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その2 中央市街とお使いクエスト

「すみませーん、ギルドからのお届けものでーす!」


 商工ギルドで教えてもらった裏口を開けて中に入る。

 すぐに道具屋【萬八】の店長が顔を出し、大層な荷物を背負った俺の姿を見て破顔した。


「ああ、ようやく届いたのか、配達ご苦労さま。品物を見せてもらっていいかな?」

「はい。えっと、この机の上に出していいですか?」

「うん、大丈夫だよ」


 店長さんの許可をもらったので、背中の荷物を下ろして中身を広げた。


「これが【魔女の毒薬】さんのところの初級ポーションと毒消し、これは【魅惑の生皮】さんのところの水筒と手袋、これは【錬金工房】さんのランプ、これは……」

「うんうん……」


 店長は俺が取り出した物を一つ一つ手に取り確かめる。

 傷がないか、汚れはないか、動作はちゃんとするのか、不良品ではないか。そうしたチェックを熟練の手つきで手早くこなしていくのだ。


「……うん、全部大丈夫だね。ありがとう、そろそろ在庫が切れかけていたから助かったよ」

「表の方は凄い人だかりですものね。ギルドの人たちにこっちの入口聞いていなかったら入れませんでしたよ」

「ははは、商売繁盛なのはいいんだけどね。魔法特区と武芸街の方から一気に押し寄せてきたみたいで、店の者はみんなてんやわんやしているところさ」

「さっき特区の方を見てきたんですけど、あの人数が流れてきているなら大変ですねぇ」

「うちだけじゃなくて、ここら辺の店は今頃みんな嬉しい悲鳴を上げていると思うよ」


 商品のチャックが終わった後も店長と会話を続る。NPCの一人一人にちゃんと応答用のAIが設定されているのだから驚きだが、それでこちらが助かる部分もある。


「――ところで、人手が足りないのなら、何かお手伝いしましょうか? 後はギルドに戻って報告したら終わりですから、手が空くんですけど」

「おや、そうなのかい? なら、一つお願いさせてもらっていいかな」

「大丈夫です、何でも言ってください」

「それじゃあ、腕輪を出してくれるかい。あ、さっきのクエストの分も受け取り印サインしておくね」

「はい!」


 俺が左手の腕輪を差し出すと、店長はも前に見たバーコードリーダーのような機械を持ち出して腕輪に押し付けた。


 《――クエスト【中央市街への納品・魔女の毒薬】が進行しました! 【クエスト】画面で確認してください!》

 《――クエスト【中央市街への納品・魅惑の生皮】が進行しました! 【クエスト】画面で確認してください!》

 《――クエスト【中央市街への納品・錬金工房】が進行しました! 【クエスト】画面で確認してください!》

 《――クエスト【中央市街への納品・森林木材】が進行しました! 【クエスト】画面で確認してください!》

 《――クエスト【中央市街への納品・折々御織】が進行しました! 【クエスト】画面で確認してください!》

 《――クエスト【中央市街への納品……


 ステータス画面が浮かび上がり、一気に複数のクエストが進行されたと表示される。後はギルドに戻ってこれらの店の店主に報告をすれば完了だ。

 受注済みのクエストの更新情報一覧を下にたどっていくと、新しいクエストの情報が現れていた。


 《――クエスト【中央市街の御用聞き】が発生しています。クエストNPCに話しかけ、クエストを受注してください!》


「それで、俺に頼みたいことって、どんなことなんですか?」

「うん、それなんだけどね。この様子だとまだまだお客さんの波は途絶えそうにないから、次の仕入れの注文をギルドに伝えてほしいんだよ」


 店長が一枚の羊皮紙を取り出し、サラサラと何かを書き留めて封をする。


「これはうちの店の注文書なんだけど、できれば中央市街の他のお店も声をかけてくれると助かる。たくさん回ってくれたらその分のボーナスも出すよ」

「わかりました! 任せてください、全部の店を回ってみせます!!」

「はは、頼もしいね、それじゃよろしく頼むよ」


 羊皮紙を丁重に受け取り、しわくちゃにならないように袋の中に仕舞う。


「それではそろそろ失礼します」

「ありがとう、またお店においで。クエストの方も頼んだよ」


 軽くなった袋を背負い、俺は店を後にした。


 ◇


 お使いクエスト。

 困っているNPCに声をかけ、頼まれごとをこなし、報酬を受領する。

 ゲームが誕生した遥か太古の時代から続く伝統である。


 生産器具一式を買い集めようとしたらすぐに金がなくなることに気がついた俺は、『ならばどうやって金を稼ぐか』という方向に思考を向けた。

 一番手っ取り早いのはモンスターを倒してドロップアイテムを売り払う方法なのだが、講習に参加していない状態だと厳しいだろう。街の外で素材集めをするのも厳しそうに思える。


 ――なら、街の中で可能な資金稼ぎはないのか?


