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その1 魔法特区と商工ギルド

 ざんねん! とかげおとこ は はい に なってしまった!


 ――とは言わないが、なんとなく背中が煤けているトカゲ男や他のプレイヤーたちを放置して次の店へと移動した。防具屋と道具屋も覗いて商品の値段をしっかりと確認したあと、当初の予定通りに訓練場へと向かう。


 三人の意見を取り入れて、まずは街の南側にある【魔法特区】を目指した。

 大通りを歩いていくと、通りを歩く人の数がだんだんと増えてきたことに気がつく。

 話しかけることはなかったが他の特典種族のプレイヤーも見かけるようになり、増えた人波に押されながら俺たちは通りを進んでいった。


 周りを囲まれると背の低さのせいで先が見えなくて困るのだが、しばらく進むと大通りの先に魔法特区を隔てる真紅の大扉が見えてきた。二十メートルを越す巨大な扉は開け放たれており、大量のプレイヤーが忙しなく出入りをしている。

 区画内に入る他のプレイヤーたちを追いかけるように俺たちも中へ入る。事前の予想とは違った威勢のいい声が俺たちを出迎えた。




「【神聖魔法】の講習会に参加される方はこちらで整理券をお受け取りくださーい! 次回の講習会は十五分後と三十分後を予定していまーす!!」


「この列は【時空魔法】の【真印】と【真言】セットの購入者の列です! お間違えのないようにお願いします!!」


「【精霊魔法】の最後尾こちらでーす! 最後尾の方はこの看板を持っていてくださーい!!」


「会計前に所持金をもう一度ご確認ください! 【真印】と【真言】のセットでは1000zです! 会計の時に足りなくならないように、事前にしっかりと確認してください!!」




「――即売会じゃねえか!!!」




 あちこちで整理員と販売員の怒声が飛び交っているのが聞こえる。よく見ると手にプラカードみたいな看板を持って立っているプレイヤーまでいるし、もう完全にノリが某祭典である。

 去年の夏に友人に誘われて参加をしたのだが、その時と違い、並んでいるのが人間だけではなくエルフや獣人や蜥蜴なども混ざっているあたり、実にシュールでなんともやるせない気持ちにさせる光景だった。


「なんなんだ、これ……」

「入口で立ち止まらないくださーい!!」

「あ、はい。すみません」


 NPCなのかGMなのかわからないが、整理員らしき人に注意されてしまった。

 三人娘を連れて脇に避けようとしたのだが、魔法特区の内部はものすごい人だかりでただ移動するだけでも一苦労だった。仕方がないので一度外に出ることにした。


 ◇


「――掲示板で少し調べてみたところ、【魔法特区】と【武芸街】はどっちも同じような状況らしい」


 手に持っていた水を飲み干して、三人娘に現状を告げる。

 魔法区画を出た後、扉から出てすぐのところにあった喫茶店に入った。そして、ゲーム内掲示板を使って今まで情報収集を行っていたのだ。


「あの長蛇の列は廉価版のプレイヤー向けのアイテムを販売している列みたいだ。魔法職・物理職それぞれに必要なアイテムがあるらしくて、それを販売用のテントでさばいているらしいな。

 それに対し、俺たち全機能版のプレイヤーはちゃんと【講習会】か【鍛錬】に参加して、少し訓練を受けないと魔法も武器も使い物にならないって書いてあった。

 こっちはβテストの方とあんまり変わっていないみたいなんだが、その講習会を受けるのに事前に申し込みをして【整理券】を受け取らないといけないらしい」


 どうやらあの混み具合はゲーム開始直後の、新規プレイヤーが多い状況だったかららしい。

 まだ正式サービス開始から一時間も経っていないのだ。あの状況が改善されるまでもう少し時間がかかるだろう。

 なので、三人が今日中にモンスターと戦闘するつもりだというのなら、あの人混みの中に突入するしかない方法はない。


「う……わ、私、もう行きたくない……かも……」

「あたしもあれはちょっと……」

「満員電車ってあんな感じなんでしょうかねぇ……」


 そう告げたところ、普段から人混みに揉まれることに慣れていない三人は早々にギブアップした。俺だってあの殺人的な混み具合は勘弁してもらいたい。


「よし、魔法と武器関連は後回しにしよう」


 そういうことになった。


 ◇


「こっちは空いているな」

「ガラガラだねー」


 街の中心を通って、北側にある【商工ギルド】に着いた。

 こちらには黒い門があり、それを通り抜けて入るとなんとなく物寂しい空気が漂っている。

 歩いている人をチラホラと見かける程度、南の魔法特区とは比べ物にならない人気のなさだ。


「生産職はもっと人がいてもおかしくないんだけどなぁ……」

「え、そうなの?」

「ああ。ゲームにもよるけど、戦闘より生産プレイをやりたいって人って一定数はいるものなんだよ。それなのになんでこんなに少ないんだか、わからんな」

「だから、生産は死に職だってあたしが言ったじゃない!」

「ま、とりあえず中に入って聞いてみるか」

「……無視するんじゃないわよっ!!」


 未だにわけのわからないことを自信満々に言い出す褐色ロリを放置し、手近な工房へ足を向けた。その後をダークエルフ娘が足音荒く追いかけてくる。


「マーリンちゃん、レンくんと仲良くなったね」

「羨ましいですぅ。わたしもレンさんと仲良くなりたいですねぇ」

「大丈夫だよ。レンは優しいから、エルちゃんもすぐに仲良くなれるよ!」

「そうですかぁ、なら安心ですねぇ」


 後ろで何やらしゃべっているようだが、全部丸聞こえだぞ。


 ◇


「生産スキルを学びたい? それなら【器具】と【素材】揃えてからもう一度顔を出しな。

 器具は一つ1000z前後だが、スキルごとに使う器具は違うから間違えて他のを買うんじゃねえぞ。

 ああ、素材を自分で手に入れられないならこの辺の店で売っているのを買え。一つ作るのに100zも出せば最低限の材料が揃うはずだ」


 生産スキル、高すぎ。

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