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御伽の国の王子様(半分だけ)  作者: 杉浦則博
5/8

5 異世界ワイド劇場

土ワイ的な。


 日もそろそろ暮れかけてきた黄昏時。油灯が揺れて部屋の中に陰影を作っている中、俺は今までの事情を一通り説明し終えたのだった。


「しかし、ミスって大量召喚とはなぁ……? まあワシらも似たようなモンだから強くは言えんが、またアホな事をしたもんだ」


 俺の正面で腕を組み、盛大にため息をつくのは老齢の男性だ。皮膚に多少の弛みと皺は見えるものの、未だに全身を覆う筋肉と傷痕は健在。シデン王国は三代目国王、ゴオウ・シデンその人である。

 虎耳と尻尾、それにヒゲが薄紫と黒の縞模様であり、紫電虎の獣人である事が一目で解る。裾をたくし上げ、股引を穿いているのでパっと見では時代劇の岡っ引きのようだ。


 見た目からして豪快な我が爺ちゃんはその予想に違わず、頭を使う案件にはあまり向いていない。今回の件も一応考えてはいるけど覇気が目減りしているのが解る。

 まあ、戦ってる時の爺ちゃんは伊達に王国最強名乗ってないってぐらい強いしカッコいいから別に良いのだ。流石はシデン獣兵団時代の数少ない生き残りだ。


「恐らく、一度は普通に召喚しようとしたのでしょうね。陣そのものが壊れていたか、召喚者の力量が足りなかったか……もしくは別の要素があったか。ああ、コタ君は道中お疲れ様」


 一方、俺の右手に座ってる赤毛の男性は俺を労いながらもその手を止めない。マジでこの人が居なかったらこの国はもっとゴタゴタしているだろうって仕事っぷりだ。

 そんなオリアス伯父さんは俺や爺ちゃんよりも獣成分が多く、全身が毛で覆われている。某劇団の猫ミュージカルと言えば解りやすいかな。あ、顔もちゃんと毛が生えてるよ。ペイントじゃないよ。


 こうして普段は宰相としてバリバリ働いているオリアス伯父さんだけど、いざ戦いになったら俺じゃあまず勝てないぐらい強い。爺ちゃんよりは小さいけど、それでも身長180センチある上にこの人魔法メインだし。

 オリアス伯父さんは赤獅子と言う魔獣の獣人であり、火をメインに様々な魔法を使いこなす。俺が一応全属性の魔法を使えるのはこの人と師匠に憧れたって部分も大きいだろう。使いこなせてないって言うな。


「ホント疲れたよ……で、伯父さん。どうしよっか?」

「おいちょっと何でワシに言わん」

「陛下はこういった事には不向きでしょう。そうだな……手段はどうあれ、公爵家嫡子の誘拐として扱って良いだろう。賠償金を求める形で良いな。どうせあの国だし、どう転んでも不利益は無い筈だ」

「オッケー。じゃあ今までに掛かった金額とこれからの皆の滞在費、ギルドの皆に出す分と……師匠にも幾らか渡しといた方が良いかな? の、三倍で」

「五倍だな」

「十倍で良いだろ」


 マジっすか。まあ、元々が微々たる金額だからそれぐらい吹っ掛けても大した額にはならないんだけど、あの国はシデンを毛嫌いしてるから多分払ってくれないと思う。

 そうなったらそうなったで別の方法を使えば良いだけの話だ。むしろ爺ちゃんなんか今からそうならないかとウキウキしている。よく見たら伯父さんも尻尾がいつもよりアクティブだ。そして多分俺も。