 そう考えた俺は、ギルドの中にある店を周り、店主たちに聞き込みを続けることで頼まれごとクエストを受注することに成功したのだ。


 ◇


「――さてと、この店は終わったから次は武器屋に向かうか。渡すのはモモの背負っている金属製の武器だな」

「やった、やっと下ろせる! すっごい重かったよー」


 裏口の外で待っていた三人のうち、一番背が高い巨人少女が両手をあげて喜んだ。

 桃色の少女の背にある袋からは鈍い輝きが顔を覗かせている。試しに俺が持ち上げてみようとしたところ、ピクリとも動かすことができなかったほどの重量がある。

 それだけ重いだけあり、報酬もいいものが貰えることになっている。


「俺だけならこのクエストは無理だっただろうな。本当にモモにいて助かったよ」

「うう……、力持ちだって言われてもあんまり嬉しくない……」

「何でもいいからちゃっちゃと歩け。そんなんじゃいつまで経っても荷物が減らないのぞ」

「は~い……」


 がくんと肩を落としたモモをけしかけ、マップを見ながら先導する。

 裏道から裏道へ、人の少ない道を選んで進む。モモだけではなく、マーリンもエルも大荷物を背負っているので、下手に人の多い場所を通ると危ないと思ったのだ。


 だが、そんな俺の予想に反し、意外と三人ともしっかりとした足取りで歩いていた。確かに荷物が重そうではあるが、苦しそうというほどでもなく、表情には多少の余裕が浮かんでいた。


「なんだ、文句言ってる割にはしっかり歩けているじゃないか。そっちの二人も大丈夫みたいだな」

「……まあ、あんたのことを認めるみたいで癪だけど、このくらいの重さなら、ね」

「レンさんに作ってもらったバッグのおかげですねぇ、とっても楽ちんですぅ」


 三人が背負う袋、実はただの袋ではない。

 お使いクエストを受注する前に、俺が全財産を叩いて改造したものだった。


 購入した器具は【裁縫道具】。

 一緒に素材も買い求めて、裁縫店【折々御織】の店主たちに教えてもらいながら作り上げた俺の初めての作品だ。


「バッグというより登山用のザックだけどな。その方が背負うのは楽だろ」


 全体の形を整えつつ、背中や肩に当たる部分には綿をつめた。荷物の重量を考えて底の部分もしっかりと補強し、店主へ協力を仰ぎつつウエストベルトもなんとかつけることに成功した。

 こうすることで肩・背中・腰へと重量が分散され、ただ背負うよりも遥かに楽に、長時間背負えるようになるのだ。

 他にもチェストストラップもどきをつけたり、あちこちに工夫をこらしている。


 三人娘に最初に見せたときはダサいと大変不評だったが、実際に使わせてみたところ、使用感の違いに納得したのか文句がぴたりと止んだ、自慢の逸品である。


「本当に、最初に持った時と比べたらすっごい楽だよね」

「なんだかこのバッグの方が動きやすい気がするのは、なぜなんでしょうかぁ?」

「バッグじゃなくてザックなんだが……それは体にしっかり固定してあるってことと、荷物を入れるときに重心を上に持ってくることで――」

「ふ~ん……レンのくせに一応そういうこと考えているのね」

「俺のくせにってどういう意味だよ」

「自分で考えたら?」

「あ、レンくん、武器屋さんあったよ!」


 ――和気あいあいと中央市街を回る俺たち。

 こうして本来なら退屈なはずのお使いクエストも、楽しみながらクリアをすることができたのだった。

※納品クエスト

 指定されたクエストアイテムを指定された場所へ運ぶ、よくあるお使いクエスト

 クエストアイテムはインベントリに仕舞うことができない

 クエストアイテムを持って移動する際、筋力が足りないと移動できない

 プレイヤーの筋力とアイテムの重量によって、プレイヤーのスタミナが徐々に減少する

 スタミナがなくなった場合、しばらく休憩を取らないと回復しない


※【レン特製ザック】

 重量軽減とスタミナ消費軽減の効果があるなかなかの逸品

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