その1 祭りのお知らせ
――《【本国】から連絡が届いています。時間ができたら【冒険宿場】の【癒され女神亭】に顔を出してみましょう》
「癒され女神?」
昨日ログアウトした冒険宿場の広場にログインした瞬間、目の前にメッセージが表示された。発信者は【運営本部】。
どうやら運営からの連絡らしい。
「え? な、なに?」
隣でたった今ログインしたばかりのモモも、あたふたしながら目の前のメッセージ画面を眺めている。
モモにも同じメッセージが届いたのだろう。
「二人もまだ顔をログインしていないみたいだし、先にちょっと行ってみるか?」
「う、うん。そうだね。……ねえ、錬――レンくん。本国からの連絡って何だろうね?」
「さあなぁ。攻略サイトや掲示板には特に何も書いてなかったと思うけど、行ってみればわかるさ」
「そっかあ……そうだよね! ねえ、どっちに行けばいいのかな?」
「ああ、マップはっと」
冒険宿場のマップを表示して全体像を把握する。
西に向かうと中央市街。東の門から先は街の外のフィールド。
広場から見て南には【公園】と【魔法特区】に続いていく道があり、北側に【癒され女神亭】と【港】へ向かう道があった。
癒され女神亭はこの広場に面したかなり大きな建物らしく、ここからでもその姿が見える。入口の木の扉の上に、船首像のような形の女神の彫像が飾られている宿だった。
「あの彫刻が見えるか? あの店が癒され女神亭らしい」
「あの店だね! 早く行ってみようよ!」
モモに引っ張られるようにして歩き出す。
小人と巨人だ、これではまるで親子みたいだなと苦笑が浮かんだ。
◇
【本国】というのは俺たちの出身地のことだ。
この街は新しく発見されたばかりの【暗黒大陸】に作られた【開拓拠点】で、俺たちはこの大陸を冒険する為に集められた【冒険者】だというのが、このゲームの公式設定なのだ。
基本的には本国そのものがゲームの舞台になることはないが、たまに本国からの船がこの街に到着することがある。
「――というわけで、二週間後に船が着くから楽しみにしていてね~♪ その時は珍しい物を扱った市も出るから見て回るだけでもきっと楽しいわよ~♪」
癒し亭(長いので略した)の中に入ると、女将らしい美女が朗らかな笑顔で説明をしてくれた。
第一陣による開拓が成功し、第二陣の冒険者たちが無事に到着したので街を上げてのパーティを開催するらしい。市の他にもいくつかイベントを行う予定なので是非参加をして欲しいという話だった。
「パーティの準備ももう少ししたらいろんな場所で始まるから、貴方たちの協力を期待しているわ~♪」
「わかりました! 私もお手伝いします!!」
「ありがと、頑張ってね~♪」
「はい!!」
パーティの準備と聞いてモモの目の色が変わった。両目からやる気が満ち溢れている。手伝いをするのは構わないのだが、モモが根を詰めすぎないように注意して見ておこう。
◇
マーリンとエルとも無事に合流し、先ほどのパーティの話をした。
モモが準備を手伝いたいと言うと二人ともすぐに賛成した。まだ少し時間があるらしいが、実際にこの街が準備期間に入ったら俺たちはその手伝いに走り回ることになりそうだ。
「多分、これは正規サービス開始の記念イベントなんだろうな」
「記念イベント? ……ってなんなの、レンくん?」
「こういうネトゲだとな、節目節目で運営が大規模なイベントを起こしたりするんだよ」
月ごと、季節ごとにやるような定例イベントや、何かしらのフラグをプレイヤーがゲーム中で満たして発生するようなもの。あるいは運営が時期を見て開催を決定するものなどいろいろな種類ある。
「女将さんの説明で出ていた開拓の第一陣というのはおそらくβテストのことだろうな。で、それが終わって正式にサービスを開始したのが第二陣、つまり俺たちだ。
今回はその記念にイベントをやろうってことなんだと思う。一度きりのイベントだし、ゲーム開始直後の目玉の一大イベントだから、いろいろと豪華になるんじゃないか? 他のプレイヤーも奮って参加すると思うぞ」
「それは負けられないわね! モモ、エル、あたしたちが一番になるわよ!」
「楽しそうですねぇ、わたしも頑張りますぅ」
「勝ち負けとか一番とかあるのか? ……いや、貢献度換算とかすれば……?」
全員参加して楽しむというタイプと、貢献度ごとに商品が出て順位を競うタイプがある。
お手伝いは参加不参加どちらでもいいようだが、もしかして……。
「なんでもいいよ! みんな、いっぱい楽しもうね!!」
「……ああ、そうだな」
まだ二週間もあるのに今からすでに待ちきれない様子のモモに、俺も肩の力を抜いた。
どんなイベントだろうと、結局することは一つだけだ。
「お前ら、楽しみにしておけよ。楽しい楽しい、イベントだからな!」
このお祭り騒ぎを、精一杯、力の限り楽しんで遊びつくすだけだ!!




