若気の至り(上)
「ねえ錬也、今回のコ○ケはどーする? 行くなら連絡しとくけど」
「行くわけないだろ、あんな地獄……」
一学期最終日。
通知表を受け取り、帰り支度をすませたところで友達に話しかけられた。
黒田はうちの学校でも有数のオタクで、面白い漫画やゲームを紹介してくれる便利な奴だ。だが、こいつに去年誘われて一緒に行ってきたコ○ケだけは今でもトラウマである。
前日から現地入りして黒田の知り合いだという奴の家に泊まらせてもらい、まだ暗いうちから出発する。熱中症対策だと渡されたのは三本500mlのペットボトル。全部冷凍庫でカチコチに凍らせてあった。
そして準備が完了したら、始発なのに満員の電車に乗り込み、俺たちは会場に向かった――その後のことは思い出したくもない。
「お前は今年も行くんだろ? 精一杯楽しんでく来てくれ。東京土産もよろしく」
「あ、僕は行かないよ」
「は?」
黒田が、コ○ケに、行かない?
なんだそれは、天変地異の前触れか?
「熱でもあんのか? 具合悪いなら保健室行くか? それとも脳の病気か?」
「実はさー、例のVRMMOを買っちゃったから貯金がないんだよね」
「え。……全機能版?」
「うん」
こいつがこう言う時はだいたい本当だ。
黒田の家は地主の家系で、親から毎月かなりの額の小遣いをもらっては全額オタク趣味に費やしているのだ。
「さすがに高いからって一年間小遣い抜きにされちゃってさー。仕方ないから夏はパスして、ずっとVRMMOやろうかなーって」
「そ、そうか……」
黒田がVRMMOをやるのか……。
何もなければゲーム内で一緒に遊んでも構わなかったのだが、今の状況だと困ってしまう。
「今、うちに工事の人来てて設定してもらってるんだ。明日から夏休みだし、一日中インしてるつもりなんだけどさ、サイト見ていると面白いことになってるみたいんだよ」
「面白いこと?」
心当たりがあるような、ないような。
知らない振りをして先を促す。
「この前正式サービス開始して、その記念イベントが近々開始されるんだよ」
「あ、ああ。そうなのか。そりゃあ楽しそうだ」
「それまでにがっつりスキル上げておくつもりなんだ。イベントの主役は僕に間違いないね!」
「へ、へえ……」
まあ、この場で大げさに騒ぐくらいなら何の問題もないな。
「あ、錬也は【完全スキル制】ってわかる? 普通のと違ってレベルがないゲームなんだけど、ちょっと特殊だから分かりにくいかもしれないね」
「あ、ああー……聞いたことはある、かな?」
「じゃあ、簡単に説明してあげるよ。まだ工事終わってないから帰っても暇だしね!」
すまん、もう知っていると今更言えるはずもなく、黒田の説明を大人しく聞くハメになった。
「完全スキル制っていうのは、全ての能力や技能が【スキル】のレベルで決まるんだ。このスキルを上げるには対応した行動をずっと繰り返す必要があるんだよ。
例えば【剣】のスキルを上げるなら剣を持って素振りしたり、敵と戦う必要があるし、【鍛冶】のスキルを上げたいなら鍛冶場でアイテムを作らないといけない。
逆に、対応する行動をとってさえいれば無条件で全てのスキルを取得できるんだよ」
例えばレベル制ゲームだと、レベルアップ毎に【スキルポイント】が手に入り、それを消費してスキルを習得するというゲームがある。
だが、完全スキル制のVRMMOではそういうSPなどは一切ない。
【歌唱】スキルを覚えたいなら歌わなければならないし、【水泳】スキルを身につけたいなら泳がないといけない。そして、それを繰り返してスキルレベルを上げていくのだ。
「今回のゲームの場合、スキルレベルの上限は1000。全てのスキルの合計レベルが1000になるとそこで成長が止まっちゃう。
例えばレベル1のスキルなら千個覚えられるし、レベル10のスキルなら百個覚えられる。一つのスキルの上限は100までだから、もし100まで上げたら十個しか覚えられないね」
無数に存在するスキルの中から、どのスキルを習得し、どのスキルを切り捨てるのか。習得したスキルをどのレベルまで上げるのか。
プレイヤーはそれ考えてキャラビルドしないといけないのだ。
「あと、注意が必要なんだけど【能力値】もスキルレベルに依存するんだよ。
筋力のステータスを上げるなら【筋力】スキルを上げないといけないし、MPを増やしたいなら【魔力】スキルを上げる必要がある。
【剣】のスキルを100まで上げても、【筋力】を全くあげてない人じゃ重い剣を装備できないし、力がないからダメージも少なくなっちゃう。このバランスを考えないと強いキャラにならないんだ」
技能系のスキルと、能力値系のスキルのバランスを考えながら、合計1000のスキルレベルでやりくりする。
それが完全スキル性というシステムなのだ。
「そのシステムだと生産職は弱そうだよな」
「だと思うよ。生産に振った分、ステータスや戦闘スキルにしわ寄せがくるからね。
生産系スキルはいっぱいあるから、完全に特化した構成にしたらステータスに割り振れる値も0に近いんじゃないかな?」
「ステータスに振らないってことは、初期値のままってことだからな。そりゃ弱くて当然だ」
そういうわけで、生産スキルを取っていると戦闘に出れない地雷職となるわけである。
まあ、生産の仕様から、普通の生産職でもスタミナや魔力にある程度スキルポイントを振らないと高レベルの生産は厳しかったりもする。
なんとも痛し痒しのバランスなのだ。
「でね、そういうゲームなんだけど。中にはちょっと目立つプレイヤーとかいるみたいでね」
「……目立つプレイヤー……?」
なんだろう、すごく嫌な予感がする。
「スキルのバランスやプレイスタイルで強さががらっと変わるらしくてね。今最強のプレイヤーの一人として、黒い刀使いがいるんだよ!」
「お、おう。そうなのか」
そういえば初日にそんな奴いたなと脳みその奥から引っ張り出す。
「他にも女性だけのギルドがあるんだけど、そこのギルマスとサブマスも凄い強いらしくて! その二人のコンビネーションはゲーム内一とも言われているんだよ」
「へ、へえ……」
あれ、なんか知っているような気がする。
「逆に悪名が広がっているプレイヤーとして、ハーレム作ってる小人族とかいるらしくてさー!
パーティメンバー全員女性だとか、自分はほとんど何もしないで後ろから石投げているだけだとか、なんかいろいろ言われているみたいなんだけどね」
「ほ、ほお……」
黒田の声に、ここだけ何故か熱が入る。
「ハーレム野郎は爆発しろ!むしろ俺が爆発させる!とかけっこう過激な書き込みもあるんだけどさ。錬也もリア充は爆発したほうがいいと思わない?」
「……PKとかやるなよ?」
「ふふふ……リア充なんて滅んでしまえ……」
「マジでやめろよ!? なあ、本気でそういうのやめとけよ!?」
「わかってる、わかってるよ……押すな、押すなよって奴だよね?」
「ちげえよ!!!」
その後、黒田が帰る時間まで目一杯使って説得した。
どんだけリア充に恨みがあるんだ、こいつ……。
完全スキル制というシステムの紹介、普通のレベル制とはかなり違います
興味がある方はUOやMOEで調べてみてください
間章はもうちょっとだけ続くんじゃよ