「国としての動きはそれで良いとして……問題はコタローとそのお友達だね。確か、今は学校に行っている時期だろう?」

「うん。バリッバリの平日。だからなるべく早く帰してあげたいし……召喚陣、弄っちゃ駄目かな? ニルムも前から弄りたいって言ってたし」

「良いんじゃないか? どうせ普段使ってるのもお前とトウコツだけだろ? ぶっ壊れても他の連中には関係ないさ」

「異世界との行き来による経済・精神的な影響が無くなるのは痛手だが……簡単な改造から少しずつやらせれば大丈夫か」


 伯父さん、一応ニルムは最近の師匠の弟子の中で一番だって言われてるんだけど……歴代一位から見たらへっぽこ同然ですかそうですか。


「そうだ、改造に使った手間賃もファイルテスメスに請求する金額に入れちまおう。材料費だけでも結構かかるだろ?」

「恐らく請求のタイミングと合いませんよ。根こそぎ貰ってから分配する時で良いでしょう」

「わー、完全に払ってくれないって前提で動いてるー」

「当たり前だ。むしろこっちとしてはその方が色々とありがたいからな」


 ですよね。俺が生まれてからはまだやって無いけど、この国は成り立ちからして血の気が多い上に獣人や亜人の国だ。たまにガス抜きをしないといけないらしい。

 獣人は動物や魔獣とは違う生き物なのだと言う証明のため、率先して理性的・文化的な行動を取ろうとする。が、人間より獣寄りの存在にそんな事が続けられる訳がない。人間だって無理な奴は一杯いるのに。

 そのガス抜きをついでにやろうという事らしい。まあ、ぶっちゃけて言えば戦争である。


「じゃあニルムと師匠には俺から伝えとくよ。あとファイルテスメスに請求……も俺かな。えーっと後は……」

「いや、私から伝えておこう。流石にファイルテスメスへはコタ君に行ってもらう必要があるが、今日はまず体を休めなさい」

「そうだな。聞いた限りじゃ戦えねぇ奴を何十人も連れてきたんだろ? まずは風呂と飯だ、ゆっくり休め」

「……うん、解った」


 カイメイをファイルテスメスに手紙持たせて送っても自分が何やってっか理解できねーだろうしな、と多分八割本気の爺ちゃんの冗談を聞きながら部屋を後にする。

 伯父さんの娘なのにどうしてカイメイはあんなアホの子に育ってしまったんだろう、と思いながら館の入口へと戻ると、途中の部屋に修学旅行生みたいな状態のクラスの皆がたむろしていた。


