3:サルベージその1
2016/04/10 3:09 文体を整理しました。
2016/04/09 8:27 説明多くて済みません。
ワルコフが爆誕するまでの説明を削れ無くなってしまいました。よろしくお願いします。
「グァッ!?」
驗はイキナリ首根っこを掴まれた。
「どうしておまえは、直に俺を持つんだっ!」
制服の襟ではなく、直接、首を掴まれた状態である。
「ドコ行ってタノ? 探しタじゃなイ」
その不損な声を聞き、ほっと息を付く驗。
「どした? なんかカタコトに聞こえるぞ?」
頭を捕まれたときよりは、自分の意志で首を回せるようで、掴んだ美少女を驗は見た。
「どう? どんな状況!?」
驗のデータ・ウォッチに、ネコミミ美少女のドットアイコンが、表示されている。だが、声は聞き慣れた子供声ではなく、精悍な女性の声だ。
「先生っ! 大変だ! 首がっ!」
驗は驚愕の表情で訴える。
「どうしたの!? 無事なの!?」
まるで、洋画の吹き替えのような声が緊迫感を盛り上げる!
「首の髪型が、ショートで、結構イケてますっ!」
ぱたぱたぱたたと小鳥がドコからか飛んできて、コウベの頭に停まる。
「え? 本当!? 是非見たいわね!」
緊張の度合いをさらに高めた声だが、その内容は一気に間の抜けたモノになった。
驗は自分の腕を持ち上げ、データ・ウォッチへ応答する。
「先生ですよね? 声が違うから違和感、有りますよ。けど格好良い」
「えっ!? そーおー? これねー、ハードウェアレベルで、増設してあるから、ゲームクライアント、無くても、カスタマイズできるんだよね~」
精悍な女性の声が、おどけた感じに解説してくれる。
「へー。流石に専門家だと、色々出来るんですねって、そんなこと言ってる場合じゃないです」
首を掴まれ、ひょろ高いトコに、ぶら下がっている驗は、背中をよじってコウベの姿を見ようとしている。
「状況は!?」とネコミミアイコン。
「はい、とりあえず残ってる、ひょろっとしたエリンギの足場にギリギリ立ってます」
正確には、コウベが一人、何とか立てる足場に立ってて、驗は首を掴まれ落ちずにすんでいる。
エリンギは無惨にも、穴のあいたチーズのように、くり抜かれ、足場にしている部分以外は、ほとんど崩れ落ちていた。
「コウベ! あのデカイ,人型みたいなのは!?」
「もう、ドっか行っタ。―――怠イ……お腹空いタ」
「なんだよ、さっき結構食ってたじゃねえか。もう腹減ったのかよ」
「チカラ一杯動くト、ハラHELL」
ハラヘルのヘルの部分を、凄みを増して言いたかったようだが、力なく尻すぼみになる。
「そっか。とにかく、無事で良かった!」驗の顔に安堵の表情が浮かぶ。
「驗が居ナくなっタかラ、あいツ等が飲み込んダと思っテ、全部、フタ開けテやろうトしタ。けド、一つ開けタとコろデ、一斉に逃げらレタ」
驗が無理矢理、首を回して見ると地面の辺りに、確かに青いズングリした人型が、割れるように粉砕され、倒れている。割れた腹からはエリンギのブロックが大量にこぼれている。
「そいつは、悪かったな。心配させちまって」
「あとやっぱ、あんまり無事じゃねえな。具合悪そうだ。長い髪も、切られちまったのか? いやでも、それも似合ってるぞ」
褒められたコウベが、力なく牙をむくが、いつもにまして迫力が無い。そして、コウベの頭からは、うっすらと、煙が立ち上っている。
「先生ー! コイツ、頭から煙出てる!」
驗は慌てて、コウベの後ろ頭を払おうとするが、この体制では手が届かない。
「煙? ナニそレ? エリンギヨり美味シー?」
本人は全く、意に介しておらず、力なく相貌を驗へ向ける。
「け、煙!? なんか駄目そうねっ! 入部届にサインを貰ってから、手をつないだまま、ダイブアウトしてっ! そうすればあとは、機械が全部やってくれるからっ!」
驗の腕から世界の命運が懸かったかのような緊迫した声が届く。
「コウベの目的がなんだかワカランが、話なら真面目に聞いてやる。ここから外に行くのはイヤか?」
