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ツライ……俺が美少女すぎて。  作者: ハリネズミ
Ⅱ.美少女な俺、学園に入る
6/17

6.ツライ……ちょっと楽しくて。

 わかった。

 1位はセドリック=オースティン=クレイ=アルマだ。あの、名前が一個多いやつだ。

 

 それがわかったのは、シャロンと一緒に時間割を組んでいた時だった。

 時間割が組めるといっても、一年生はほとんどが必修科目だ。

 それでも、一日に一限分は選択科目をいれる場所がある。

 選択科目は魔導士用、騎士用、魔導騎士用と、それと妙なものがひとつあったのだ。

 

「なにこれ? 優良生用?」

「ああ、忘れてた! 僕たち、それを取らなきゃいけないんだよ」

「なんで?」

「成績上位3名は、学年の代表として色々やらなきゃいけないことがあるらしいんだ。そのための時間だよ」

「はああ? しかもこれ、通常授業終了後ってあるじゃん!」

「えーと、えーと、でも、とっても名誉なことなんだよ。

 単位もちゃんともらえるし、先生からも一目置いてもらえるし……」

「めんどう」

「えーと……優良生にだけ許されることもたくさんあって、優良生には特別な専用個室も与えられて……」

「めんどう」

「奨学金ももらえるんだよ」

「まかせろ」

「えええっ!?」

 

 急に手のひら返した俺にシャロンは理解できないという顔をしたが、養い子の俺とっては当たり前すぎる理由だ。金ない。金欲しい。

 そりゃ学費は出してもらってるし、寮だから生活費は学費の中にはいってる。

 小遣いも幾らかもらってる。でもな、おそらくこれは洋服代だけで使い切ることになる。

 俺が女だったらそれで満足だっただろうが、女物の洋服買っても心は満たされねえんだよ!

  具体的に何が買いたいとかあるわけじゃないが、欲しいものができたときのためにも金が欲しい。

 そして、そんな理由だからこそ、養ってくれているグレイスには頼めない。

 

「でも、これからセドリック様とご一緒することになるなんて、ドキドキだね」

「ん? セドリックって、あの黒髪の?」

「う、うん。シェーネちゃんは大丈夫そうだけど、僕、仲良くできるかなあ?」

「…………。…………あ。あいつが1位なんだ」

「ええっ!? シェーネちゃん、知らなかったの?」

「むしろなんでシャロンは知ってるの?」

「入学式で代表の挨拶をしていたでしょ!?」

「…………?」

 

 そんなのあったっけ。

 あ、なんかシャロンがガックリしてる。なんだよー、よくわからんがそんなに気を落とすなよー。

 

 それにしても、あいつが1位なのか……。セドリック、ちょっと興味あるな。

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、僕はこれから習い事に行くね!」

「おー、行ってらっしゃい」

 

 初等部一年生の授業は、早い日は午前中だけで終わる。

 しかし、大抵の子供たちはいくつも習い事をしていて、授業が終わったあとも

 寮に家庭教師を呼んだり馬車に乗って通いに行ったりしている。

 まだ遊びたい盛りの子供だろうに、お貴族様は大変だ。

 

 俺は何にも習い事をしていないので遊びたい放題なのだが、パッと思いつく遊びがない。

 チェスやカードゲームは対戦相手が必要だし、刺繍や手芸は興味ないし、前世では料理が

 ちょっとした趣味だったんだけど、部屋には材料もキッチンもないし……。

 読書でもいいけど、オモテ言葉で書かれたものを読むのは、

 まだ余暇の楽しみにできるほどのレベルじゃないしなあ。もちろん、七歳児向けのものは楽々に読めるが。

 

 ぶっちゃけ暇だった。この世界に来てから始めて、本格的に暇だと感じた気がする。

 なんでだろう。赤ん坊だった時の方が、満足に動くこともできず、ヒマを持て余していたんじゃ……――ああ、そうか。

 

