来た。侍女、従者が強引な行為が出来ないから位が高い子息だと誰もがわかってしまった。


家臣達が外の音に気を取られている時、織田信長が鞘から刀を抜いて立ち上がった。視線は廊下と部屋を隔てる障子に向かっていた。鳴き声の主はそこから入ってくると考えられる。鳴き声が信長達がいる部屋の前で止まった。


「誰だ!」


(まあ、こんなことする奴は一人しかおらんがな!)


「ぉよ?......おだおつぎまる。」


家臣達はその名を聞いてホッとした。自分の子供ではなく、織田信長四男だったからだ。


「姿を見せィィ!!」


(やはりか。)


ただ、主君信長の機嫌は沸点に達していた。これからの対策を考えが纏まらず、イライラしていたからだ。息子でも蹴りの1発くらいお見舞いしなければ気が済まない。嫡男でない四男なんてどうでもよかったのかもしれない。


「はーい。」


間抜けた返事をしながら障子が開けた。


「何用じゃ。」


「モグモグ......。みんな、うつけ。」


右手に握り拳サイズおにぎりを持ちながら言った。一瞬、時が止まった静けさが漂った。


「........。もう一度申せ。」


(こ、こやつ、儂を全く恐れておらんな。だが、先程の言葉は許せん。)


「モグモグ......。うつけ。モグモグ......。」


父織田信長に指を差しながら失礼極まりない態度で再び言い放った。家臣団は早く逃げろと言う視線を送っていた。ここまでコケにされて織田信長が黙って返すはずが無いからだ。織田信長はゆっくりと於継丸に向かって歩き始めていた。


「お、お待ちください!お館様!」


織田信長と於次丸の間に若い青年が入った。怒りが最高点になっている織田信長の行動を止めようとする事は自殺行為だ。しかし、この青年はそれが許される立場でもある。つい最近元服したばかりの織田信長嫡男、織田信忠だ。織田家次期当主。だから、特別なのだ。


会議に参加している信忠は弟の於次丸がさも平然と乱入し、暴言を吐いた事に失神しそうであった。生まれた頃から、変わった行動が目立っていたが、ここまでやるとは思わなかったのだ。織田信長次男、三男、信忠の弟達は、養子に出され織田家本拠地にいない。18歳の信忠は4歳於次丸を生まれた時から知っている。兄弟仲も至って良好であった。が、勝手に屋敷を頻繁に抜け出す於次丸に大層手を焼いていたもの事実である。


「なんじゃ。そこを退け。」


「父上。会議の目的を御考えください。於次丸を追い出すことではないと考えます。」


信忠は目の前に立つ信長に言った。色々と突っ込みどころがあるコメントだが......。信忠は織田信長なら、一度意見を求めると確信していた。自分の父上の性格はある程度把握していた。


「先程の会議では一切何も申さなかったお主が何を言う。」


「何しろ始めての試みとなる為、戸惑っていました。」


「なら、申せ。」


信長は自分の子供に向けてるべきでない殺気のこもった視線を向けた。


「はっ!武田への戦術として種子島を用いる戦術がよろしいかと。3人1組で」


「全て言わぬともよい!お主が考えたのか?」


(儂と同じ策を練るはずがない。信忠はうつけでないかのぉ。なら、誰じゃ?......。うーむ。昔の儂と同じ人を小馬鹿にする目の於次丸か......。まさか....な..。)


信長は兄の横で胡座をかいて座っている於次丸を見ていた。信長は驚いていたのだ。自分に敬意すら持っていない事は目を見ればわかった。信長がうつけと呼ばれていた時代の面影が何処と無く似ていたからだ。


於次丸は今川義元を討つ策が思いついた自分の顔と同じであった。絶体絶命な状況でもこれから起こす事を考えるだけでもワクワクする。この小さな子供は楽しんでいる。織田信長が自分に危害を加えないとわかっているのだ。なぜなら、織田信長の好奇心は怒りよりも勝るからだ。