驗は、まくし立てながらも、かみ砕くように説明する。
「エリンギ、あるナラ、どコでモ行くヨ……うヒヒヒヒケケケケケケ」
驗を、腹話術の人形のように持ち上げ顔をのぞき込む。コウベの顔には疲労の色が見て取れるが、耳まで裂けそうな勢いで、牙のように尖った歯を見せている。頭の煙は収まらないが、燻っているだけで、燃えさかる様子は無い。
「あー、まだ、ギニャギニャ笑う余裕有るな。もう少し踏ん張れ」
「先生質問。コイツ等実世界につれてって、食べ物って、あるの?」
外というのはヨーグルト瓶の中のPBCの事だ。
「サンプルが有れば、複製も出来るし、NPC用の特選おやつは、分子エディタでも作れるわよ」
動かない首で、僅かに頷く驗。
「エリンギ、念のため、少しちぎってい……」
その声を聞いたコウベは、カラダをよじり、空いた右手で、自分の制服の左ポケットをまさぐり―――
「……かなくてもいいな。持ってるならそのまま入れとけ。出すな。すげー邪魔だから」
コウベは小さなポケットには、とても入りそうもないほどの、でかい白いのを出そうとしていた。驗は、目の前に現れた、一抱えもあるソレを、ポケットに戻させている。
次いで、驗は、内ポケットから、二つ折りの入部届を出し、自分の腕へ訊ねる。
「この紙どうやって書けばいいんですか? ペンとかないんですけど?」
「アイテム譲渡と一緒、モノを人差し指で選択して、渡したい対象に指先を当てればOKよ」
この声のアシストが有れば、世界の平和も守れそうな顔つきで、驗は渋い顔をする。
「つまり、こうか?」
「こうべ、人差し指で、自分の頭の上のHUD触れるか?」
プレイヤーにはHUDに触ったときにも触感があり、UI操作に一役買っている。
コウベは、燻る頭を自分で突く。
「できタ」ギヌロ。にらみ顔で、得意げだ。
「そしたら、そのまま、ここへ押しつけろ」
驗は紙を出し、『この辺』と記名欄を指さす。
コウベは指先に自分の名前と居眠りこいてる小鳥をくっつけたまま、入部届に押し当てた。
コウベの頭の上にいた小鳥も、一緒に選択してしまったのだろう。
「ちょっと待て」と驗が、止めようとしたが、時すでに遅く。
指先が波打ち、文字と小鳥はプルンと震え、入部届へ吸い込まれる。
入部届の記名欄には、表示フォントそのままの文字と、イラスト化された小鳥が、ならんで印字された。
「あー。……なんて、アバウトな。ま、いっか、どうせおまえも連れてく予定だったんだし」
「先生、サイン貰いました」
「じゃ、手をつないだまま、ダイブアウトしてね」
笹木講師は、フロアに立ったまま、指示を出した。
ポコン♪
驗が、ダイブアウトし、NPCのPBCへの転写が無事成功したことを知らせる。
細い手首に巻かれた、ごつい腕時計に”量子状態の転送に成功”の文字が表示されている
「デバッグ装備一式、出しちゃったけど、必要なかったわね」
周囲には、急拵えながら、不測の事態への備えらしい、使用法のわからない、謎の物体が数点、置いてある。
その中の一つ、羊羹のようなモノが回転する謎機械が、カラフルなレシートを吐き出す。
ジジジジジージジ。
「なにかしら?」
レシートを手に取り笹木講師は、検出結果らしきモノを読む。
「なにか居る……?」
と、背後を振り返り、巨大な”待ち状態”と遭遇する。
最近はあまりみないが、今よりも数世代前の、OSで使用されていた、処理に時間がかかっている状態を示すUI出力である。
キューブが立体的に球の表面をランダムに旋回し、その軌跡で球状が形作られている。その直径は2メートルほどで、わずかにスパークしている効果と相まって、かなりの存在感がある。
「でかっ! 何このでかい『演算中《Wait a moment》』!?」
特区やフルダイブ空間で、通信の遅延は起こりえないため、データ処理自体のオーバーフローだと笹木講師は推測したようだ。
笹木講師は、ひるむ。
ダイブアウトすることも忘れ、手直な道具を掴んだ―――