 

「庭園に散歩にいってきます」

「気をつけて行ってらっしゃいませ」

 

 

 廊下を掃除していたメイドさんにひと言声をかけて、寮から外に出る。

 

 ほんの少し肌寒かったが、太陽が出ているので日なたはポカポカと暖かい。

 ある程度歩いて、ちょうど良さそうな芝生を見つけた。ポフンとそこにダイブする。んー、ちょっと硬いな。でもよく手入れされてる。

 

 芝生のベッドを堪能していると、お腹の上に軽い重みが。

 頭だけ起こしてみると、青と金のオッドアイがこちらをじっとみている。

 ニャンコだ。

 白色の長毛種で、優雅に動く尻尾なんかふわっふわだ。

 

「おー、美人な猫だなあ。でも重いよ!」

 

 両手を伸ばして合図すると、猫はちょっと面倒そうにしながらも、

 両腕の中におさまってくれる。うおおもふもふー。やわらけーあったけー。

 フワフワした白い毛を堪能していると、背中にポフッと柔らかなものがのしかかってきた。

 なんだなんだと見てみると、これまた真っ白な毛並みのワンコが千切れんばかりに尻尾を振っていた。

 

「お? なんだワンコ、お前もかー」

「わんっ!」

「はいはい、ぎゅー」

 

 ワンコの方がでかくて抱きごたえあるなあ。あ、でも犬特有の息遣いがうるせえ。

 その点ニャンコは静かでいいなあ。あ、ちょっとお猫様、凍てつくような眼差しで見ないで。

 え? もしかして嫉妬? 嫉妬なの? 気位高いな! わかったわかった!

 お前のことぎゅってするから! ふう……。って、ワンコが潤んだ目でこっち見てくるーっ!?

 なんだその捨てられた子犬みたいな目はっ! お猫様も勝ち誇った顔しない!

 あああもう機嫌よくゴロゴロ喉鳴らして……可愛いな……可愛いけど耳がしょげてるワンコがこっちを見てくる……!

 

「くそう俺はどうしたら……っ!? 分身の術でも使えばいいのか……!?」

 

 とかなんとか苦悩していると、馬の蹄の音が聞こえてくる。

 ニャンコとワンコと共に音のする方向をみていると、黒い毛並みの馬が優雅に駆けてきた。

 

「なにやってんだ、お前」

「あ、セドリック君」

 

 ニャンコとワンコにもふもふされてる俺に気づいて、セドリックは馬をとめて鞍から降りる。

 馬はよく見たら子馬だったが、そうはいっても七歳児にしてみたらかなり大きい。

 それなのにひらりと降り立っちゃうんだから、偉そうなだけあるな。

 

「芝生に寝てたらニャンコとワンコが来たので、一緒に遊んでました。よかったらセドリック君もどうですか?」

「俺のシシィが嫉妬するからな」

「シシィって名前なんですか? 可愛いですね。はじめまして、シシィ。シェーネです」

 

 そういうと、シシィは鼻先を擦り付けてくる。おおっ、意外に人懐こい!

 

「こいつが俺以外に懐くなんて……」

 

 と思ったら普段はそうでもないらしい!

 ご、ごめんセドリック。なんかショック受けてるみたいだけど、ウラの世界にいたせいか、俺めちゃくちゃ動物にモテんだよね。

 居候時代も、毎日パンクズやってるソフィアより俺の方が小鳥に懐かれてたし……。ソフィアがむくれるから困ったよ。

 

「いったいどんな魔法を使ってるんだ?」

「え? まだ何も使えないよ?」

 

 あ、敬語抜けたわ。

 

「…………そうなのか? グレイスはまだ何も教えてないのか」

 

 でも、セドリックはピクッと眉が動いただけで、特に言及してこなかった。ほほーう。じゃあ、タメ口でいいのかな。

 

「うん。見せてももらえないし」

 

