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ツライ……俺が美少女すぎて。  作者: ハリネズミ
Ⅲ.美少女よ、可愛くあれ!
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9.そのままを受け入れてくれる存在

「おうっ。どーしたニャンコ?」


放課後、いつもの芝生へと向かった。

美少女が芝生で寝転ぶなと怒られそうだが、人に見られていないところでまで気張るつもりは一切ない。


そんな俺の元に、いつものようにニャンコとワンコがきた。

ワンコが甘えてくるのはいつものことだが、今日はニャンコがやけに優しい。

ワンコに嫉妬したりもせず、ゴロゴロと喉を鳴らして擦り寄ってくる。


「もしかして……慰めてくれてるのか?」


ニャンコがニャアと短く鳴く。ニャンコをギュッと抱きしめると、

いつも構って攻撃をするワンコがおとなしく隣に丸くなる。なんだよお前ら。優しすぎるだろ。


『なあー……。聞いてくれよお前ら。俺、ボッチになっちまった』


ニャンコの腹の柔らかい毛にすりすりする。


『わかってんだけどさあー……悪気がないってことも、俺のためにしてくれてるってことも。

けどさあー、やっぱさあー……。心の底から女の子らしくあれって、無理に決まってんじゃん。ちくしょー……』


ああー、でもこれでボッチ。切ない。

そんなことを考えていたら、いつだったかみたいに蹄の音が聞こえてきた。


「なにやってんだ」

「セドリック……シシィ……」


あ、やべ。弱っちい声が出た。

セドリックは眉をひそめて俺をジロジロ見ると、「乗るか?」と自分の後ろを指した。

え、シシィに? ま、マジっすかセドリックさん。


「で、でも乗り方がわからん……」


そう言ってまごまごしていると、セドリックはこちらに手を差し伸べてくる。

その手につかまると、彼はあっという間に俺を馬上にあげてくれた。お、おおー!


「すごい! 高い! 怖い!!」

「つかまっとけ」


腰に手を回せというのでありがたくそうすると、セドリックは「行くぞ! シシィ!」と言って手綱をとる。

う、うわああああシシィさんが本気を出したああああ!!!


体がめちゃくちゃ揺れる! 落ちっ、落ちる! 必死にセドリックにひっつくと、彼は上機嫌に笑い出す。

お前ー! これわざとかー!? こんのやろうわあああああカーブしたああああ振り落とされるううう!!!!




そんなこんなで、シシィがとまったときには俺はもう満身創痍だった。

髪の毛がぐちゃぐちゃになってるが、それを整える気にもなれない。


「おい、ついたぞ」


そう言ってセドリックに腕を軽く叩かれるが、力が入り過ぎてまったくほどけない。降りれない。


「ほら、とりあえず顔をあげろ」


セドリックの手櫛で髪を整えられ、視界がちょっと開ける。促されるままに顔を上げた俺は――


『な、なんだこりゃ……!?』


目の前の光景に、言葉を失った。


とにかく、もっふもふなのだ。

様々な種類のウサギが、もっふもふのもっふもふなくらいいる。

ピンっと耳が立ったのから、耳が短いのから、垂れてるのから、毛がもっさもさなのから、とにかくいーっぱい。

ウサギの楽園だー!!


「ほら、降りるぞ」


俺の腕の力が緩まった隙にセドリックがひらりと降り立ち、俺に手を差し伸べてくれる。

その手を掴むと、ひょいっと降ろしてくれた。うまいな、お前……。


「お前、好きだろ? 小動物」

「好きだ!」


うおおおおおウサギー!!!

やはり今生の俺は動物に好かれるようで、俺が追いかけなくてもあっちからウサギがよってきた。

うおおお可愛い……。一羽膝の上に乗せてみる。ふおおお……。

え、お前も乗るの? え、ちょ、お前も!? 最初に乗せたウサ公が潰れる!?

ハッ、気づけばウサギに四方八方を塞がれてる……!?

お、お前らみんな登ろうとするなっ。お、おいっ。うわあああああ。


「なにしてんだ」


ウサギに埋れて大変なことになっていた俺を、セドリックが抱き上げてくれた。助かった……。

って、うっ。セドリックの足元でウサギ達が俺を見上げている……。

俺にはわかる、地上に足をつけた途端、あいつらがワラワラ登ってくるだろうことを……。


「セドリック、重いだろうけどしばらくこのままでいてくれ」

「まあいいけど……」


ヒシッと首筋にしがみつくと、セドリックは涼しい顔でこの状態をキープする。

お前……お前、すごいな。頼んだ俺が言うのもなんだが、しんどくないのか?


「お前、軽いな。ちゃんと食ってるか?」

「うん。肉は無理だけど」

「へえ、何が好きなんだ?」

「果物! 桃とか、葡萄とか、林檎とかたまらん」


ウラの世界で蜜と果物だけで育った俺は、肉を受け付けない身体になっていた。

卵や牛乳は加工してあれば大丈夫なんだけど、肉は本当に一切も食べれない。

食べたいとも思えない。一度、無理矢理食べてみて三日三晩嘔吐がとまらなかったし、こりごりだ。

というわけで、今の俺はジューシーな肉汁したたるステーキじゃなくて、頬張るとジュワッと果汁が溢れてくる果実に食欲がわく。


ところが、お貴族様達はそうではない。

肉を食べることができる=権力があるという図式になってるようで、とにかく肉を食べたがる。

よって、実は朝から肉がこんもりでる。幸い自分で取り分ける形式なので、

俺はその横に飾られてるフルーツ籠からひたすら果物をとっていく。


「なら今度、この庭園の中の葡萄畑に連れてってやるよ」

「まじか!」


おまっ、おまっ、どんだけ良い奴なんだよ!?

舞い上がるだけ舞い上がって、少し不安になった。

なんでこいつ、こんなに良くしてくれるんだろう。

そして、どんどん仲良くなったら、こいつも俺の言動を矯正しようとするんだろうか。


「なあ、どうしてこんなに良くしてくれるんだ?」


思い切って聞いてみると、セドリックは真顔になった。

それから、「なんでだろうな?」と首を傾げる。


「お前、いちいち反応が面白いから一緒に居て楽しいんだ」

「でも……。……俺、見た目は美少女だけど、中身こんなんだぞ」


「こんなん」のところで鼻をブニッと押し上げると、セドリックはブフッと噴き出した。

おおおおおう、え、なに? ツボったの? お前の笑いの振動でこっちも揺れるんですけどどどど!


「馬鹿。そこが面白くて……ククッ。いいんだろ」



おまっ……! 良いやつ!!


あまりに感動したので「お前サイコー! 友達になってくれ!」と言うと、

セドリックはついに耐えきれなくなったのか笑い転げた。

俺も巻き添えをくらって、かつそこにウサギが殺到してくるからとんでもないことになった。


ふたりともすっかり毛だらけになって、それがなんかもう、楽しくて。


よかった。俺、ひとりじゃないんだ。


元成人男性としてどうかとも思うけれど、そのことに心底安心してしまった。


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