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ワルコフに気をつけない  作者: スサノワ
3:サルベージ
7/153

3:サルベージその1

2016/04/10 3:09 文体を整理しました。

2016/04/09 8:27 説明多くて済みません。

ワルコフが爆誕するまでの説明を削れ無くなってしまいました。よろしくお願いします。

「グァッ!?」

 (シルシ)はイキナリ首根っこを(つか)まれた。


「どうしておまえは、直に(・・)俺を持つんだっ!」

 制服の襟ではなく、直接、首を掴まれた状態である。


「ドコ行ってタノ? 探しタじゃなイ」

 その不損な声を聞き、ほっと息を付く(シルシ)


「どした? なんかカタコトに聞こえるぞ?」

 頭を捕まれたときよりは、自分の意志で首を回せるようで、掴んだ美少女を(シルシ)は見た。


「どう? どんな状況!?」

 (シルシ)のデータ・ウォッチに、ネコミミ美少女のドットアイコンが、表示されている。だが、声は聞き慣れた子供声ではなく、精悍な女性の声だ。


「先生っ! 大変だ! (コウベ)がっ!」

(シルシ)は驚愕の表情で訴える。


「どうしたの!? 無事なの!?」

 まるで、洋画の吹き替えのような声が緊迫感を盛り上げる!


(コウベ)の髪型が、ショートで、結構イケてますっ!」

ぱたぱたぱたたと小鳥がドコからか飛んできて、コウベの頭に停まる。


「え? 本当!? 是非見たいわね!」

 緊張の度合いをさらに高めた声だが、その内容は一気に間の抜けたモノになった。


 (シルシ)は自分の腕を持ち上げ、データ・ウォッチへ応答する。

「先生ですよね? 声が違うから違和感、有りますよ。けど格好良い」

「えっ!? そーおー? これねー、ハードウェアレベルで、増設(エクステンド)してあるから、ゲームクライアント、無くても、カスタマイズできるんだよね~」

 精悍な女性の声が、おどけた感じに解説してくれる。


「へー。流石に専門家だと、色々出来るんですねって、そんなこと言ってる場合じゃないです」

 首を掴まれ、ひょろ高いトコに、ぶら下がっている(シルシ)は、背中をよじってコウベの姿を見ようとしている。


「状況は!?」とネコミミアイコン。


「はい、とりあえず残ってる、ひょろっとしたエリンギの足場にギリギリ立ってます」

 正確には、コウベが一人、何とか立てる足場に立ってて、(シルシ)は首を掴まれ落ちずにすんでいる。

 エリンギは無惨にも、穴のあいたチーズのように、くり抜かれ、足場にしている部分以外は、ほとんど崩れ落ちていた。


「コウベ! あのデカイ,人型みたいなのは!?」

「もう、ドっか行っタ。―――(ダル)イ……お腹空いタ」


「なんだよ、さっき結構食ってたじゃねえか。もう腹減ったのかよ」

「チカラ一杯(いっぱい)動くト、ハラHELL(・・・・)

ハラヘルのヘルの部分を、凄みを増して言いたかったようだが、(ちから)なく尻すぼみになる。


「そっか。とにかく、無事で良かった!」(シルシ)の顔に安堵の表情が浮かぶ。


(シルシ)が居ナくなっタかラ、あいツ等が飲み込んダと思っテ、全部、フタ開けテやろうトしタ。けド、一つ開けタとコろデ、一斉に逃げらレタ」


 (シルシ)が無理矢理、首を回して見ると地面の辺りに、確かに青いズングリした人型が、割れるように粉砕され、倒れている。割れた腹からはエリンギのブロックが大量にこぼれている。

「そいつは、悪かったな。心配させちまって」


「あとやっぱ、あんまり無事じゃねえな。具合悪そうだ。長い髪も、切られちまったのか? いやでも、それ(ショート)も似合ってるぞ」

 褒められたコウベが、(ちから)なく牙をむくが、いつもにまして迫力が無い。そして、コウベの頭からは、うっすらと、煙が立ち上っている。


「先生ー! コイツ、頭から煙出てる!」

 (シルシ)は慌てて、コウベの後ろ頭を払おうとするが、この体制では手が届かない。


「煙? ナニそレ? エリンギ(ごはん)ヨり美味シー?」

 本人は全く、意に介しておらず、力なく相貌を(シルシ)へ向ける。


「け、煙!? なんか駄目そうねっ! 入部届にサインを貰ってから、手をつないだまま、ダイブアウトしてっ! そうすればあとは、機械が全部やってくれるからっ!」

 (シルシ)の腕から世界の命運が懸かったかのような緊迫した声が届く。


「コウベの目的がなんだかワカランが、話なら真面目に聞いてやる。ここから(実世界)に行くのはイヤか?」

 (シルシ)は、まくし立てながらも、かみ砕くように説明する。


エリンギ(ごはん)、あるナラ、どコでモ行くヨ……うヒヒヒヒケケケケケケ」

 (シルシ)を、腹話術の人形のように持ち上げ顔をのぞき込む。コウベの顔には疲労の色が見て取れるが、耳まで裂けそうな勢いで、牙のように尖った歯を見せている。頭の煙は収まらないが、(くすぶ)っているだけで、燃えさかる様子は無い。