「お、殿下だ」

「おっすー殿下ー」

「だからその呼び方やめろって……ヴィネさんは?」

「ライオンのメイドさん……女中さん? ならタオルとか持ってきてくれるって言ってた」


 何人かはぶっ倒れてぐったりしていたり足を揉んだりしている。流石に現代っ子に上履きで山歩きは辛かったか。レアは部屋の隅っこで女子に囲まれている。

 そして残念だが皆が泊まるのはココではない。多分また歩けって言われたらブーイングしてくるんだよなコイツら……。


「ああ、殿下。お戻りになられましたか」

「見えてたくせに……でも良かったの? 皆ホイホイ館に上げちゃって」

「殿下のご友人との事でしたから……それに何かあっても私だけで制圧可能と判断しました」

「あー……まあ、それもそうか。クロウ達は?」

「解散されたようですよ。クロウ君は殿下の湯浴みや夕餉の準備があるでしょうし」


 ヴィネさんが俺が来た方とは逆の廊下からやって来る。館の警備がザルも良い所だけど、ウチは上に行けば行くほど強くなるから暗殺とかあんまり気にしないんだよね。

 さて、皆には悪いけどヴィネさん達にあまり迷惑をかける訳にもいかないし移動しよう。あと風呂も入らないとね。


「じゃあ皆、座った所悪いんだけど移動だ。風呂入ろうぜ風呂、銭湯あるから」

「あー……マジか。なら行く」

「飯は?」

「風呂入ってる間に作っとくよ」


 クロウが。ストレートボアが間に合えばぼたん鍋だろうけど……まあ最悪味噌汁作ってそこにぶち込めば良いだけか。

 他の皆も風呂と飯と言う欲求には勝てないのか、言葉少なに立ち上がる。折角ヴィネさんがタオルを用意してくれたのでそれを有り難く使わせてもらおう。


 ゾロゾロと館を出ると、すっかり日も暮れてしまっていた。外輪山があるせいで日照時間がちょっと少ないんだよな、ここって……。

 と、そんな事を考えているとマモルが俺の隣にやって来る。どことなく不機嫌そうなのは、昨日の夜にも言われたように秘密にしていた事を怒っているんだろうか。


「何かさ、この国の人達に対しては態度でかいっつーか砕けてるよな、お前」

「そう? あー、まあこういう国だからね。舐められないようにってしてる部分はあるかも」

「こういうって何がだよ? 確かに和風ファンタジーって感じだけど、治安が悪いって訳じゃないんだろ?」

「獣人の国だからって事だよ。強い=偉いって考えがどうしてもあるんだよ、この国は」


 人よりも獣に近いからこそ、本能に従って生きる部分がある。理性があるからこそ、獣としての本能を抑えつけようとする。ここはそんな連中の国だ。

 人間ほど歪んでいる訳じゃないけど、どうしても無理が生じる部分はある。だからこそガス抜きや本能に従う部分が必要になってくるんだ。福利厚生の一環とも言える……と、思う。


「後はまあ……俺も一応獣人の括りに入るからね。獣化してる時は言動もワイルドになるさ」

「そんなもんか……? しかし暗いな」

「街灯も細い道には無いからね。獣人や亜人は大体夜目が効くから必要ないし……必要になったら魔法使えば良い話だし。こんな風に」

「ああ、成程……どれ、俺もやってみるか」


 光量重視の光球を出し、足元を照らしてみる。それを見たマモルや皆も魔法で足元を照らして俺の後に続いていた。

 獣化している状態の俺だから問題なく歩けてたけど、よく見たら皆は結構おっかなびっくり歩いてたしね。この辺は傾斜がキツいから道から足踏み外したら転げ落ちるし。


「ん? あっちの道は街灯ついてんだな……あの辺は明るいのか。飯屋とか?」

「シデン王国の数少ない第三次産業だよ。鳥目の人達も居るし、明るい所は明るくしないとね」

「じゃー向こう行けばいいじゃーん。何でこんな暗い所通るのー?」

「この道真っ直ぐ行った方が早いんだよ。ここからだとぐるっと回らないとあの道行けないし」

「っつーか田んぼだらけでカエルがウッセェ」

「そりゃ仕方ねぇよってうわぁ!? 蛾!?」


 慣れない夜道に手間取りながらも、無事に誰も転がり落ちずに銭湯へ辿り着いた。この国では珍しい瓦屋根の大きな建物の所々から湯気が立ち上っている。

 中の様子を探ると、それなりに客入りがあるのかそこそこの人数の気配がする。まあ変に騒がせなけりゃ大丈夫かな。


「何だ、混浴じゃねーのか……」

「当たり前だよ。ちわーっす」

「あ、いらっしゃーい。ヴィネから話は聞いてるわよー……ヒック」

「だから仕事中は飲むのやめましょうよソテイさん……」


 銭湯に入って正面すぐの所に番頭のソテイさんが居るのは良い。ただ何で酔っぱらってるんですかね。しかもアンタ蛇でしょうが。ウワバミが酔うんじゃない。

 とりあえず向かって右手の男湯に入る。と、番台の壁がどんでん返しになってぐるりとソテイさんが現れた。相変わらずの無駄機能である。作者は俺の親父だけど。


「な、なあコタ。また後にしないか? その、番頭が女の人ってのは……」

「そーだよ。ババアならまだしも……いくら酔ってるったってさ」

「ここの番頭あの人しかいねーよ。大人しくケツ見られとけって」

「「「ええぇ……」」」


 風呂と酒をこよなく愛する白蛇のソテイさんは、好きでこの銭湯をやっている。じゃなきゃわざわざ番台にお湯も入れていないだろう。お陰でここ脱衣所なのに湯気が酷い。

 俺はソテイさんは勿論、ヴィネさんやらキュウキ伯母さんやらにガキの頃からケツもチンコも見られまくりなのでもうどうでもいい。や、流石に陰毛生えてからは隠してるけど。


「んー、絶景絶景。若いって良いわねー」

「……おいコタ、あんな事言われてんぞ」

「気にするだけ無駄だよ……んじゃ、他のお客さんの迷惑にならないようにね」

「あーんつれないー……ヒィック!」


 ソテイさんもこれさえなけりゃとっくに結婚しててもおかしくないのに……と言うか、ここ暫くあの人がシラフになってるのを見てない気がする。大丈夫か?

