終わり 楽しい時間
採取してきた草花を種類ごとにテーブルの上に並べていく。おすかれさんの取ってきた分も含めたパーティメンバー五人分の成果だ。一日でかなりの量を集めることができた。
そのうち薬草、毒草、香りの良い花など、【調合】に使用できる素材を優先的に俺が貰い、残った分をおすかれさんに渡す。
「みんなありがとうね。これだけあればギルメンにも顔向けできるわ」
「俺の方も必要なものは貰っていますから。お礼なんて別にいいですよ」
鉄乙女団では手芸スキルの検証が順調に進んでいるらしい。
各地の草花を集めて考えられる限りのアイテムを作っては効果を確かめている最中らしく、現状でもいくつもの優秀なアイテムが発見されたと聞いている。
特に以前俺がサンプル用にと作った【花輪】だが、一部の花で作れる状態異常耐性系のアクセサリーはまだまだ数や種類が少ないらしく、最前線で通用する物まで存在するというのだから驚きだ。
そういうわけで検証用の草花素材はいくらあっても足りないというのが鉄乙女団の内情らしく、初心者の草原で取れる素材でも需要があるとおすかれさんから聞かされたので、せっかくだからと今日一日採取に専念したわけだ。
「それじゃあ、私はこれ持ってギルドハウスに顔を出したらそのままログアウトするから、今日はここでお別れね。明日早めに出ないといけないのに、まだ準備が出来ていないのよね……」
「あー……お疲れ様です?」
「おすかれさん、お疲れ様です」
「お疲れさま。またね」
「お疲れさまですぅ」
「うふふ、みんなありがとう。またね」
嬉しそうな声音で足取り軽く去っていくおすかれさん。
チラッと聞いた話だが、誰かにお疲れ様と言って欲しくおすかれというキャラネームにしたらしい。なのでお疲れ様と言ってあげると喜ぶのだ。
社会人って大変だなあと、しみじみ思ってしまう。
「まあ、それはともかく。とりあえず目の前の素材の山をやっつけるとしますかね」
おすかれさんに渡した分を差し引いてもかなりの量が残っていた。総量の五割弱と言ったところだ。
本来の割合なら八割貰ってもいいのだろうが、雑草は今のところ使わないので向こうに渡し、調合素材だけを残してこれである。
全部処理するのはなかなか骨が折れそうだ。
◇
初日の配達クエストで報酬に貰った【古びた調合道具】一式を取り出す。
【型落ち調合台】のスイッチを入れ、火を灯す。この時、ステータス画面を確認していたら数秒経つごとにMPがどんどん減っていくのがわかっただろう。この器具は使用者のMPを消費して火をつける器具なのだ。
もちろん、減ったMPは調合台のスイッチを切れば時間経過で回復するのだが、それを忘れて長時間連続で使用していると魔力切れを起こして火が消えてしまう。
もしも調合の途中でMPが枯渇して火が消えた場合、その調合は問答無用で失敗になる。MPの残量は調合中も常に確認する必要があるのだ。
この設定はMPのそれほど多くない小人族にはなかなか辛い。
高性能のコンロがあればMP変換効率が上がるので、長時間の調合を行うならそういった器具を購入しないと厳しいだろう。
「ねえ、火の勢いってこのくらいでいいの?」
「んー、もうちょい弱くていいぞ。MPの方は足りるか?」
「当たり前でしょ! 一時間だって持たせてあげるわ!」
実に小人族には辛い設定である。
火をつけたあとは、【調合釜】に【水】を入れて沸騰させる。
この時、ほんの数秒であっという間に水が沸騰するので、事前で投入する素材を用意しておくと時間短縮に繋がる。
気分は三分クッキ○グだ。
「レンさん、これでどうですかぁ?」
「おお、バッチリだ。これはもういいから、次はこっちの葉を千切りにしておいてくれるかな?」
「はぁい、わかりましたぁ」
調合の手順を熟知し、段取りよく進めること。これも一人前の調合師に必要な技量である。
下ごしらえをすませた薬草類を釜の中に放り込むと、水の色が無色から濁った感じの暗い緑色に変わる。
そうなったら【混ぜ棒】を使って急いでかき混ぜるのだが、今度はスタミナが減っていくので、スタミナ切れを起こさないように注意しなければならない。もちろん、MP管理と同時平行だ。
スタミナの低い小人族にはこれも辛い。高性能な混ぜ棒を早く手に入れたいが、値段も相応なので懐具合と相談中である。
「モモ、ちょっと早いな。少し速度をゆっくりにしてくれ」
「うん! こうかな?」
「いい感じだ。スタミナは足りているな?」
「大丈夫だよ、全然平気!」
「そうか。じゃあ、次にこの葉を入れたら、底の方からかき混ぜる感じで回してくれ」
「はーい!」
かき混ぜ方の違いで調合の進み具合や薬の効果が微妙に変わってくるので、調合師としての勘と経験が問われることになる。釜の中で刻一刻と変化する状況を見極め、対応を模索するのが一流の調合師なのだ。
こうして魔力やスタミナに注意しつつ、無事に暗い緑色の液体が明るい透明の緑になるまでかき混ぜれば出来上がりだ。
――《【高品質ポーション】×20が完成しました!》
完成したというメッセージが流れ、自動でインベントリにアイテムが収められる。どうやら今回の調合はかなり上手くいったようだ。品質の高いアイテムができると達成感も大きい。
「ふう。調合は大変だけど、やり甲斐があるな」
「ひどいズルを見たにゃ……」
何やら白猫が煤けているが【調合】のスキルを上げている途中で出てきた【集団調合】の効果だ。
何もおかしいところなどないな。
「――あ、これもそっちに並べといて。値段はさっき言った通りでよろしく」
「わかったにゃん……」
今作ったポーションを白猫に渡し、露店に並べてもらう。
ふと上を見上げる。
雲ひとつない、青い空。
真っ青な視界の中に、赤い細長いものが三つ見えた。
――《ポーション即売会》
――《材料持ち込み可、作成代行行い升》
――《お気軽にお声おかけください》
「あのぉ……掲示板で見たんですけど……」
「はい、いらっしゃいませー! どのようなご用件でしょうか?」
俺の作ったノボリが風にたなびいている。
「ねえ。これ、何かが猛烈に間違っている気がするんだけど……」
「そうかな? でも、アルバイトみたいで楽しいよ!」
「校則で禁止されてるからぁ、ちょっと新鮮かもぉ……」
記念イベント開始までの時間を、俺たちはこうして楽しく過ごしたのだった。
「……え、あたしが間違っているの……? そうなの……かしら?」
『楽しく遊んでみよう』
第二章・終
第二章・完!
次回はまた間章でリアルの方の話になります
※集団生産
生産系のスキルを上げると発現、複数人が協力して一つのアイテムを作成するという効果がある
当然生産スキル持ちが多いほど性能が高いものができやすい
だが、手伝う人間が生産スキルを持っていなくても、リーダー(作成時に決定する)のスキルが十分高ければ問題なく作成できる




