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ワルコフに気をつけない  作者: スサノワ
6:ワルコフ追跡

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6:ワルコフ追跡その1

2016/04/21 2:00 状況も舞台もどんどん変化していきます。

「これからぁ、一分一秒を争うぅ、作戦(ミッション)をー開始しまぁす!」


 反応がなかったからだろう。笹木講師は涙目になりながら復唱した。


「なに作戦って?」

 腕組みし、仁王立ちの、ミニスカ制服妹は、童顔の眉毛を吊り上げる。


「失敗したらぁ、先生は学園長直々に怒られますぅ。たぶん」

 ホント、なにしたの姉さんっ! と桃色事務服の袖にすがりつく童顔少女。


「成功したらぁ、あのー、幻と噂のー……”自動屋台”さんに、有り付けまぁす。お代も先生が、全額持ちまぁす!」

 マジカヨ、俺、今日、”自動学食”で、オニギリだけだったから、ラッキー! と早くも乗り気なイケメン。


「驗(シルシ)君は、ゲームクライアントをまだインストールしてない様なので、これに記入して下さい」

 え? 手渡された二つ折り(・・・・)のフィル(・・・・)ム・シート(・・・・・)を開く。


 そこには入部届が表示されていた。

 驗(シルシ)は、かけている使い捨て(やや不格)のAR(好な)メガネを外してみる。

 笹木講師の座席から伸びたケーブルが緑色の小さなフィルム・マットに繋がっている。


 驗(シルシ)は、自分のデータ・ウォッチを見る。

 午後3時6分の表示。

 ”自動屋台”出現予定変更なし、というアプリの表示。

 交互に表示されている。


 驗(シルシ)は、雑多な感情を、押し殺す様に鼻から息を吐く。


 笹木講師の差し出したデジタイ(ペン)ザで、記名する。


 それを覗き込む童顔少女と、空間が40センチほど空いて、イケメン。


「なに!? 笹ちゃんと部活だとっ!? 許さんぞ! 俺も入るぜ!」とイケメン(幅広モヒカン)。


「だから刀風(かたなかぜ)、気安いわよっ! 姉さんっ、部活なんて聞いてないわよっ!? 私も入る!」と童顔(ロング)。


 驗(シルシ)のペンを、ひったくる妹様。


 驗(シルシ)の制服の胸のドット絵アイコンの隣に小さなアイコンが出現した。

 『VR研』の文字の背後にでかいエリンギ、手前に小さな椎茸があしらわれている。

 数秒後、古い映像の様に、横縞のノイズを出しながら、制服姿の人影が出現する。


「……ザッ……だよ、シルシー。何かしゃべれよー」

 ソノ人物は実物大で、驗(シルシ)の腕に取り付き、肩を噛(か)もうとしてくる。


「ふーっ」

 驗(シルシ)は観念したように、背後の窓を振り向く。


 まだ、ワルコフは、それほど遠くないところをドドドドドと飛んでいた。


「先生、アレ何とかするとして、追いつくと思う?」


「大丈夫ぅ! 力強い味方が出来たものぉ!」

 とデジタイ(・・・・)ザと紙(・・・・)を取り合っている、幼児体型と筋骨隆々を指さす。


「―――さー、ヤってちょうだいぃ!」

 笹木環恩(ササキワオン)の号令とともに、一行はワルコフの漂う方向へと発進する。


「ピンポーン♪ 発車イタシマス」


 半球タイヤ仕様の~♪ 安心街乗りコミューター♪ で有名な、電動コミューターである。

 安全を重視しているため、最高時速は40キロ。それでも歩くよりずっと早い。

 ジオフロント敷地内ならどこまででも100円、もしくは900宇宙ドルで利用できる。

 目的地入力後、自動作成されるルート(道順)を承認するだけ、という簡単さ。

 ただし、ルートの直接指定は出来ない。パスすると次のルートか生成される。

 基本的に搭乗者は操縦しない。好みで速度をコントロールし、必要に応じて急停止などを行うだけだ。


 本来一人乗りだが、男女や、親子の組み合わせなら、何とか2人乗れる。特区条例で、親子や”仲むつまじき恋人同士”の場合において2人乗りが認められている。男男(・・)や、女女(・・)の組み合わせでも、”仲むつま(・・・・)じければ(・・・・)”条例違反では無い。ただし、座席(シート)から落ちそうになっていると、厳重に注意される、その場合は4人乗りの超伝導カーが即座に手配される。


