その5 臨時パーティ?
「初めまして、おすかれです。今日はよろしくお願いします」
盾に鎧兜を装備した重騎士姿のおすかれさんが、ややぎこちない動きで頭を下げる。
それに俺たちもそれぞれ挨拶を返し、簡単な自己紹介をした。
彼女は鉄乙女団のギルドメンバーの一人だ。
正式サービス開始後に加入した廉価版プレイヤーの新人だが、蒼月さんの目にかなって今回の人事に抜擢されたらしい。
まあ、人事なんて大げさに言ったが、単に一緒にPT組んで狩りに出るだけ。モモたちと鉄乙女団が懇意であると示すための、パフォーマンスの一種らしい。
あの話し合いの翌日、一通のメールが俺のもとに届いた。
内容は蒼月さんと鉄乙女団のギルマスの連名で、俺からの申し出を受けるというもの。ただし情報を発見したのは俺で、それを鉄乙女団が金銭で購入したという形を取りたいらしい。
そして、なるべく他のギルドには漏らさないでほしい、と。
詳しい話を聞いてみたが、鉄乙女団としても他のギルドと差をつけるために簡単には広めたくないのが実情のようだった。ゲーム内の発言力はギルドメンバーの実力も重要なパラメータとなる。女の集まりだからこそ舐められたら終わりなのだと言っていた。
こうした一部のギルドが有力な情報を独占するのもよく聞く話だ。美味しい狩場の場所やスキルの簡単な上げ方など、ギルド内だけで囲い込んで外には漏らさないらしい。
そして、個人ならともかく、ギルド相手だとそうそう非難することもできない。その辺も狙ってやっているのだろう。
……けど、蒼月さんを舐めるとか、そんな男がこのゲームにいるのか? あの人、話ししているだけでも威圧感が凄いんだが。
目が違うんだよなぁ、目が。
まあ、そういうわけで交流を交わすことが決まり、俺たちのパーティに鉄乙女団のゲストが参加することになった。当然三人にも話したが、鉄乙女団のメンバーなら歓迎するというので円満に解決した。
「モンスターの攻撃は私が受けますから、任せてくださいね」
俺たちのパーテイ構成を聞いて、蒼月さん自ら選んだのがおすかれさんだ。装備を見ての通り生粋の盾役。攻撃の一切を受け止め他に漏らさない戦線の要だ。
前衛が足りておらず後衛ばかり多い俺たちには、実に的確な選択だと思う。
◇
ヘビが鎌首をもたげて迫る。
俺の腕よりも太いヘビが、その長い牙をむき出しにして這いずってくるのだ、後ろから見ていてもかなりの迫力がある。
「《ジャストガード》!」
だが、おすかれさんが慌てることなく冷静に【技】を発動させた。体当たりを受ける瞬間、盾が光り輝き、ヘビの動きを止める。
そこに、ほのかな光を纏った怜悧な刃が襲いかかった。
「やああああ!!」
モモの振り下ろしの一撃が、蛇の胴体に食い込む。
今までで一番激しい赤いエフェクトを血飛沫のようにまき散らしながら、ハルバードの刃が通り抜けた。
「シャァァァ……」
空気が漏れるような鳴き声をさせながら長躯が大地に沈んだ。そのまま動き出すことなく光に包まれ、弾けて消えた。
見事なコンビネーションである。
「お疲れさまですぅ」
HPの減っているおすかれさんにエルが回復魔法をかけた。
「エルちゃん、ありがとうね」
「いえいえ、どういたしましてぇ」
三人娘とも打ち解けたらしく、おすかれさんは自然に話をかわしている。
おすかれさんの名前ってお疲れさんと関係あるのだろうか。俺はそれが気になっていた。
「ねえモモ、さっきそのハルバード光ってたわよね」
「え? 光っていた? ……そう?」
マーリンに指摘されて、ハルバードを光にかざしてみたり、逆さにしてみたり、揺すってみたりするモモ。そんなことで変化が出るはずがないのだが、モモは大真面目だ。
「そうじゃなくて! ステータスのスキルは今いくつになってるの?」
「スキル? ええっと……あ! 【槍】も【斧】もスキル10になってるよ!!」
見て見て!とモモがマーリンにステータス画面を示しているが、デフォルトの設定では他の人はステータスが見えないようになっている。
「モモ、そのままだと他の人に見れないぞ」
「あ、そっか! 今変えるね」
俺がそれを指摘してやると、モモが腕輪を操作して設定を変更したらしい。俺も二人の後ろから見させもらった。モモがでかい、座れ。
名前や種族の欄を飛ばし、スキルの一覧に目をやる。
【筋力 :015.33】
【体力 :012.48】
【槍 :011.37】
【斧 :010.02】
【持久力:007.36】
【運搬 :005.12】
他にもいくつものスキルがズラズラと並んでいるが、重要なのはこのうちの槍と斧の数値だ。
「モモ、斧のスキルの詳細見せてくれ」
「詳細? えーと、こうかな」
【斧:10.02】
10:【振り下ろし】
30:???
