その5 冒険宿場と青い巨人
青い巨人と言ったが、別に筋骨隆々の男女というわけではない。
同じ種族であるモモが幼女のような少女であるように、中の人の体型と逸脱しない範囲でしか外見は変わらない。
見上げるほどの巨体だが、その線は細く、スラリとした柳を思わせる物腰。背筋が伸び芯の通った立ち姿には気品と貫禄さえ漂っているように思える。青い長髪を背後に流し、蒼色の瞳は深い光を宿している。
そして、年月が刻んだ幾筋ものシワと、枯れ木のような一種独特の乾いた空気。
――巨人老婆。それが俺の前の相手だった。
「聞いているのかい? あんたがこの――モモちゃんの連れであってるんだろう?」
「あ――ああ、はい。そうです。俺がモモの……保護者ですけど。モモがどうかしましたか?」
「ふぅん」
ジロジロと視線が突き刺さる――値踏みされている。
とりあえず、座ったまま見下ろされるのもなんなので立ち上がった。エルにも手を貸して立たせる。
もちろん、立った程度で埋まるような身長差ではないのだが、老巨人は隣のモモよりさらに頭一つ分背が高かった。
「――そっちの子は? その子もあんたの連れなのかい?」
「……はい。このはエルエル――エルといって、俺の連れです」
「初めまして。天使族のエルエルと申します」
俺の紹介に合わせて堂に入った動きで頭を下げる。育ちの良さが感じられる動きだ。
「そういや自己紹介がまだだったかい。あたしゃ蒼月。ギルド【鉄乙女団】のサブマスって奴だよ」
「俺は小人族のレンです」
「見りゃわかるよ」
なぜこんなに刺々しいのかわからないが、どうやら俺は目の前の巨人に嫌われているらしい。
会ったばかりのハズなんだが……。
「すいません、俺、何かあなたを不快にさせるようなことをしましたか?」
ただのネトゲで絡まれるくらいならともかく、今の状況では判断がつかない。
そういえば昔から老人に嫌われることが多かった、これもそういうことなのだろうか。
「さっきモモちゃんをうちのギルドに誘ったんだがね。あんたがいるから入らないって言うんだよ。
ああ、もちろんあんたは誘わないから安心しな。うちは女性限定の気楽なギルドで売ってるんだ、男連中はごめんだよ」
頼まれても入りたくないです。
「話聞いたら他にも二人女の子がいて、金にあかせてその子らを囲い込んでいるって言うじゃないかい。これがうちのドラ息子みたいなボンクラだったら、ちょっくら懲らしめてやろうかと思ったんだがね……」
ギロリ、と蒼い瞳が剣呑な輝きを宿す。
これは相当な修羅場を潜った人間の目だと直感する。
モモの祖父がよくこんな目で睨んでくるのだ。とてもじゃないが生きた心地がしない。
「――ふん。まあ、そこそこの面構えだね」
殺気というのかなんなのか、老婆の威圧が緩み、一息つく。
とてもじゃないが慣れるものではない。
「ありがとうございます」
本当は罵倒の言葉で返したいところだが、老人連中というのは総じて頑固でプライドが高いのだ。
『そこそこ』というのが、この手の人種の褒め言葉だということくらいは理解できている。
そんな俺の態度に、老女はむしろつまらなそうな目を向ける。あんたを楽しませる為にやっているんじゃないっての。
「それじゃ、あたしは戻るがね。モモちゃんもそっちのエルちゃんも、もう一人の子ってのも。この坊主に愛想が尽きたらいつでもうちのギルドにおいで。
ああ、別に用事がなくても遊びに来ていいからね。いつでも歓迎するよ」
「うん、ありがとう、おばあちゃん!」
「はい、今度改めてお伺いさせていただきます」
まさに孫を見るような目で二人を見ている。
俺との態度が違いすぎだろう。
まあ、これでようやくこの老婆もいなくなるのかと、せいせいした気分になる。
「坊主」
「――えっ?」
肩掴まれ、ぐいと引かれた。
「萌ちゃんのことはあんたに任せたよ、しっかり守ってやんな」
「……はい?」
なぜ、萌のことを知っているんだ?
◇
「……モモ、あの人、お前の知り合いか?」
悠々と去っていく老婆の背中を見送りながら、モモに尋ねる。
「え? えーと……」
うんうん唸って考えること、数秒。
「……そういえば、昔、お世話になったおばあちゃんに似ているかな?」
なんとなく初めて会った気がしなかったのってそのせいかな?と、お気楽な笑顔を浮かべているのだが。
全機能版のVRMMOを買うような層は、何かしら縁があっても不思議ではないということなのだろう。
――ちなみにモモが教えてもらっていたのは【薙刀】らしい。あの人マジで何歳なんだ……。
老婆も老人も遊んでいるゲームです
むしろ老人の方が金も暇もあるのかもしれません




