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その2 フィールド探索

 イベントがどんな内容なのか現状ではわからないが、それまでにやっておくことはたくさんある。

 何よりもまず必要なのがスキル上げ。そして、モンスターと戦って戦闘経験を積むことだ、


 東の外門から出ると広い草原が続いていた。この草原の先にずっと進んでいった先に気高い山々が連なっているのが見える。北に目を向ければ海が意外と近くに存在し、南は深い森となっていた。

 この草原と海沿いの岩場が初心者向けの練習場で、森や山は中級者以上の狩場らしい。街から離れれば離れるほど出てくるモンスターは強大になっていくそうだ。

 俺たちはしばらく街の近くで戦闘に慣れることからだな。


「それじゃあここの説明するが、この草原に出てくるモンスターは――」


「ウサギ、ヘビ、ニワトリの三つだけよ。でも森の方に進むと狼も出てくるから、そっちにはなるべく行かないようにしましょう。

 ウサギは見つかるとすぐに逃げちゃうから、弓や遠距離の攻撃手段がないと狩るのは難しいみたい。

 ニワトリはこっちが攻撃するまでは何もして来ないから慌てなくても大丈夫。

 ヘビは見つかると襲ってくるから注意してね」


「――というわけで、各自注意するように」

「「はーい」」


 相変わらずのマーリン先生である。補足する必要もないくらいに完璧で、攻略サイトにはちゃんと目を通しているようだ。

 別に説明役を取られて悔しいとかない。手間が省けてラッキーなくらいだ。


「ふふん」


 ――だがこのマーリン、実にイイ笑顔である。思いっきり小突き回してやりたいくらいに小憎たらしい。


「とりあえず、何かモンスターを見つけたらモモが前に出ましょう。あたしとエルは後ろから魔法で援護するから自由に動いてちょうだい」

「うん、わかった。任せて!

 さっきステータス見てたら【槍】と【斧】のスキルも上がってたし、頑張るね!」


 買ったばかりのハルバードを掲げて気合を入れるモモ。

 防具の方も一揃えで購入したので見た目は一端の冒険者という体だ。狼の革を使っていたので値段は多少高めだったが、その分防御力も高い。昨日の稼ぎが吹っ飛んだが、まあ許容範囲だろう。


「それじゃあ、マーリン。さっそく魔法を頼むよ」

「……え? ま、魔法? でもモンスターはいないわよ?」

「何を言ってるんだ、君らしくもない」


 攻略サイトを読んでいて、精霊魔法が使える彼女なら当然知っているはずなのだ。

 目が会った瞬間、ビクッと震えて視線を逸らされた。やはり知っていてシラを切るつもりのようだが、そうはいかない。


「精霊魔法の補助で《探知》の魔法があるだろう? ほら、今使わないでいつ使うんだよ」


 風属性の魔法で、周囲の音を集めて探知をするという魔法があるのだ。

 草原全体ははそれほど深くないのだが、腰くらいの高さの草がところどころに生えている。ああいうところにモンスターが身を隠していたりするので《探知》を使えると便利だとサイトに書いてあった。


「あ、あああ、あれね、そうね。そういえばあったわね。すっかり忘れていたわ! そ、それじゃあ、さ」

「おっと、もちろん短縮なんてしないでちゃんと詠唱するんだよな? 《探知》の範囲や精度がガクッと落ちるらしいから、手を抜いたりしないよな?」

「~~~~っ!! あ、あああ、あんた……っ!!!」


 ニヤニヤ笑いながら念を押す。

 昨日、あれほど詠唱を嫌がっていたマーリンだ。それを短縮せずに全唱えないといかねいのだから、きっと羞恥心が大いに刺激されまくっているのだろう。

 実際、顔を真っ赤にしてこっちを睨んでいるのだが、それは怒りよりも恥ずかしさの方が優っているようで、ちょっぴり涙目になっている。

 さっきの説明でドヤ顔してなければ見逃してやったかもしれないのに……自業自得だな。


「りっちゃんは今日も可愛いですぅ……」


 いつの間に音もなく俺の隣に移動したエルがマーリンの恥ずかしがる顔をたっぷり堪能しているが、俺は何も見なかったし、聞かなかった。


 ◇


「這うもの、舞うもの、駆けるもの! 猫の足音魚の吐息、あるものなきもの遠慮はいらぬ!! 暴いて晒して曝け出せ!!!

 ――《探知サーチ》!!!」


 マーリンのやけっぱちの詠唱が草原に響いた。


 ◇


「ううう……恥ずかしい……なんでこんなの……」

「えー、さっきのも面白い詩だなーって思ったけど」

「詩がいやなのよ!!」


 うがーっと吠えるマーリンだが、ちゃんと《探知》の術式は発動しているらしい。

 今は他の人が戦っていない敵を求めて移動中だ。サービス開始二日目なので初心者向けの草原にはプレイヤーの姿が多かった。


「レンさんは何をしちるんですかぁ?」

「草むしり」


 あてもなく歩いている間、何もしないのも暇だからと適当な草をむしって歩いている。リアルでは見たこともない草や花が生えているので、手にとって見てみると意外と面白いのだ。


「それはなんて名前の草なんですかぁ?」

「これは……【蔓紐草】って名前らしいな。長さもそこそこあるし紐代わりに使えそうだ」

「へぇ、面白いですねぇ」


 手の中の草を曲げてみたり引っ張ってみたりして強度を確かめる。生のままの草にしては意外と丈夫だ。


「あ、モモ! あそこの草むらに何かいるわ!!」

「本当!?」

「ええ……あれは、ニワトリ、かしら?」


 前の方を歩いていた二人が何か発見したようだ。マーリンがモンスターがいるという草むらを見てみると、その中に緑がかった白い羽が隠れているのが見えた。


「ああ、ニワトリみたいだな。見えるかモモ?」

「う、うん」


 ぎゅっ、と手に持ったハルバードを握り締める。少し緊張しているようだが、初戦闘だし仕方ない。


「どうやらこっちには気がついていないみたいだ。こっそり近寄って思い切り一撃入れてやれ」

「わ、わかったよ!」

「モモが攻撃したら、次はマーリン。相手からの反撃があったらエルはすぐに回復魔法を使ってくれ」

「ま、任せなさい、特別にあたしの魔法をあんたに見せてあげるわ!」

「わかりましたぁ」


 マーリンも緊張しているようで、明らかに空元気だった。それに引き換えエルは通常通りのほんわかムードで、それがなんだか心強く見えてしまう。


「い、いってくるね!」


 ハルバードを手に、じりじりとモモが進んでいく。

 無事にニワトリに気がつかれずに背後を取る。

 いけると判断したのだろう。

 モモがニワトリに駆け寄り、大きくハルバードを振りかぶる!


「ええええええええい!! ――きゃっ!?」


 コケた。


「……あのバカ」


 地面のデコボコか草にでも足を取られたらしい。ハルバードは近くの地面に投げ出され、ニワトリにはカスリもしなかった。


「クケェ~?」

「あ……」


 すぐ後ろでドタバタしているのだ、当然ニワトリに気づかれる。


「や、やぁ……っ! やめてぇ……っ!!」


 起き上がることもできないまま、哀れなモモはそのままニワトリの鋭い嘴の犠牲になってしまった――。

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