「これだろうな」
「じゃあ、やっぱりあの光が【オーラ】なのね」
「おーら?」
攻略サイトを見ていないモモはオーラを知らないらしい。
そういえば武人街にも行っていないし、その辺の説明を飛ばしているのか。
「戦闘スキルは廉価版と全機能版で違いがあるんだよ。おすかれさんが使っていた【技】と、モモが使った【オーラ】だ」
「え、違いなんかあるの!?」
「かなり違う。別のゲームみたいなもんだ。
というか、その二つだとそもそもスキルの効果が違うんだよ。廉価版の場合は武器スキルが高いと【ディレイ】が短くなって隙が減る。全機能版だと攻撃の【威力】が高くなるんだ」
廉価版プレイヤーはシステムサポートを受けることで攻撃を行う。
この時の攻撃のダメージは【武器の攻撃力】と【ステータスの筋力】に依存する。
しかし、全機能版のプレイヤーは上記の二つの要素に加えて【攻撃のスピード】や【攻撃時の衝撃】なども計算して算出される。
同じ武器、同じステータスのプレイヤー二人が同じ相手に攻撃した場合、しっかりと振った方はダメージが高くなるし、へろへろの剣しか振れない方はダメージが低くなる。
システムで動きのサポートが入らないとはそういうことだ。
そして、武器スキルが上がった場合、先程も言ったように廉価版プレイヤーはディレイの隙が減る方向に進み、全機能版プレイヤーでは威力が上がる。
全機能版プレイヤーが高レベルのスキルを所持している場合、かすっただけで大ダメージ、なんてこともありえるのだ。
「そうだったんだ……知らなかったよ」
「どちらにせよ、スキルのレベルは高いほうがいいということに違いはないからな」
「二つのバージョンの違いは攻撃を受けた時も違いがあるのよ」
いつの間に近くに寄ってきていたのか、おすかれさんが話に混ざってきた。
せっかくなので廉価版のプレイヤー本人さんから説明してもらおう。
「例えば攻撃を受けたとき、モモちゃんはその衝撃を感じるし、押されたら転んじゃうわよね?」
「うん」
「でも、廉価版のプレイヤーは映像と音だけだから。そういった衝撃は感じていないわ。『押されて転ぶ』なんてことがないの」
「確かにおすかれさんはぁ、盾で受け止める時もどっしりしていましたぁ」
「……どっしり……どっしりかぁ……」
エルの心無い一言がぐさりと突き刺さった。頑張ってください。
「……まあ、そういうわけで、普通は盾をやるんなら廉価版の方が向いているんだけど。中には全機能版の方が向いている相手っていうのもいるらしいわ」
「え、そんな相手がいるの!? だって廉価版って転ばないんでしょう?」
「それがいるらしいのよ。【ノックバック】の効果を持った攻撃をしてくるモンスターが。このノックバックを受けると廉価版プレイヤーは問答無用で吹き飛ばされちゃうらしいの」
「ノックバック……じゃあ、全機能版はどうなの?」
「そっちは自分の足で踏ん張れば耐えられる、かもしれない、だそうよ」
「へえ……そんなんだ。いろいろあるのね」
マーリンの質問におすかれさんが答える。廉価版と全機能版、一概にどちらが優れているとも言えない。性質が違いすぎるので相手や状況によって効果的な対応が変わるのだ。
「で、技とオーラだけど。技というのは廉価版プレイヤーが使える【必殺技】のことね。
私がさっき使った《ジャストガード》は発動した一瞬だけ盾の防御力が増すっていう技よ。他にもスキルごとにいろいろな技があるわ」
「オーラに関しては私が教えてあげるわ! 全機能版のプレイヤーのスキルが一定値に達すると、行動に補正がかかるの。斧の場合はスキルが10に達すると【振り下ろし】にオーラが発生するようになるのよ!」
廉価版と全機能版の戦闘システムの違いだが、その最大の違いがこれだ。
廉価版は常に動作にシステムアシストが入るが、一部の戦闘スキルが10や20などの一定の節目に達すると、強力な【必殺技】を身につけることができる。
この必殺技は特定の動作パターンを機械的に発動する代わりに、とても高威力な攻撃を繰り出すことができるのだ。使用する際にスタミナを消費したり、使用後にクールタイムが必要だったりするが、廉価版プレイヤーの切り札と言えるだろう。
それに対し、全機能版ではシステムアシストを受けることができないし、必殺技も放つことができない。だが、特定の動作を行った時に攻撃に【オーラ】が発生するようになる。
このオーラ、発生している間は武器の攻撃力が大幅に上がり、武器スキルが高いほどオーラの威力も上がっていく。
もちろん、基本的な威力補正もかかっているので、高スキルのプレイヤーがオーラを纏うととんでもない威力になるらしい。
「はぁー、そうだったんだ……」
手の中のハルバードをしげしげと見つめるモモ。
「槍もスキル10に届いていただろ? たぶん突きにもオーラが纏うようになっていると思うぞ」
「そうなの!?」
「ハルバードは【斧】と【槍】の【複数属性武器】だからな。使い方次第でどっちも適応されるんだよ」
「そ、そうだったんだ……使い方、かあ」
うんうんと唸りだしてしまう。いきなり言われても難しいだろうな。
「私でよければ教えるわよ? 蒼月さんの戦い方も見ているから、少しなら助言できると思うわ」
「わあ、本当ですか! お願いします!!」
「それじゃ、向こうの開けた場所で少しやってみましょう」
「はい!!」
そうして二人で素振りを始めてしまった。
まあ、さっきからずっと移動と戦闘ばかりだったし、一度休憩を挟むのもいいだろう。
「あ。そういえば複数属性武器を使うと個々の武器のスキルの上がり方が遅くなるんだが……まあいいか。今さら変えるようにも思えないしな」
エルとマーリンと三人で、モモたちの練習風景を眺めて過ごした。
のんびりした進み方だがこういうプレイもいいだろう。お、薬草みっけ。持って帰ろう。




