その2 攻略サイトの使い方
「さて、それじゃあ自己紹介の続きをするか。ゲーム内での名前と種族、どういうプレイスタイルでやっていきたいのかを教えてくれ。
俺もこのゲームを始めたばかりだが、何かアドバイスできるようならさせてもらう」
「えっと……じゃあ、私から言うね」
微妙な空気の中、モモが最初に名乗り出た。その場で立ち上がる。2メートルの巨体はそれだけで圧迫感がある。
「ゲームの中の名前はモモ。桃の花が好きだからこの名前にしてみたの。髪や目の色も桃色にしてみたんだけど、どうかな?
選んだ種族は巨人族で、モンスターと戦ったりするのをやってみたいと思っています。思いっきり体を動かしてみたいです!
後はええと……みんなには迷惑かけるかもしれませんけど、よろしくお願いします!!」
ぺこり、と最後にお辞儀をしてモモは席についた。なぜか学校の自己紹介のシーンを思い出す光景だった。
モモの種族の巨人族とはそのままズバリ、体の大きさが特徴だ。とにかくでかい。
これがムキムキマッチョだったりすれば似合うのだが、VR世界の肉体は現実世界の肉体をトレースし多少のデフォルメを加えて作成される。
なので童顔で幼児体型の萌をそのまま拡大コピーしたような姿になっている。身長2メートルもある幼女(しかも桃色)だ。違和感が凄い。
ちなみに能力的には筋力が高く頑強で、その代わり魔法に弱い純粋な物理型の種族だ。大型武器や重装備への適性も高いので訓練次第では立派な重戦士になれるだろう。
モモの自己紹介が終わり、その左隣に座っていた天使族の子が立ち上がった。
「では、次はわたしがしますねぇ。
わたしも萌ちゃん――モモちゃんの友達でぇ、天使族のエルエルですぅ。エルと読んでくださぁい。
あんまりゲームはしたことがないのですけど、回復魔法を使ってみたいですぅ。いろいろと教えてくださいねぇ」
美しい姿勢で最後に一礼をし、優雅な動作で椅子に座る。のんびりマイペースな感じの自己紹介だった。
エルの外見はタレ目がちな感じの美少女といった感じだが、顔はキャラ作成時に修正加工ができるので美男美女はさほど珍しくない。
金髪に青い瞳、白い肌。そして背中に真っ白な翼を持っているのが天使族の特徴だ。
身体能力的には可もなく不可もなく。魔法の適性は回復や補助に向いているのだが、代わりに闇や呪い系統の魔法が苦手としている。
ちなみにモモにもダークエルフの少女にもない彼女だけの特徴として、その厚い胸部装甲がある。
……うん。
ぶっちゃけると胸が大きい。
大きい。とても大きい。
めっちゃでかくて初期装備の布の服が今にもはち切れそうだ。
VRでは顔は変えることができるが、性別や体型まで変えることはできない。リアルの肉体とVRの肉体との齟齬が大きいと様々な問題が起こるらしく、加工ができないように設定されているのだ。
つまり、リアルでの彼女もこの豊満な脂肪の塊を装備しているというわけで……これ以上考えるのは危ないので止めておこう。
ちなみにセクハラ行為はGMに通報すれば一発でアカウント停止か削除にできる。
まあ、俺には関係ないけどな。
「……モモの知り合いらしいから、一応自己紹介してあげるわ。
あたしはマーリン。種族は見ての通り黒妖精族。ガンガン魔法を使ってみたいわ」
最後の残ったダークエルフの子が、ぶすっと顔を横に向け、椅子に座ったまま自己紹介をした。
銀の髪と赤い瞳、尖った耳をした褐色の妖精族。それが黒妖精族だ。
妖精族の特徴は魔法特化。肉体関係の能力を引き換えにした魔法のエキスパートと言ってもいい。
その中でも黒妖精族は回復や補助魔法を切り捨てることで、攻撃的な魔法に特化した種族だとされている。
マーリンの見た目だが、隣のエルと比べて全体的に控えめで小柄な少女だった。つまり褐色ロリというやつだ。
実年齢は知らないがモモの友達というくらいだし大して年は離れていないと思う。
まあ、リアルの彼女たちについて妄想するのはほどほどにして話を進めるとするか。
「物理、回復、攻撃魔法とバランスはなかなかいいな。事前に打ち合わせとかしておいたのか?」
「どんなことをやりたいか少し話し合ったりはしたかな。でも、バラバラなのは最初からだったよ」
「なるほど」
やりたくない役割を押し付けられたとかではなく、自然とそれぞれのやりたいことが分かれたらしい。無理に希望を捻じ曲げているようなら一言言おうかと思ったが、この様子なら必要ないだろう。