「い、いえ......。於次丸が考えたことです。」


信忠は信長の目を直視して言い訳ができなかった。多くの家臣団は信忠の策が理解できなかった。信長は種子島を使う結論に達していたが始めての為、実行するか内心迷っていたのだ。


「若様、於次丸様はまだ幼く、元服すらしていませんぞ。」


そんな中横から口を挟む人物がいた。織田家家老の柴田勝家であった。但し、残念な事に信長の耳には入っていなかった。筆頭家老なのに......。


「於次丸、お主は戻れ。」


(儂の意思を継ぐ者が四男とは......。ふふ、はははっは。仏は面白いことをするのぉー。)


信長からイライラはなくなっていた。事の重大さに信長はここで話すべきでないと考えたのだ。偽の情報かもしれないが5歳児の行動範囲はしれている。


於次丸が部屋から侍女達に連れ出され、信長は元の上座に腰を下ろした。信忠も元の位置に戻っていた。



「キンカン。貴様が彼奴(おつぎまる)の筆頭家老じゃ。好きな奴を連れて行け。」


信長は於次丸の先程の行動を終始観察していたキンカンに決めた。キンカンと呼ばれた、明智光秀が一瞬驚いた様に目を信長に合わせた。まさか、自分の様子も見られていたとは思わなかったのだろう。


信長に意見する者は誰もいない。これが命令だと皆そう思ったからである。


そして、四男の於次丸を主君が気に入ったこと感じさせることであり、未だ婚約者がいない為、家臣達は正妻に自分の娘を迎えてもらう策を考えていた。


が、色々と問題も発生する。


「よろしいのですか?次男の北畠様、三男の神戸様を差し置いて、四男の於次丸を本家に残されますと不祥事が発生するやもしれませぬ。」


羽柴秀吉が信長の機嫌を伺いながら言った。猿だからこそ、命令の確認を出来たのだろう。


次男は伊勢国主の北畠当主、三男は伊勢の国の城主の神戸当主。2人を差し置いている事がはっきりと周りに示されてしまう。


「無理だ。於次丸には勝てん。」


「恐れながら武士の素質に欠けているのにも関わらず、練習を拒絶している事は、城内で知らぬ者がおりません。」


信長は頷き、他の家臣達を見た。於次丸の怠け振りは城内で大変有名なことであり、秀吉の意見を真っ向から君主が否定するのも後味が悪いと感じたのだろう。だから、他の家臣達に秀吉の意見の批判してほしかった。


「羽柴殿、於次丸様の時代と我らが生きる時代は違います。我らは天下を取る者。於次丸様は天下を治める者です。」


光秀の隣に控えている滝川一益が言った。ふと立ち止まって考えてみると、わかりやすい解答であると理解できる。常識的に考えれば、於次丸がここにいる者よりも長生きすることは確かだ。於次丸に天下を取る力は必要なく、天下を治める力が必要なのだ。


「弟は天下に興味がないのです。彼奴(おつぎまる)はのんびり暮らしたいだけなのです。」


「若様、それは危険なお考えですぞ。次期当主に於次丸様を担ぐ者が現れるやもしれません。」


「うむ。信忠と柴田の意見は参考になるが、儂がいつ他家へ出さぬと言った?」


家臣達のざわめきや小言が一瞬で止んだ。信長の言葉を的確に飲み込んでいない事がはっきりと露見したからだ。


「まあよい。今は情報を集めよ!武田と朝倉浅井の同時対応は出来ぬ。」


織田家は強大で大軍を率いているが、東に強国武田、西に朝倉浅井が侵攻しつつある為戦力の分散が生じていた。これにより、全軍をもって戦う事が不可能だった。何方かを潰せば、もう一方も潰せる。


そう言って信長は部屋から出て行った。




織田信勝の幼名は織田於次丸です。

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