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終わり 現実世界の女の子

「待たせたわね! ようやく何とかモノにできたわよ」


 台風一過のなんとも言えない気分でいるところにマーリンが戻ってきた。

 上機嫌いるのを見るに、キーワードだけの魔法でも何かしらの手応えを掴んできたのだろう。楽しそうでいいことだ


「やっと人がさばけたにゃん。もうクタクタだわん。……じゃなくて、にゃん」


 白猫もプレイヤーへの指導を終えてらしい。語尾が乱れるくらい疲れたのだろう、そっとしておいてやる。


「おかえり。まだ少し残ってるけどほぼ売り切れたぞ」

「にゃんにゃん、これだけ売れれば十分だにゃん。また仕入れして夜にインするプレイヤーさんに売りつけるにゃん」

「なかなかいい商売してるよな……」


 先程から見ていると、ろくな準備もなしにとりあえずフィールドに突っ込むというプレイヤーが意外と多い。

 あるいは魔法特区や武芸街の人が多すぎて諦めてそのままこちらに流れてくる人間もだ。


 そうした人間のうち、魔法職に興味ある人間にはこの白猫が。前衛職に興味がある女性プレイヤーは例の鉄乙女団が吸収し、鍛えている。

 それぞれ金銭でも儲けやギルドメンバーの確保という意味もあるのだろうが、同時に顔も売れるし感謝も得られる。

 一石二鳥にも三鳥にもなる戦術だ。


「そういや、白猫はβプレイヤーなのか?」

「んにゃ? そうにゃけど……その白猫って何にゃん?」

「え? 白猫は白猫だろ?」


 何言ってんだコイツ。

 不思議そうに見つめると、逆に見つめ返された。


「そういえばお兄さんの名前まだ聞いてないにゃん」

「……ああ、言われてみれば」


 先に商談に入ったからすっかり忘れていたな。


「俺はレンだ。よろしく」

「ミャーはミケにゃん。よろしく頼む――」


「「「「ミケ!?」」」」


「――にゃあああ! な、なんなのにゃん?」


 耳を押さえてプルプル震える白猫改めミケ。

 いや、なんで三毛猫ミケなんだよ……。シロとかユキとかもっといい名前いっぱいあるだろ。


「にゃぁぁ……照れるにゃん」


 その反応、わけがわからん。


 ◇


 三毛じゃないミケとそのまま少し話をしていたが、流石にいい時間になってきた。


「三人とも、もうお昼だからそろそろログアウトするぞ」

「え? ――嘘っ! もうこんな時間なの!?」

「あらあらぁ」


 ステータス画面に表示される時間を見てマーリンとエルが驚く。ネトゲは気がつくと時間が飛んでいるから注意が必要なのだ。

 VRMMOだと肉体的な疲労が少ない分、時間の経過が感じにくいというのもあるかもしれない。


「……じゃあ、また今度だね。マーリンちゃん、エルちゃん。ミケさんもまた」

「ミャーはいつでも暇してるからまた遊びに来るといいにゃん。露店はお客さんいないと暇なのにゃん。フレンド登録もしておくにゃん?」

「あ……うん! お願いします!!」


 ミケに友人フレンドと認めてもらって嬉しいのか、モモが笑顔を見せる。

 ネトゲのフレンド登録はもっと適当で気軽なものだぞと、水を差すのはさすがに気が引けた。


「じゃあ俺らもやっておくか」

「レンは嫌にゃん」

「なんでだよ!?」

「だって意地悪だから――にゃーんて、嘘にゃん嘘にゃん。ミャーは優しいからちゃんとやってあげるのにゃん!」


 この猫、いつか泣かせてやる。

 そう心に決めた俺だったが、そのまま無事に全員がミケとフレンド登録した。これでゲームにインすればいつでも連絡が取れるわけだ。くくく……。


「さて、今日は街の中を見て終わったわけだが――ああ、そういや武芸街もまだ見ていないのか。

 ま、それはともかく。次回は装備を整えたら街から出てみよう。お待ちかねの戦闘だ!

 訓練もできたし、モンスターもたぶん大丈夫だろ」


「「「やったー!」」」


 解散前に次回の予定を勝手に決める。三人とも喜んでいるし異議はないようだ。


「やっとあたしの出番ね! あたしの魔法を見せてあげるわ!」

「街の外はどんな世界なんでしょうねぇ」

「楽しみだねー!」


 今からテンション上げてると本番まで持たないぞ?


「それじゃあ、本当にそろそろログアウトするぞ」

「みんな、またにゃ~」


 名残惜しいが、時間が迫っている。

 腕輪を操作してログアウトを選択。


 ――《ログアウトを開始します》


 音が遠ざかり、視界も色褪せて灰色になっていく。


 ――またな


 最後に言ったその言葉が伝わったどうか、俺にはわからなかった。




 ――《ログアウトが完了しました》




 ◇


 暗闇の中で身動きせずにじっと待つ。

 しばらくそのままでいると、筐体内部に備え付けられているランプがだんだんと明るくなっていく。

 目に優しい暖色系の間接光。先程まで脳で認識していた視覚が、しっかりと両目を介したものに変わっているのを確認する。

 特殊なジェルの入ったマットの上で身じろぎをする。違和感はない。

 それなしに長い時間横になっていたのだが、このマットが体重を上手い具合に分散させて体への負荷を軽減させてくれるらしい。


 内部のパネルを操作して、筐体のカバーを開ける。

 降りてまず目に飛び込んでくるのは桃色の筐体。

 モモ――萌の好きな色だ。


 そう考えていると、筐体の蓋が開き、マットの上で横になっている少女の姿が見えた。


 明るい茶色の髪の、小柄な少女。

 胸は薄く、くびれてなく、お尻も小さい、発育不全の身体。

 整ってはいるものの、年相応よりももっと幼い、何も知らない子供のような無垢な顔。


「錬也くーん」


 ピンクのパジャマを着たまま、手を振って笑っている。


「ゲーム、楽しかったねー!」


 俺はベッドから降りて、少女のもとへと向かった。

 その小さな体を抱き上げる。

 軽い。

 中に何が入っているのだろう、何も入っていないのではないか。

 時折そう思えて不安になる。


「歩けるか?」

「うん。支えてくれる?」

「わかってるよ」


 地面に下ろし、ふらつく体が倒れないよう、横から支えてやる。


「楽しかったなー。私、あんなに歩いたの久しぶりだよ。人もいっぱいいたし、ミケさんもおばあちゃんもいい人だったし。すっごく楽しかったね!」

「ああ、そうだな。だが、さっきも言ったが次はモンスター相手だ。すごく怖いかもしれないぞ? ちゃんと戦えるのか?」

「大丈夫だよ、おばあちゃんに薙刀教わったもの! 私が錬也くんのこと守ってあげるね!」

「はいはい。それじゃ頼りにさせてもらうよ」

「えへへー、任せてね!」


 ゲーム部屋から出て、萌の私室へ向かう。

 ドアの外にいたメイドさん――萌の側付きをしている天野さんに着替えとお昼の準備をお願いする。


 午後からは検診だ。その結果次第だが、きっと次のログインの許可も出るだろう。

 萌はこんなに元気なのだから。







 『街を歩いてみよう』


   第一章・終

本当に街を歩くだけで一章丸々終わらせてみました

どういう世界観なのか少しはわかってもらえたらいいなー、ということで

次は間章を挟んで二章に入ります


なお、この小説はほのぼの系ネトゲ小説です

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