 まあそれより今は風呂だ風呂。ヴィネさんから貰ったタオルを肩から背中にスパーンと打ち付けて浴室へゴー。


 日本のような四角い湯船と並んだ蛇口ではなく、小さく石積みで区切られた湯船がズラリと並んでいる。正面、右手、左手と囲まれてる形だ。

 正面と左手の湯船には誰かが入っているのに対し、右手の浴槽はお客さんが周りに座って頭や体を洗うためにお湯を桶に汲んでいる。


「おおぉ!? な、何かスゲェな!」

「まあ銭湯ってだけ聞くと日本のやつ思い浮かべちゃうよね。あと響いてうっさいから静かに」

「あ、ああ。悪い。こっちで体洗えば良いんだよな?」

「うん。椅子と桶はその辺にあるから」


 隅っこに積まれた椅子と桶を掴み、右手の浴槽の外に他のお客さんと同じように座る。皆もゾロゾロと浴室に入って来たようだ。

 俺は一度頭からお湯を被り、適当に置いてある桶から粉を少し取ってそのまま頭を洗い始める。程なく粉が水を吸い、わしゃわしゃと泡立ち始めた。


「お、それシャンプー?」

「ああ、ムチャルクって木の実の種の粉末。見ての通り泡立ちも良いし、臭いも悪くないでしょ? あと何より弱酸性なんだよこれ」

「弱酸性か」

「弱酸性だよ……何でわざわざそこだけ聞き直したのさ」


 何度か粉を継ぎ足しながら泡で全身を撫でるように洗っていく。シャンプーで全身を洗っている気分になるが、湯船に入る前にある程度の汚れさえ落ちれば良いのだ。

 そのまま全身泡まみれになった所でもう一度お湯を被る。うん、オッケー。


「そうそう、湯船ごとに温度違うから気を付けてね。右手の奥の角の湯船が一番熱くて、そこから離れると温くなってくから」

「ああ、あのお湯流れ込んでるやつだろ? オッケー」

「オラ小早川テメーチンコ隠してんじゃねーよ」

「おいちょっとやめろってうわ! 目に泡入った!」


 俺はアホな事をし始めた皆をスルーし、一番人口密度の高い湯船より一段階熱い湯船に入る。おー、コレコレ。良いねー。んぁー。


「坊、ありゃ坊のお友達かい? ソテイちゃんが何やら言ってたが」

「ん? あぁ、アボウさん……済みません、お騒がせして」


 湯船に首まで浸かってボケーっとしていると、同じ湯船に牛の頭をしたオッチャンが入って来た。牛の獣人のアボウさんだ。因みにジャージー種である。


「いやまあ、私は良いさ。ただ、私みたいにここで生まれ育った奴ならともかく、直接移住してきた人達には気を付けた方が良いよ」

「あー、ですねぇ……アイツらこっちの世界の事殆ど知りませんし」

「さっき空兵団が運んでたのもあの子達だろう? 牛が牛飼ってるって驚いてたよ」

「……済みません。後できつく言っときますんで」


 別に良いさ、とアボウさんは笑う。が、根本的な話をキッチリ皆に伝えていない俺が悪いのだ。空兵団でカチンと来た奴も多いだろう。

 牛の獣人が農耕用の牛を飼っている、という絵面のインパクトの強さは解るが、その辺は獣人にとって非常にデリケートな問題を含んでいる。


 獣人と獣の境は非常に曖昧であり、頭の良い獣とちょっとアレな獣人はまず見分けがつかないぐらいだ。他人からそう見られるのは、獣人にとって死を覚悟するぐらいの恥でもある。