 ルルルウーーーー。唸(うな)る超伝導モーター。

「俺、もう、死んでも良い!」

 筋骨隆々イケメン(刀風曜次)は、ハンドル部分に座った、笹木環恩(ササキワオン)の尻の下に手を置いている。

「こらぁ、モゾモゾしないのぉ」と環恩。

「ハイすみません」ピシリと微動だにしなくなる刀風。


 ル・ル・ル。唸(うな)らない超伝導モーター。

「何ですって!? 姉さんにモゾモゾするなんて、このアタシが許さないわよっ!」

「威勢はいいけど、もう少し急がないと、引き離されるよ」

「わかってるわよ!」


 乗り捨て電動コミューター、『マクデブルク』は、大きめの平イスにハンドルが着いた様な乗り物である。名前の由来は有名な真空実験、『マクデブルクの半球』からで、単に『半球』つながりである。

 驗(シルシ)の前に、笹木禍璃(ササキマガリ)が座っているのは、先行する環恩・刀風チームと変わらないが、ハンドルの前に足を出さず、驗(シルシ)同様、シートに跨(また)がっている。

 がに股になるので、女性は、特にスカートの女性はとても嫌がるものだが、禍璃(まがり)は気にしていなかった。

 学校横の、コミューター乗り場で、「姉さんと一緒に乗れないなら、せめてアタシが運転するわ」と譲らず、さっさとマクデブルクに跨がってハンドルを掴んでしまったのだ―――


「ちょっと、変な物押しつけないでよっ!」

「え!? これ、コウベが……NPCが入ったヨーグルト瓶―――」

 小型のヨーグルト瓶のような装置だ。

 角型の瓶(ヨーグルト瓶)の付いた装置を1基タイプに替え、コウベ入りのPBC《パーソナル・ブレイン・キューブ》を装填。

 連れて歩けるようにと、首から下げられるストラップを付けて貰ったのだが、

 紐が長すぎて、へその下くらいまで落ちてしまっている。

 あわてて紐を調節する驗(シルシ)。それでも邪魔になることに代わりはないので、じゃあ、そっち側に垂らしておくけど良い? と確認してから、禍璃の肩から前へ垂らす。ちょうどセーラー襟に少し隠れた校章のあたりに接地……せず、コツコツと禍璃にぶつかり続ける。


「何よこれ、うっとーしーんだけど―――」


 びゅわ。禍璃の顔の横に、米沢首(ヨネザワコウベ)が横縞のノイズとともに出現する。


「うっとーしとは、何よ!」

 コウベは背伸びして、耳たぶをかじろうとしている。


「また元の確認サイズに戻ったな」


「あ、驗(シルシ)めっけ! おーい!」

 コウベは驗(シルシ)を見つけ両手を振り回す。ドドドドドドン♪

 うるっさい! 禍璃が抗議の意を示す。


「コウベ、その太鼓の音、何なんだ? うるさいぞ」

「これは、衝撃波じゃん」とバカなの? 驗(シルシ)はバカなの? と例のあざけりの表情を、細い肩越しに返す。


「……えっとコウベだっけ? アンタ……自由ねー」

 顔の横でバタバタされるのを、ウザがってはいるが、印象は悪くないらしい。


「そういう……マガリ? も」コウベが言いよどみ、マガリの制服に刺繍された校章が一回だけ明滅。ほぼ横顔しか視界に入らないで有ろう、巨大な姿を眺め見てから、

「……体型が、自由だな」

 マガリは瓶をひっつかんで投げようとしている。

 「あぶねー倒れるっ」驗(シルシ)の首も引っ張られバランスを崩し、コミューターはスローダウンする。

 2人と1体は同時に上方を見る体勢になった。

「「「あ」」」


「キャーッ! ワルコフさぁーん!」ドンドカンドドドドン!

 上空50メートルほどを、陽光をきらきらと受け、宇宙服が飛んでいく。全くノイズが無いので、映画か、ゲームのワンシーンかと錯覚する。


驗(シルシ)はコミューターを降り、歩いている。

「オマエ、それウルセエぞ。謎衝撃波は止めらんねーのか?」


「何言ってんの!? 熱い思いは止められるわけ無いじゃん!」バカじゃん。シルシはバカじゃん。とすぐ目と鼻の下から、こちらを見上げるコウベ。


「仲良いのね~」ウルルルルルル!


 大股を開いて、一人乗りで、ウルルルルと超伝導モーター音をたて、横を付いてきた禍璃(マガリ)にも声をかける驗(シルシ)。


「それ、見せてんのか?」ハンドルに制服のスカートが引っかかってる辺りを指さす。

「んなっ! 見せてないわよっ!」片手でスカートを押さえる禍璃(マガリ)。


「禍璃(マガリ)ちゃぁーん、鋤灼(スキヤキ)くぅーん!」

 先行していた、環恩・刀風チームが、路地の一角で停止していた。


「どうしたの、姉さん?」「どうしたんですか?」


「この段差越えるのに3人いや、やっぱり4人必要なのよねぇ」

 環恩は路地と先に続いている細い路地との境目を指さす。

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