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若気の至り(下)

『PKで垢BANされた! しかも運営会社から起訴されるって!』


 家に帰って自室でゆっくりしようとした矢先にこれである。

 電話先の友人くろだの興奮したキンキン声が耳に痛い。あれだけ言ったのに、結局やったのか、こいつ。


「あー、そうか。残念だ――」

『その話題で今、ネットの掲示板で大盛り上りだよ! 大量垢BANと公式HPでの警告文があちこちにコピペで貼られまくってるんだけど! VR法案の事例とか引っ張り出してPKしていた人達がどういう罪に問われるのかって凄い議論しているよ!』

「……ん?」

『さっきログアウトしたんだけどさ! ここ最近毎日見ているサイトとかコメント欄が炎上していて本当にすごいよ!

 錬也がVR法案のことを教えてくれなかったらって思うと、本当に怖いよね。教えてくれてありがとう!』

「……あれ、なに? PKも垢BANもお前じゃないの? 他のプレイヤーの話?」

『え? だってVRMMOでやったら危ないって教えてくれたじゃん。僕だって犯罪者になるのは嫌だよ。ゲームできなくなるもん』

「ああ……そうか……うん。そうだよな……」


 昨日の教室での会話は無駄ではなかったらしい。

 そのことに心底安心する。さすがに友人の逮捕の原因が自分の通報なのだとしたら、今後どういう顔で付き合えばいいのか困ってしまう。

 だが、それはそれとして開幕のあの一言はないだろう……。

 ちょっとイラッとしつつ、一応話だけは聞いてやる。微妙に黒田は空気が読めない奴なので、今更文句をいう気にもなれない。


「で、さっきまでインしていたのか。ゲームはどうだったんだ?」

『すごかったよ! 本当に別の世界に入り込んだみたいだった! 海岸でスライムと戦ったけど手も足も出なかったしね! 面白かった!』

「そうか。スライムは俺も一度見てみたいな」

『なんかブルンブルンしたゼリーみたいだったねー。肌触りはよかったよ』

「へぇ、気持ちよさそうだ」


 黒田の今日のプレイ内容を聞く。

 スライムに手も足も出なかったのが悔しかったらしく、武芸街へ行って【格闘】のスキルを習得してきたらしい。


『いっぱい練習して、そのうち関節技だってかけてみせるよ!』

「お前は何を言っているんだ?」


 スライムのどこに関節があるんだ。

 目か脳みそ腐ってんじゃないか?


『まあそんな感じでさー、ゲームはけっこう楽しかったんだけどねー』

「あん?」

『PKじゃないけど、ちょっと荒れている人とか居るみたいで。僕もそういうの見ちゃったんだよー』

「荒れてるってPKじゃなくて? どんなの奴だよ?」

『うん。防具や武器がほしいなって思って北にある商工ギルドってところ行ったんだけどさ。鍛冶屋さんの前通ったら、扉が開いててね。

 中で全身黒尽くめの男の人が「なんで俺に武器を作ってくれないんだ! あんたの武器が必要なんだよ! いいから打てよ!」って叫んでるの見ちゃってさー』

「全身黒尽くめ……?」

『昨日教室で話したの覚えてる? 最強のソロプレイヤー、黒い鬼人のこと』


 あいつか。……いや、実際にそうだとは限らないが、黒い鬼人と聞くと初日に出会ったあの全機能版プレイヤーを連想してしまうのだ。


「言ってたな。刀持ってモンスター相手に無双してるっていう奴」

『うん。普通の服じゃなくて着物っぽい服着てたりして、そこそこ目立つらしいだけどね。店の中の男の人も鬼人で黒くて着物着てたんだよ』

「……ああ」

『でもねー、なんでか知らないけど刀を持ってなかったみたい』

「え? 刀を持ってなかった?」

『これみよがしに腰にぶら下げて歩いているっていう、黒塗の刀を持ってなくってさー。似ている服着ているだけの別の人かなとも思ったんだ』


 初日に武器屋で見かけたあの鬼人は、確かに腰に刀を下げていた。

 そのままインベントリにしまうでもなく、身につけたまま店の外に出ていったのを覚えている。


『で、さっき言ったみたいに店の人捕まえて、最高の刀を打て!って騒いでてね。店員のおじいさんが断ったらとうとう掴みかかっちゃって。それで衛兵ガードを呼ばれてどっかに連れて行かれちゃった』

「うわぁ……」

『NPCのくせに、俺を誰だと思ってやがる!って叫んでたよ』

「何様だよ……」


 最初に見た時からあまりいい印象を受けていなかったが、まさかそこまでとは……。

 NPCに掴みかかるなんて普通のゲームでも考えられないのに、VRMMOでやる奴がいるとは思わなかった。


『主人公様なのかもねー? でも、けっこう目撃者いたみたいだけど、PK騒ぎのせいであんまり注目されていないみたいだね。あー、僕もどうせならそっちの方見たかったかなー』

「……悪趣味だな」

『悪漢に襲われているヒロインを颯爽を助けに入る僕! なんか物語みたいじゃん?』

「これがゲーム脳か……」

『違うよー! あー、でも可愛い子とお近づきになりたいなー!』

「黙れ出会い厨」

『ぶーぶー!』


 こいつの趣味はどうにかして欲しいと切に思うのだが、こういうバカ話をしていると気が軽くなるのも確かだ。

 今日は嫌なことがあったし、いろいろと考えさせられることもあった。

 頭を空にして過ごせる時間というのはいいものだ。


『あ、そうそう。可愛い子と言えばさ』

「……ん?」

『銀髪に赤い瞳のダークエルフの女の子を見たんだよ! ちょっと気が強そうな感じだったんだけど、背が小さくて本当に可愛い子でさ』


 ダークエルフの……女の子……?


『なんか男の子と一緒に歩いていたんだけど、彼氏とかだったのかなー? 僕もああいう子と一緒に遊びたいなー。ねえ錬也、なんかいい案ない?』

「……」

『あれ? 錬也? 切れちゃった? あれー?』


 最近はゲームの中でダークエルフのプレイヤーはそこそこ見かける。


 だが、銀髪・・で、赤い瞳・・・で、普通の女性よりも小柄・・な女の子のダークエルフは――


 ――マーリン以外、俺は知らない。

間章はここまで

章タイトルのようにいろいろな【若気の至り】を書いてみました

夏休みですから、ネトゲに限らずハメを外しすぎちゃう人もたまにいるんですよね


次回からは三章に入ります

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