 故に他人に正面からそう言われる事は喧嘩を売られるレベルの侮辱であり、ペットや家畜を飼う事は知恵の無い獣とは違うというアピールでもある。中々に歪んだ思考だよね。


「ははっ、坊も色々とやってるみたいだがまだまだって事だな」

「お恥ずかしい限りで……あー、お前ら。女湯覗くとかみっともない真似すんなよ」

「え? ああ、上開いてんのか……いや流石にそこまではしねーよ」

「やったらカイメイにぶっ殺されるだろうしな……」


 俺が爺ちゃん達と話をしている間に帰って来たのか、女湯からカイメイの声が聞こえる。アイツの家にも風呂はあるが、爺ちゃんと伯父さんと同じ風呂は嫌なんだそうな。

 耳に魔力を集めて女湯の様子を探ると、やはりと言うかクラスの女子連中はカイメイの胸部装甲に驚愕しているようだった。お、年齢聞いて更に愕然としてる。結構グイグイいくな……。


「あの、えっと……吾郷さん?」

「いや、アボウだ。アボウ・ミノス。君は坊の友達かい?」

「あ、はい。藤崎守……っと、マモル・フジサキです」

「ふむ、それでマモル君は何か聞きたい事でも?」


 俺が女風呂の様子に注意を向けていると、いつの間にか同じ湯船にやってきていたマモルがアボウさんと話していた。お前そんなグイグイいけるキャラだっけ?