 魔法壁は、魔法っちゃ魔法なんだけどさあ。火を出すとか空を飛ぶとか

 もっとわかりやすいものだってあるだろうに、いまだみたことない。まあ、精霊や妖精はナチュラルに浮かんでたけど。

 

「そうか……」

 

 と言いつつ、セドリックは腰を降ろす。シシィはその辺で草をはみ、ワンニャンは私の背もたれになっていた。

 

「見るか?」

「え! セドリック君、魔法使えるの?」

「まあ、簡単なものだけだけどな」

「見る見る!」

「じゃあ、手を出せ」

「こう?」

「ああ」

 

 俺が手を出すと、セドリックはそこに平べったい乳白色の石を置いた。

 そうして懐から細身の杖を取り出すと、その石をコツンと叩く。

 

 すると――

 

「わああっ!!」

 

 石は、パン生地のようにむくむくと膨らんでいき、ぱあんっと破裂した。

 すると中から花びらが飛び出し、目の前がピンクやらオレンジで染まる。

 

「え!? 石がどうして花びらに!? えーっ!?」

「くくっ……、ほんとに見たことないんだな」

 

 セドリックは俺の反応が気に入ったのか、「ついでだ」といってツイッと杖を振る。

 すると、重力に従ってヒラヒラと落ちはじめていた花びらが、ふわっと風に乗る。おおおー。なんか、花びらで出来た龍みたいだ!

 セドリックが指揮棒のように杖を振るたび、花びらの龍は優雅に空を舞う。

 かと思えば、俺に向かって一気に花びらが押し寄せてきてもみくちゃにされた。セドリックの笑い声が聞こえる。

 

 文句を言ってやろうかと花吹雪が途絶えた後に口を開いたが、花びらと戯れているセドリックを見て、そんな気は失せてしまった。

 

 花びら遊びは、妖精たちがよくしていた。

 風に舞わせ、自分たちも花と一緒に舞い踊り、そして歌う。

 

「                       」

 

 妖精たちが好んで歌っていた歌を、記憶を頼りに口ずさんだ。

 懐かしいな。3年ぶりなのに、覚えているもんだな。

 あーあ、みんなは俺のこと覚えているだろうか。忘れられてたら、ショックだなあ……。

 

 

 

 

「はあー、綺麗だった……」

「いまさっきの歌、ウラ言葉か?」

「うん、そうだよ。すごいもの見せてくれてありがとう。楽しかった」

「おそらく、世間一般的には俺の方が『すごいものを見た』側だがな。こんなの、魔法の初歩の初歩だ。お前だってすぐ出来るようになる」

「そうかな? 風は起こせても、あそこまで器用に使いこなせる人って、なかなかいないんじゃない?」

 

 そう言うと、セドリックは何故か真顔になってしまった。どーしたんだ、こいつ?

 

「セドリックは魔導士になるの?」

「……お前、俺の家のことを知らないのか?」

「うん、ごめん。そっちはグレイスさんことも知っていてくれたのに。よければ教えてくれないかな?」

「いいぜ。なかなか新鮮だ、悪くない」

「それはよかった」

 

 ニヤニヤ笑うセドリック。調子が戻ったみたいでよかったわ。

 

 

 

 

 それから俺は、彼の家こそがあの噂の『魔導騎士』の家であることを知った。

 更に言うと、公爵家で王様とは親戚だそうだ。うおい、向かうところ敵なしじゃないか!

 

 じゃあ、敬語使った方がいい? と聞くと、セドリックはちょっと考えた後に首を横に振った。

 そっか、よかった。敬語むず痒かったから助かる。

 

「お前、変な奴だな」と言いながら、セドリックは嬉しそうだった。

 

 俺が変なわけじゃなくて、互いに育ってきた土壌が違うだけだよ。まったく。

 これだけでそんなに嬉しそうにされるとさあ、こっちとしては、なんか……これはこれで、むず痒いな。


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