「あー、まだ、ギニャギニャ笑う余裕有るな。もう少し踏ん張れ」


「先生質問。コイツ等実世界()につれてって、食べ物って、あるの?」

 外というのはヨーグルト瓶の中のPBCパーソナル・ブレイン・キューブの事だ。


「サンプルが有れば、複製も出来るし、NPC用の特選おやつは、分子エディタでも作れるわよ」


 動かない首で、(わず)かに(うなづ)(シルシ)

「エリンギ、念のため、少しちぎってい……」

 その声を聞いたコウベは、カラダをよじり、空いた右手で、自分の制服の左ポケットをまさぐり―――

「……かなくてもいいな。持ってるならそのまま入れとけ。出すな。すげー邪魔だから」

 コウベは小さなポケットには、とても入りそうもないほどの、でかい白いのを出そうとしていた。(シルシ)は、目の前に現れた、一抱えもあるソレを、ポケットに戻させている。


 次いで、(シルシ)は、内ポケットから、二つ折りの入部届を出し、自分の腕へ訊ねる。

「この紙どうやって書けばいいんですか? ペンとかないんですけど?」


「アイテム譲渡と一緒、モノを人差し指で選択して、渡したい対象に指先を当てればOKよ」

 この声のアシストが有れば、世界の平和も守れそうな顔つきで、(シルシ)は渋い顔をする。

「つまり、こうか?」


「こうべ、人差し指で、自分の頭の上のHUD触れるか?」

 プレイヤーにはHUDに触ったときにも触感があり、UI操作に一役買っている。

 コウベは、(くすぶ)る頭を自分で突く。

「できタ」ギヌロ。にらみ顔で、得意げだ。

「そしたら、そのまま、ここへ押しつけろ」

 (シルシ)は紙を出し、『この辺』と記名欄を指さす。


 コウベは指先に自分の名前(・・・・・)居眠りこ(・・・・)いてる小鳥(・・・・・)をくっつけたまま、入部届に押し当てた。


 コウベの頭の上にいた小鳥も、一緒に選択してしまったのだろう。

「ちょっと待て」と(シルシ)が、止めようとしたが、時すでに遅く。


 指先が波打ち、文字と小鳥はプルンと震え、入部届へ吸い込まれる。

 入部届の記名欄には、表示フォントそのままの文字と、イラスト化された小鳥が、ならんで印字(プリント)された。


「あー。……なんて、アバウトな。ま、いっか、どうせおまえ(小鳥)も連れてく予定だったんだし」


「先生、サイン貰いました」


「じゃ、手をつないだまま、ダイブアウトしてね」

 笹木講師は、フロアに立ったまま、指示を出した。


 ポコン♪

 (シルシ)が、ダイブアウトし、NPC(コウベ達)PBCパーソナル・ブレイン・キューブへの転写が無事成功したことを知らせる。

 細い手首に巻かれた、ごつい腕時計に”量子状態の転送に成功”の文字が表示されている


「デバッグ装備(ツール)一式、出しちゃったけど、必要なかったわね」

 周囲には、急拵(きゅうごしら)えながら、不測の事態への備えらしい、使用法のわからない、謎の物体が数点、置いてある。

 その中の一つ、羊羹(ようかん)のようなモノが回転する謎機械が、カラフルなレシートを吐き出す。


 ジジジジジージジ。

「なにかしら?」


 レシートを手に取り笹木講師は、検出結果らしきモノを読む。

「なにか居る……?」

 と、背後を振り返り、巨大な”待ち状態(ウェイト・ボール)”と遭遇する。

 最近はあまりみないが、今よりも数世代前の、OSで使用されていた、処理に時間がかかっている状態を示すUIユーザー・インターフェース出力である。


 キューブが立体的に球の表面をランダムに旋回し、その軌跡で球状が形作られている。その直径は2メートルほどで、わずかにスパークしている効果と相まって、かなりの存在感がある。


「でかっ! 何このでかい(・・・)『演算中《Wait a moment》』!?」

 特区やフルダイブ空間で、通信の遅延(ラグ)は起こりえないため、データ処理自体のオーバーフロー(桁あふれ)だと笹木講師は推測したようだ。


 笹木講師は、ひるむ。

 ダイブアウトすることも忘れ、手直な道具を掴んだ―――


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