「いや、その……こっちのコタの様子について色々と聞いてみたいなって」

「アァ!?」

「おお、そうかそうか。しかしそうだね、どこから話すべきか……」

「ちょ、アボウさん!」


 思わずマモルを抑えつけようとしたが、タッチの差でアボウさんに押し留められる。こうなると純粋な力勝負になってしまって勝ち目がない。

 全力を出せば何とかなるが、その場合マモルが閃脚万雷の余波で吹っ飛ぶことになる。まあ良くて全身打撲と複数個所の複雑骨折はするだろう。流石にそこまでする気は無い。


「ぐぬぬ……」

「何がぐぬぬだ。そうですね、こっちだとどんな感じの評価って言うか印象って言うか……」

「ふむ……そうだね。若い子達には色々と刺激のある物を見せているみたいで人気なんじゃないかな? 夜に集会なんかもやっているみたいだし」


 そろそろ天丼やめいや。と言うか、こうやって改めて人からの評価を聞くと恥ずかしいのは俺だけじゃない筈だ。うおー、やめろー。


「刺激……集会……!? コタ、お前……」

「如何わしいモンじゃねーよ。向こうの漫画とかアニメ見せてるだけ。パソコン一台あれば大体できるしね」

「あ、ああ……え? いや電気無いだろ?」

「発電機ぐらい持ってきてるよ。他にもソーラーパネルとか風力発電とか……あと俺の得意な属性、忘れたのか?」


 集会は皆で映画見たり音楽流してクラブっぽい雰囲気になったりしてる事だろう。因みにシデンに入る前にサイゾウが俺に聞いていたのはコレの事だったりする。

 ……それにマモルが勘違いした方面の刺激は確実にこっちの世界の方が上だしね。即効性の媚薬で「悔しい、でも…! ビクンビクン」とか普通にあるし、この世界。


「後はまあ、そうだねぇ……最近は腕も立つようになってきたし、坊がゴオウの旦那の跡を継ぐならあまり文句も言われないんじゃないか?」

「別に誰が継いだって文句自体は言われないですよ……付いてくる奴が居なくなるってだけで」

「いやそれ駄目だろ……って、アレ? あのカイメイって子が従姉って事は……あの子も王位継承権あんの?」

「あるも何も一位はカイメイだよ。二位がその弟のサコン、三位が母ちゃんで俺が四位。オリアス伯父さんは婿養子だから継承権は無いよ。

 母ちゃんは俺が王位継ぐって言ったら即効で辞退するだろうし、サコンはともかくカイメイなんか自分が王位継承者だって理解してんのかどうか……」


 はぁ、とため息をつく。元々王への依存度が低い国だけど、それでも俺を含めて王位継承者がこんなんばっかりで大丈夫なんだろうか、この国。


「そうやって考える事が出来るなら大丈夫さ。空兵団を作った実績もあるし……いざとなったら姫さんを嫁にしてしまえばいいさ」

「へぇー……この裏切りモンが」

「蹴んな。まあ少なくとも当分は爺ちゃんのまんまだろうし……早くても大学出るまではどうこうするつもりも無いしね」

「坊は異世界生まれではあるけど、その分この国に無い考え方が混じってるからね。他の若い衆と比べても落ち着いているし、一国民としては賢君の方が嬉しいよ」


 ……正面からの賛辞に顔が赤くなるのが解る。あーもう、だから嫌なんだよ! もういい! 上がる!


「ありゃ、もう上がんのか? って行っちゃったし……」

「はっはっは。坊もまだまだだね」

「ですねぇ……後は何か面白いネタとか、有ります?」

「未来の国王陛下に睨まれるような事はしたくないねぇ」

「……ですねぇ」



 風呂上りにジョッキ一杯の山羊乳を飲み、全員上がって来たので俺ん家まで戻る。俺だけ甚平が用意されていたが、どうせクロウが置いといてくれたんだろう。


「で、何でカイメイがしれっと合流してんだ?」

「んー、だめ?」

「いや別に良いけどさ……んじゃ猪肉追加持って来いよ。あとサコンも呼んじまえ」

「いいよー」


 脱衣所から出てきた時のトップレスこそ隠させたが、それでも肩からタオルをかけるだけだったので適当に理由をつけてカイメイを先行させる。

 どの道カイメイも晩飯を一緒に喰うつもりなら間違いなく足りなくなるだろうし、サコンだけ仲間外れってのも可愛そうだ。

 あと何よりレアが物凄い形相でカイメイを睨んでいるこの状況に耐えられない。何でお前そんな怖い顔してんの? やっぱ乳?


「ああ、乳が……」

「スゲーもう見えねー……あの子、明かりも何も持ってなかったけど大丈夫なのか?」

「獣人舐めんな。これぐらい昼間と大して変わんないよ……しかし、アイツももう少し羞恥心とか持てないもんかね」

「まあこっちとしては眼福なんでオールオッケーですが」

「死ね」


 俺としては珍しくストレートに罵倒するが、女子の視線も大体同じ感じなのでセーフだろう。なんてやってる間に俺ん家に到着である。

 爺ちゃんの屋敷ほど大きい訳じゃないが、それでも他の家よりは一回り以上大きい。イメージとしては南部曲り屋が近いかな。

 それ以上に目を引くのは家の周りにドカンと鎮座する発電用設備だけど。ここだけ妙に現代チックである。


「おーい、コター! はーやーくー!」

「ね、姉さま。お客様もいらっしゃいますから……と言うかここ僕達の家じゃないんですよ!?」

「まあ姫様はずっとこんな調子ですし……お帰りなさいませ、殿下。お食事の準備は整っておりますよ」

「ご苦労さん、クロウ。サコン、カイメイにはとやかく言っても無駄だしあんまそういう事気にすんな。カイメイはもーちょい落ち着け」


 勝手知ったる従兄弟ん家、と言わんばかりにノースリーブ甚平を着て囲炉裏の上座を占拠するカイメイ。手に持ったてんこ盛りご飯に齧った跡があるのは見ないフリをしてやるべきなんだろうか。

 その隣ではその弟のサコンがオロオロしており、ピンクのフリル付きエプロンをしたクロウが鍋の具合を見ていた。プレゼントした俺が言うのも何だが、相変わらずキモい恰好である。