ゲームは自分のやりたいことをするのが一番楽しいからな。他人から押し付けられたらそれはゲームではなく、ただの作業だ。
「それじゃあ、戦闘の時はモモが前衛、二人が後衛でいこう。モモは武器の扱いの他に、モンスターに後ろに抜かれないようなテクニックとかも覚える必要があるな。
所持金やアイテムの確認はもうしたか? それがすんでいるなら訓練所に移動して戦闘技術や魔法を教えてもらおうと思うが、どうだ?」
この世界では技術や魔法は自分で経験して覚えるものらしい。
レベルはないし、レベルアップしたら自動で新しい特技を覚えるとかそういうこともない。
自分が習得した【スキル】と【ステータス】の確認だけが可能な【スキル制ゲーム】というシステムになっているのだ。
当前のことだが、キャラクターを作ったばかりの俺たちは一つのスキルも覚えていない。そんな俺たちにスキルを習得する方法や鍛える方法を教えてくれるのが訓練所だ。
「どんな武器使おうかな? レンくんは何がいいと思う?」
「モモは種族的には大剣とか斧とかの大型武器が向いているらしいな。まあ、素手でも強いらしいけど。いくつか振り回して気に入ったのでいいじゃないか?」
「あのぉ、レンさん。わたしはなにを覚えればいいでしょう?」
「エルちゃんはまず回復魔法かな。教会に行ったら教えてくれるらしいから、まずはそれを覚えて実際に試してみよう。俺も魔法とかのシステムはまだよくわかってないし、あとでみんなので回ろうか」
所持品やステータスの確認をしながら、モモとエルちゃんと相談してくる。
俺も攻略サイトを見ただけだからそこまで詳しいわけではないが、他のネトゲの経験を参考にして今後の予定を組んでいく。
「ちょっと待った~~~~~~~!!!」
部屋中に響く大声。その騒音を発した元凶に視線が集まる。
マーリンが顔を真っ赤にして噛み付いてきた。
「なんで! あんたが! リーダー面しているのよ!!
モモのサポートってだけで、別にあたしやエルがあんたの言うこと従う理由なんてないでしょ!」
「それは確かにそうだが……なら、お前はこの後どうするつもりなんだ?」
「え……この後?」
「リーダーが俺で不服だって言うならお前がやってみてもいいぞ。で、どうするんだ、リーダー?」
「え、えええと。そ、そうね……」
やりたいと言うなら別に代わっても構わない。別にリーダーという地位に固執はしていない。
「じゃあ、とりあえずモンスターと戦ってみてから考えるとか……」
「武器もなしで戦うのか? 魔法だって覚えてないし、それで参考になるのか?」
「う……、なら、街を散策して武器屋とかお店を覗いたり……」
「買い物するなら金はどうする? 最初に配られた所持金だけじゃあっという間に底をつくぞ。値段だけ確認するのか?」
「う、うううう……!」
「れ、レンくん、言い過ぎだよ……」
モモがマーリンを庇うが、マーリンはもの凄い目で俺を睨んでいる。反論をしたいけれどできない悔しさに、彼女の瞳が潤んでいるように見えた。
――やばい、すごく楽しい
そう、わざわざリーダーに固執しなくても、こうして揚げ足をとって嘴を突っ込むことはできる。
むしろ穴だらけの計画の不備を指摘したり、責任取らずに好き勝手なことを言っていられる立場の方が楽しいとさえ言えるだろう。
さあ、マーリンよ。俺を唸らせる計画を立てて見せろ!
さもなくば俺は難癖つけて突っ込みを入れまくってやるぞ!!
「う~~~~~~~~!!! なんで、そんな偉そうなのよ~~~~~~!!!
小人族なんて地雷種族の癖に!! しかも生産職なんて死に職だってサイトに書いてあったのに!!!
そんなの選ぶあんたより、あたしの方が絶対にこのゲームについて詳しいに決まってるのよ!!!」
涙目でじたんだを踏む姿にゾクゾクしてしまう。
泣いている女の子って可愛いよね。
よくぞここまで再現した、とゲームの製作者に喝采を贈りたい。
……ん?
「うふふぅ……りっちゃんっは本当に可愛いわぁ……」
エルが、なんだかイケナイ顔でマーリンを見ているような……?
き、気のせいだな。うん。俺は何も見なかった。
――さて、それはともかく。
「地雷種族に、死に職か」
「なによ、文句あるの? 本当のことじゃない! サイトにはそう書いてあったんだから!!」
癇癪起こして興奮のあまり今にも涙をこぼしそうなマーリンを愛でつつ、真面目な表情を取り繕って俺は言った。
「地雷で死に職で、それが何か問題があるのか?」
別にいいじゃん。
地雷でも死に職でも。
俺、そういうの大好きだし。