その3 モンスターバトル!
「きゃあっ、やだっ、やめてっ」
「クケッ? クケッ? コケッ!」
ニワトリはニワトリだった。
薄く緑がかった白い羽とケイトウの花のような赤紫のトサカ。普通のよりふた回りほど大きいが、羽を使って空を飛ぶでもなく、短く細い足で歩いている。
そのまま倒れこむモモに近寄り、ツンツンと桃色の髪を嘴でつつきだした。
それだけで既にモモは涙目である。髪をおさえて必死に嘴から逃げようとしているが、寝転んだままではそうはいかない。
「や、やめてぇ、助けてレンく~ん!!」
「……自分で起き上がれ」
見ている限り、完全にニワトリは遊んでいた。
パーティを組んでいるのでモモのHPも見ることができるのだが、全く、これっぽっちも減っていない。
地面に転がっている新しいおもちゃとでも思われているんじゃなかろうか。
「れ、れんく~ん……」
「はぁ……」
幸いニワトリはノンアクティブ――自分から襲いかかってくるモンスターではない。こちらから手を出さない限り安全なので、モモも攻撃を受けずにすんでいる。
すっかり腰砕けのモモを助けて仕切り直しを図るくらいなら大丈夫だろう。
「モモ! 今助けるわ!!」
「――はい?」
なぜかマーリンが前に出て、ニワトリに向かって杖を構えている。
おいおいおいおい、まさか、こいつ……
「待――」
「あんたなんか、焼き鳥にしてやるんだから!! 《炎球》!!」
「――てって、あーあ……」
止める間もなく、マーリンのキーワードによって魔法が完成した。杖の先に小さな――ピンポン玉くらいの大きさの炎の球が発生する。
マーリンの意思に従って魔法はまっすぐと飛び、今にもモモの髪の毛を引っ張らんとしていたニワトリの顔面に直撃した。
――ポンッ
爆発。
血飛沫――ではなく【オレンジ色の光】が発生する。
「やったわ!」
「やったわ、じゃねーよ!! アホか!!」
どう考えても倒せるような音ではない。
今のが本来の真言を全部唱えた魔法だったなら結果は違ったかもしれないが、【詠唱短縮】どころか【無詠唱】である。一発のダメージなんて期待できるはずがない。
爆発の煙などすぐに晴れる。
ニワトリはしっかりと両の足で大地を踏みしめ立っていた。
その瞳がマーリンへと突き刺さる。
「コオオオオオオオオケエエエエエエエエッッツ!!!!」
――怒れる赤き暴帝が、ここに誕生した。
「な、なんで倒れないのよっ!?」
「当たり前だろ……あんな魔法一発で倒せれば誰も苦労してねえよ」
想定外の弱いというか、想像力が貧困というか……。びっくりして固まってしまったマーリンめがけて怒鳥が走る。
早い。
ニワトリとはもともと足が早いものだが、俺の記憶のどんなニワトリよりも素早かった。
「ケエエエエエエエエッツ!!!」
残像さえ見えそうな速度であっという間に距離を詰めてくる。
このまま勢いに乗って蹴りを繰り出すのか、あるいは鋭い嘴を突き立てようというのか。
明確な敵意を漲らせながら、脇目も振らずにまっすぐ向かってくる。
俺はマーリンは前に立って、彼女を背に庇った。
「あ、あんた……っ」
背後で息を呑む声。
「あらぁ……」
何か見直されたような気もするのだが。
そんなことよりも、今は目の前に迫っている驚異への対処が必要だ。
「コケ、コッコオオオオオオオオオオッツ!!!」
視界から見えなくなったマーリンの代わりに、俺へと標的を改めるニワトリ。
気合は十分、最高速度に到達する――ッツ!!
「てい」
「コケッ!?」
俺は手に持っていたものをニワトリに投げつけた。
まっすぐ全速力で走っていたニワトリに避ける術などなく、両足に絡みついたそれに足を取られてそのままコケる。
「モモ、ハルバード拾ってこっち来て」
「あ、うん」
近くに転がっていたハルバードを手にとって、唖然とした顔で近寄ってくるモモ。
その間もニワトリは地面に転がったまま、短い羽をバタバタとさせて暴れている。
「……ねえ、あんた。何なの、これ?」
「【ボーラ】」
ボーラ。三又にした紐の先端に石をくくりつけて投げつける由緒正しい狩猟道具の一つだ。
それがニワトリの足に複雑に絡みついていた。
しげしげと観察していたエルだったが、ボーラの紐を見て気がついたようだ。
「……これってぇ、さっき取っていた……」
「蔓紐草だよ。そのまま使うんじゃなくて組紐にしてるから強度も上がっているはず。石はその辺に転がっていた石だね」
「……なるほどぉ」
納得したような、釈然としないような。
いつも笑顔のエルには珍しい、なんとも言えない微妙な顔をされてしまった。
「とりあえず倒そう。モモ、いけるか?」
「だ、大丈夫! ……たぶん」
走れないとはいえニワトリはまだまだ健在である。ジタバタとあがき続ける姿に若干腰が引けているが、それでもしっかりとモモは己の武器を構えた。
「なんか、思っていたのと違う気がする……」
「失敗する方が悪い。まあ、次頑張ればいいんだよ」
「うん……それじゃ、やるね!!」
グチグチと言いつつも、最早料理されるのを待つだけの活きのいい鶏肉へと、モモは大包丁を振り下ろした。
あー、唐揚げ食べたくなってきた。
◇
「――で、さっきのは……何?」
「ボーラだけど?」
「それは聞いたわよ! そうじゃなくて……そう、あたしたち、あんなの作れるって聞いてないんだけど!」
「あれは俺もびっくりしたわ。まさか作れるとは思っていなかったし」
「え? レン君、作れるって知らなかったの?」
「ああ。取った素材で適当に遊んでたら偶然出てきたスキルでな。攻略サイトにも載ってなかったし、正式サービスからの変更点なのかもしれない」
俺が作った【ボーラ】だが、実はこれは既出のスキルにはないスキルを用いて作られていた。
サイトには載っていなかったはずなので確証はないが、βテストで他に試した人がいないか、新しく追加されてまだ発見されていないスキルだろう。
「それでぇ、なんていうスキルなんですかぁ?」
「俺が新しく発見したスキル、それは――
――【手芸】だ」
……おい、誰だよこんなスキル制定したの。
そしてボーラを作るのは本当に手芸スキルでいいのか……?
※手芸スキル
【裁縫】や【装飾】などと違い、器具を必要としない生産スキル
他にも【折り紙】を作ったり【草冠】を作ったり【押し花】を作ったりできる
生産品はほとんどなんの役にも立たないガラクタばかり、むしろ作ろうという人間が絶無の未発見スキルである