「お、また何か増えた」

「何かとか言うな。あの赤毛のちっこいのはサコン。カイメイの弟だよ」

「え、いや弟って……模様が虎じゃないぞ? 髪も真っ赤だし……お前らの紫ってのも凄いけどさ」

「伯父さん似だからな。亜人や獣人が居る世界だし、人間でも交雑が起きるんだ。俺みたいにハーフになる事もあれば、どっちかに寄る事もあるよ」


 まあ、混じり気の無い獣人でも俺みたいな切替型だったり、単純に獣成分が薄まった人間とのハーフも居るんだけどね。その辺は細か過ぎて分類するのも面倒だ。

 とにかく、カイメイとサコンは紫電虎と赤獅子のハーフであり、カイメイは紫電虎、サコンは赤獅子にそれぞれ寄ってるって認識でオーケー。

 そんな説明を適当にしながら囲炉裏の前に置かれている円座に座り、米櫃からガンガン米をよそって皆に渡し始める。クロウが申し訳なさそうな顔をしているが、お前は猪鍋を配るので手一杯だろうが。


「やべぇ米足りねぇ。サコン、悪いけど釜持ってきてくれ。そっちにはまだあるだろ?」

「解りましたけど……良いんですか?」

「ん? 別にマナーとか気にする連中じゃないから良いよ。まだ米貰ってねー奴居る?」

「あ、縞田君。こっちに三つ頂戴」

「あいよー」


 流石にウチにある最大の米櫃でも三十人以上は無理だったのか、途中で米がなくなりかけたのでサコンに釜ごと台所から追加で持ってきてもらう事にする。

 だからクロウは肩を落としてる暇があったら手を動かせ。そしてカイメイは一人だけ食ってんじゃねぇよ。せめて何か手伝えよ。


「……可愛い」

「サコンきゅんハァハァ」

「ネコミミショタマジ最高ッス」


 うんまあサコンはまだ十歳だし顔立ちも可愛い系だけどね。お前ら興奮し過ぎて若干キモいからね。あと猫じゃなくライオンだからね。

 とりあえずこいつらにはサコンを近付けないようにしよう、と決意を固めて配膳を一気に終わらせる。もう何人かは待ちきれなかったようで食い始めていた。どれ、俺も食うか。


「猪って初めて食ったけど美味いなコレ」

「そうか? 何かクセェんだけど」

「それが良いんじゃん。さてはお前ジンギスカンも無理だな?」

「まあ獲れたてだからな。まだ結構ある筈だから明日以降は臭み抜けたヤツが食えるさ」


 臭いとか言いながら箸が止まってない辺り、よっぽど腹が減ってたんだな。俺もだけどさ。あ、クロウそこのしらたきくれ。

 なんてガツガツやっておじやまでガッツリ頂く。かなり大きい鍋だったが、流石にこの人数と高校生の食欲の前にはあっけなく空になってしまった。

 いや、一番食ってたのはカイメイだけどさ。しかもお前ご飯何回お代わりしたんだ? 俺は三回だけど。


「ゲェフー……あー、食った食った」

「何か途中で食った事の無い味のもんが混じってたけど美味かったな……」

「お褒め頂き恐悦至極。お召し物の替えを客間に用意してありますので、お休みの前にご確認下さいませ。お茶を淹れますが、お飲みになられますか?」

「ああ、これはどうも……頂きます」


 リミッターを解除して詰め込んだのか、何人かは腹を物理的に膨らませてぶっ倒れている。流石に男子だけだけど。

 俺を含め十人ちょいがクロウにお茶を頼み、カイメイはいつの間にか魚の骨を齧っていた。あとレアはずーっと隅っこで肉齧ってる。怖い。

 と、外から聞こえる虫の声に違う音が混じった。あー、この下駄の音はもしかして……。


「おーっす……おお、ガキばっかり」

「ああ、師匠。それにニルムも。いらっしゃい」


 これまた勝手知ったる何とやらか、庭には小さい影が二つ。一人は男物を着流してキセルを咥えた少女であり、もう一人に至っては全身毛むくじゃらの上に法被を羽織っているだけだ。

