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お嬢様たちがVRMMOをはじめたので、地雷キャラで寄生プレイを楽しみます  作者: tori
第三章・前夜祭に参加してみよう
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欲望の暴れ馬たち

 一隻の船が港に停泊していた。

 石を組んで作られた港はかなり水深が深いらしく、外洋を渡る大型の貨物帆船でも底をこすることはないようだった。

 船から下ろされた荷物が展示されていた。

 この街の店で作られている品とは違った趣の品々。珍しい織り方と素材を使った織物に、見慣れない彫刻の施された道具、素材からして物が違う武器の数々、見たこともない便利な効果の魔法道具など。

 遠い海の向こう、本国から持ち込まれたアイテムの数々が並べられている。


「ねえねえ、レンくん。これ、中身なんにもないよね?」

「傾けると水が出てくるって書いてあるな。数百個分の水が湧き出るらしい」

「へぇ~! すごいねえ! こんなものまであるんだ!」

「魔法の水筒、『魔法瓶』か。……ダジャレかよ」


 このゲームでは【渇潤度】や【空腹度】というパラメータがある。これが少なくなるとスタミナやMPの回復速度が下がったりスキルの伸びが悪くなったりする。

 渇潤度や空腹度は、ただ座ってじっとしているだけなら減る速度は遅いのだが、根をつめてスキル上げをしていたり、連続で戦闘を行ったりすると減りが速くなる。動けば動くほど喉が渇くし腹が減るというわけだ。

 このペナルティ解除の為に、長時間街を離れる場合にはお弁当や水筒を持っていくのが常識なのだが、水筒の類は意外と重い。


 インベントリ内に荷物を収納している場合、普段は重量を感じることなく動くことができるのだが、筋力値依存の【重量制限】が存在し、その重量以上のアイテムを入れると重さで動きが遅くなったり、身動きできなくなってしまう。


 中身がない分重量が軽く、豊富な水量を誇る魔法瓶というのは、そういう意味では大変便利なアイテムなのだ。


「手が出せないほどではないけどちょっと悩むな」

「そうだね、うーん」


 掲示されている値札を見る。100PP。微妙に高い。


「りっちゃん、エルちゃん。何か面白いものあったー?」


 魔法職向けのアイテムを見ていた二人のところに向かうと、面白い光景が見れた。


「あ、モモ。これいいと思わない?」

「こっちも素敵だと思うんですけどぉ、どうですかぁ?」


 マーリンの周りに浮かぶ剣と、エルの周りに浮かぶ盾。

 それぞれが勝手に動いて相手を攻撃し、その攻撃を防いでいる。


 【浮遊剣フローティング・ソード】と【浮遊盾フローティング・シールド】というマジックアイテムらしい。

 値段はひとつ50000PP。しかも壊れたらこの街では修理ができないらしい。


「却下だ。そもそも金がない」

「ええー!」

「そうですよねぇ」


 マーリンが不満の声を上げるが、エルはさっさと諦めて盾を棚に戻した。


「なんでよ! ちょっとお金が足りなくても当日までに稼げばいいだけでしょ!」

「アホか。50000PPなんて大金、そう簡単に稼げるわけないだろ」


 膨れ面のマーリンに簡単な算数の授業をしてやる。


「俺たちが今受けている【イベント・クエスト】は、一回の報酬が30~50PPくらいが相場なんだ。50PPだけの依頼を狙って解決したとしても千回だぞ? あと一週間で貯められるはずないだろ」

「う~……でも……」


 名残惜しげに魔法の剣を見ている。未練たらたらである。


「ねえ、りっちゃん。あっちにとっても可愛いアクセサリーがあったんだけど、みんなでお揃いのを買ってみない?」

「お揃いですかぁ、いいですねぇ」

「モモとお揃い……? じゃ、じゃあ、ちょっとだけ見に行ってあげてもいいわよ」

「ありがとう! えとね、こっちのお店なんだけど……」


 モモが一緒のアクセを買おうと誘うとあっさり態度を翻した。

 嬉しそうに頬を染めている。


「マーリンちゃんはぁ、本当にモモちゃんが好きなんですねぇ」

「そうだなぁ。エルはいいのか?」


 先を歩く二人を指差し、一緒に行かないのかと尋ねる。


「お揃いですからぁ。レンさんはどういうのがいいのかなぁ、とぉ」

「俺も? あー……、マーリンとか嫌がりそうだけど?」

「うふふ、りっちゃんは喜ぶと思いますよぉ」

「なら……まあ、いいけど」


 どうやら、俺も一緒に買うらしい。

 お揃いの輪に入れてもらえてこそばゆいような、恥ずかしいような。


「あんまり可愛くない感じの、カッコイイ系か……男女関係ないシンプルな感じのがいいかな」

「それではぁ、あの二人を説得してみてくださいねぇ」

「それって俺の意見聞く気ないよな!?」

「ちゃんと聞いていますよぉ、うふふぅ」


 くすくす笑うエルと一緒に二人の後を追いかける。

 どうやら目当ての店にもう着いているようで、二人でアクセサリーを手にとってああでもないこうでもないと喋っているようだ。


「あの店……確か置いてあったのマジックアイテムだったと思うんだが……」

「頑張って稼がないといけませんねぇ」

「……そうだな」


 どうやら買うのはもう決定らしい。

 海の向こうの珍しい素材とかちょっと気になっていたんだけどなぁ……。


 ◇


 記念イベントの開催が一週間後に迫った日、この開拓地の港に一隻の船が入港した。

 本国からの珍しい品々を満載にしたその船は、本隊である船団から先行して港の様子を調べに来たらしい。

 その日のうちに港には露店が開き、遠国の品が並んだが、プレイヤーたちは値札を見てこまってしまった。

 PP・・

 すべての商品はこのPPを支払わないと購入できなかったのだ。


 PPとは開拓ポイント、あるいは開拓者ポイントと呼ばれる特殊な通貨で、期間限定の【イベント・クエスト】をこなすと手に入れることができるものだった。


 船の乗せられていたアイテムは、前述の通りにどれもこれも珍しい上に役に立つものばかり。

 安いものでもあれば便利だし、素材アイテムだって商工ギルドに持ち込むか生産者の知人がそればそちらに頼めば、現在の最前線装備と遜色がないものが出来上がる。

 また、一部のマジックアイテムには先ほどの浮遊剣や浮遊盾のように、現時点では強力無比なアイテムすら混ざっている。


 ――欲しい


 そう思うのは当然の思考だろう。



 では、PPを稼ぐための肝心のイベント・クエストの内容はというと、それも街の周辺のモンスターの討伐クエストや、素材の採取、生産アイテムの納品など多岐に渡っていた。

 簡単なものは少量の、難しいものは大量のPPが手に入る。クエストの数も種類も尽きることがない。誰もが気楽に参加できて、PPを稼ぐことができる。


 人間の物欲は限りがない。

 自らの手の届くところに美味しい人参をぶら下げられたのだ。もはや走るしかない。

 さきほどの浮遊剣あたりの高額商品も、どこかのギルドが物量とスキルの高さに任せて買い求めることだろう。

 


 街ではすでに熱狂の渦が広がっていた。

 それは少しずつうねりを上げながら、イベント当日――船団の本隊が到着する日を今や遅しと待ち受けているのだ。

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