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その4 冒険宿場と鉄乙女団

「レンさん、どんな感じですかぁ?」

「ぼちぼちかな。在庫も残り少ないし」

「そうですかぁ」


 すっと隣に腰を下ろし、エルは布の上に広げられた真印を手に取った。

 各魔法ごとに違う模様を形作っているそれは、見比べてみると意外と面白い。

 十字形の神聖魔法、六芒星を描く精霊魔法、下向きの三日月が暗黒魔法で、何重にも重なる円が時空魔法だ。

 それらを手のひらの上で転がし、覗き込む。


「そっちはどうなんだ? もう練習はいいのか」

「はぁい、わたしは大丈夫ですぅ」

「じゃあマーリンは?」

「『吹っ切れたわ! 詠唱なくしてキーワードだけ言えばいいのよ、足りないものは数で補うわ!!』っていいながら連射の練習をしていますよぉ」


 意外とものまねが上手かった。

 はきはき喋るのか、とちょっとした衝撃を受ける。


「モモちゃんはいないんですかぁ?」

「ああ、あっちで練習している」

「あっちぃ?」


 モモのいる場所を指差した。


 女の園。

 女性プレイヤーキャラが広場の一角を占拠していた。


 ◇


 唸りをあげるハルバードの一撃が、なんの成果もあげることなく盾によって弾かれる。

 数十キロの鉄の塊を容易く振るうことのできる剛力と。

 そんな慣性のついた鉄塊を難なく弾き返す、怪力と戦闘技術。


 巨人族の女二人が戦っていた。


 いや、正しく言えば戦いではない。

 桃色の髪の巨人が必死に斧槍を振るい、青い髪の巨人はそれをただただ受け止めるだけ。

 これは訓練だ。

 ハルバードの一撃は青い巨人には一切通用していない。二人の間には圧倒的な差があった。


「ほらほら、それじゃ腕だけの振りになっているって言っただろ? もし足腰使って全身で振るんだよ!」

「はい!」

「重心も移動させて! 体重をしっかりとのせる! ためらわずに前に踏み出しな!!」

「はい!!」

「いいよ、その調子だ! そのまま連続で! 重心を崩すんじゃないよ!!」

「はい!!!」


 実に熱血である。


「……あれはぁ?」

「【鉄乙女団】」

「くろ……?」

くろがね 乙女おとめ だん


 鋼の理に身を包む、熱き鋼鉄の乙女たちの集い。


 中には後衛職の人もいるらしいが、そのほとんどが巨人族や前衛向きの獣人族というガチガチの肉体系。

 溜まった鬱憤ごとぶっとばす!が合言葉の女性限定の【ギルド】である。


 ……マジこええ。


「この広場でギルドメンバーの勧誘を始めてなぁ……。女性プレイヤーに前衛での戦闘方法を体験させてくれるって言ってたから、モモに試しに行ってもらった」


 少し後悔している。


「そうですかぁ。モモちゃんも楽しそうですねぇ」

「ウン、ソーデスネ」


 あの集団にモモが染まったら嫌だなぁと、そう思ってしまうのは仕方のないだろう。


 ◇


「ところでぇ」


 また一人商品を買っていった。

 残りを数えていると、エルが身を寄せて、内緒話のようにそっと尋ねてきた。


「モモちゃんとレンさんって、付き合っているんですか?」


 思わずエルの顔を見つめてしまったが、にこにこと変わらない微笑みをたたえているだけ。

 なんとも調子の狂う少女である。


 この質問をリアルバレ禁止、プライバシーだからと拒絶することは簡単だ。

 だが、相手はモモの友人でもある。

 モモの近くにつきまとう見知らぬ男のことを知りたいと思っても、なんら不思議ではないし、俺自身、この子にしゃべることに忌避感を感じていなかった。

 どうやら俺は自分で思っていた以上に口が軽かったらしい。


「俺とモモは……なんだろうな。親しい友人……だとは思うが」


 ただの親友なのか、と聞かれるとたぶんノーだ。

 だが、恋人なのかと聞かれると首を傾げたくなる。

 嫌いではない。

 モモのことは好きだ。

 だが、それは恋愛の意味の好きなのかというと自信がない。


「友達のような、妹のような、家族みたいな大切な相手……かな?」


 おそらくモモの方も同じような感じだろう。

 お互いを大切に思っていて、尊重して、受け入れている。

 身を焦がすような恋慕はないが、愛情は抱いているのかもしれない。


 なんともあやふやで、それゆえに容易に絶つことのできない関係だ。


「そうなんですかぁ」

「どうしたんだ、いきなりこんなこと聞いてくるなんて」

「いえいえ」


 にこり、と楽しげな笑顔。


「ただの好奇心ですぅ。久しぶりにあった友達が男を連れてきたんですよぉ、気になるじゃないですかぁ」


 本当にそれだけの理由なのか。他に理由があるのか、ないのか。


「そうか。まあ、確かに気になるわな」

「ですよぉ」


 ふわふわした微笑みは、まるで魔法のように頼りなく、掴みどころがなかった。


 ◇


「レンくーん!」

「ん?」


 俺を呼ぶ聞き慣れた声。

 VRマシンを通して再現する際に少し調整をかけているはずなのだが、抑揚や喋り方がそのままなのでリアルの声とよく似ている。


「どうし……た……?」

「あんたがモモちゃんの連れって奴かい」


 目の前に、青い壁が立ちふさがっていた。

※女性限定ギルド【鉄乙女団】

 女性のみが参加できるβテストでも最大手だったギルドの一つ

 屈強可憐な淑女たちの集団

 その現実はみんなで集まってお茶とお菓子を食べながら日頃の愚痴を言い合うこと

 お茶会パーティーの締めにはモンスターを血祭りに上げて素材にする……という噂

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