2:ハラペコ学園その2
初期設定が済んだとはいえないのですが、
バタバタしたまま、すすめてみます。
誠に申し訳ありません。
よろしくお願いします。
※カクヨム様でも公開しております。
「今から、一時間20分後、俺の下宿先の近くで、”自動屋台”が開店します。高級ワインも、滅多にお目にかかれない激レア、バーボンも放出って予測出てますが、どうしますか? あ、お酒ダメだったら、超高級ディナーコースに、上トロ海鮮丼とか、食事も結構……」
イケメンボイスを持続したまま、鋤灼驗は説得を続ける。
「バーボン、海鮮丼……じゅるり。コホン! 先生こう見えても大人だからぁ、お酒は平気です。むしろ超平気です。そこまで真剣なら、無碍には出来ませんねー。まったく、しょうがないですねぇー」
「音声入力」「ボイスメモ」「日記」「お給料日前の贅沢」「ステキ」そう腕時計に語りかけ、夢見るような表情で惚ける笹木環恩講師。
驗は、フロアの上で美少女にナイフを投げられたところから説明していく。
……。
……。
「……そうです。一気に何十メートルも俺ごとジャンプした位だから、粉砕マシンのまっただ中に落ちたとしても、まだ、何とか凌いでると思うんですよ」
「その謎パワー、気になるわねぇ。どういう構造設計なのかしらぁ……」
……。
……。
「―――状況と鋤灼君の目的は、わかりましたぁ。えーっと、えーっと」
笹木講師は、握った拳を顎に当て、考えをまとめている。
「君は、君をフロア下へ突き落とした相手を、助けにいきたいのねぇ?」
「はいそうです」
「いくら美少女でも、NPCは、人とは違うのよぉ?」
「ソレはもう、わかってます。壮絶に、ぶっ飛んだ性格してたので。でも、ぶっ飛んでるとか、NPCとか関係無く……あのまま、物騒なトコに置き去りってのは心配っていうか、気が引けます」
「良いわねぇー。先生、そう言う、男の子っぽい男子、大好きですよぉ」
笹木講師は、階段も上り下りできるカートから機材を取り出す手を止め、驗の頭をなでる。
声はともかく、外見上は、衆目を集める程の、キレイ系美人から、頭をなでられれば、照れないはずもない。驗は、ニヤける顔を誤魔化すように、手をよけ、言葉を続ける。
「正直、心配なのと、最悪でも、フルダイブVRで死ぬことはないから、もうチョット首を突っ込んでみたいなって……」
笹木講師は、むき出しの基盤が所々くっついてる、導念ケーブルで、驗が使う備品の最新型VRヘッドセットと、自分の、魔法使いの帽子のようなデザインのVRデバイスを繋げる。
「君の下宿って近くぅ?」「ひと駅隣の駅前からコミューターで5分くらいです」
フルダイブ機器の末端についている、オーブントースターのような、ダイアルスイッチを”600”にセットする。
「制限時間は10分。それ以上は無理だからねぇ!?」
「はい、ありがとうございます」
笹木講師は魔女帽子をぐいぐいと目深に被る。
「……もう屋台まであんまり時間無いしぃ、略式で再接続するわよぅ!」
機器の最終チェックを行っている。
「君はたぶん、さっきと同じ空中にダイブインしまぁす」
驗もVRヘッドセットを装着する。
「俺は、どうしたら!?」
外部の声は聞こえる様で、隣の座席へ座った笹木講師へ慌てて確認している。
「私が上のフロアから、サポートしまーす。とにかく、彼女と小鳥が無事なら、コレに詰めて保護しましょー。私も是非、会ってみたいしぃー」
笹木講師は、二人の座席の間のカートの天板に置かれた、”逆さにした四角いヨーグルトの瓶が並んでいるような装置”を指さす。四つのヨーグルト瓶の中には、蛍光グリーンのPBCが、それぞれ一個ずつ詰まってる。
ゴーグル右側の丸ボタンを押して、そちらへ顔を向けている驗は、何か言い掛けたが、時間が押すのを避けるためか、質問せずに、笹木講師の話を聞いている。
「そのためには、君からのパーティー申請と、彼女の受理が必要になるんだけど、」
笹木講師は驗に二つ折りの紙を渡す。その手はのっぺりとペンキを塗ったみたいな色合いで違和感があった。
隣の座席に腰掛けていたはずの彼女は、二人掛けのソファーのすぐ隣に座っている。
「なにしろ、フロアには、すべてを統括するゲームクライアントが無いんだから、全部手動で手続きするわよ!」
笹木講師の声は、凛とした、大人の女性の響きを有し、普段より口調が勇ましい。
「具体的には、それにサインを貰ってきて下さい」
驗は二つ折りの紙を開く。
「顧問:笹木環恩殿―――私は『VRエンジン研究部』に入部したく此処に届け出いたします。」
その下には無記名の、氏名記入欄がある。
驗は開いた紙を元通りに折り、制服の内ポケットにしまい、叫ぶ。
「入部届ぇー!?」
その開いた口からトゲトゲした緑色の物が飛び出した。
筋肉の躍動を感じさせる動きで、周囲を跳ね回るごとに、大きくなっていく。
ギシギシと音を鳴らしながら、その表面を鱗のような相似形が増長していく。
ふと、視界の隅で捉えたオレンジ色は、来客用の簡素なスリッパの形をしており、まるで透明人間が、ソレを履いて歩いてくるようだった。
パタパタパタと幾重にも押し寄せ、すぐに白い事務服を着た笹木講師はオレンジ色で埋もれた。
驗は真っ白いソファーから立ち上がり、オレンジ色のスリッパを死にものぐるいでひっ掴む。
そのころには緑色が跳ね回る音と、オレンジ色が押し寄せる音で埋め尽くされ、驗は、スリッパを持ったまま、耳を塞いだ。
ドドガンドドドドガガガン!
パタタパタタタパタタタタ!
周囲を目に見えないスピードで跳ね回っていた、トゲトゲの鱗持ちは、その全長10メートルほどの巨体を天井に付くくらい反り返らせる。
派手な色のスリッパで埋もれ、見えなくなってるソファーめがけてトゲトゲはその体をぶるぶると振動させながら倒れ込んできた。
世界が静止し、再接続した。