 二人は縁側から家に入ると俺の近くに腰を下ろす。流石と言うべきか、二人が腰を落とす直前にクロウが円座を滑り込ませていた。


「それで、また厄介事か? ホンットにテメェらの一族は面倒事ばっか持ってきやがって……まあ、楽しませてもらってっから良いけどよ」


 どっかりとあぐらをかいた少女―――師匠ことディーワ・クアエダム・レムレース・ギガス・カエルムが可憐な見た目とは裏腹に皮肉気な笑みを浮かべる。

 この人は見た目こそ十歳にもならない少女だが、間違いなくこの国で最も長生きしている人物の一人だ。そして同時にこの国で最も優れた魔法使いでもある。


 皮肉屋で露悪的な所もあるけど根は優しい人であり、子供達に魔法を教えている事もあって皆から慕われている。無論、俺もその一人であり頭は全く上がらない。

 本来、獣人は大半が魔装以外の魔法を使わないし使えないが、この国の九割以上の獣人が魔装以外の魔法を使えるのは間違いなくこの人のお陰である。


 魔法の腕前と知識は間違いなく世界でもトップクラスであり、どういう経緯かは知らないけど気が変わるまではこの国に居るつもりらしい。

 また、世界中を旅していた事があるらしく、その見識から歴代の王の相談役もやっている。爺ちゃんはババア呼ばわりしてるけど、それも信頼の裏返しだ。


「大体の事はオリアス様から聞いてる。コタロー、推薦してくれてありがとう……大丈夫だ、俺に任せてくれ」


 そんな事を言って師匠の隣に座る毛むくじゃら。グレムリンのニルム・エルグだ。

 コイツはこんな見た目だが妖精系の亜人であり、手先の器用さもあって様々な道具を作る事が出来る。俺の装備も幾つかはコイツの作だ。

 最近は特に召喚陣についてご執心であり、常々弄りたいと言っていたので今回手を加えさせる事にした。良いきっかけになってくれると嬉しいな。


「まあアタシも監督するし、魔力充填式にするだけだから大丈夫だろ。材料費はゴオウに回しとくよ」

「ええ、よろしくお願いします」

「……で、お前はどうするんだ?」

「……ん、まあ落とし前ぐらいはつけに行こうかなーっては考えてますけど」


 そうか、忙しくなるな。と師匠は来たばかりですぐ立ち上がる。まあもう夜遅いもんね。歳が歳だから早く寝ないt、


「何か言ったか?」

「いえ、何も……あ、そうだ。暇になった時で良いんでこの中の希望者に魔法教えてやって貰えませんか?」

「あぁ? ……ったく、しょうがねぇな。どこまで教えた?」

「急ぎだったんで魔力の操作の実践ぐらいですね。他は殆ど知らないようなもんです」


 またメンドクセー事を、と額に手を当てて師匠は天井を仰ぐ。いやホント面倒事ばっかり持ってきて申し訳ないです。ハイ。


「まー解った。材料が揃うまで暇だしな……その間にお前も準備進めとけよ?」

「ええ、それは勿論。じゃあ師匠、ニルム、お休みなさい」

「ああ、お休み」

「んじゃな、コタロー、クロウ。カイメイさんもお休み」


 さっさと用件だけ伝えると二人は下駄を鳴らして帰っていく。いや、ニルムは草履か。足ちっちゃいもんなアイツ。


「さてと……明日から忙しくなりそうだな」

「しかしアレだな。この国来てから新キャラ出過ぎだ」

「んな事言ってもなぁ……地元帰ってくれば知り合いも増えるさ」

「いやそうなんだけどさぁ……正直覚えきれねぇ」


 いや別に覚える必要ねーよ? なんてツッコミを入れながら俺は皆を客間に連れて行くのだった。



主人公の家には普通に持ち込んだシャンプーとか有ります。

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