4.ツライ……同室がイケメンすぎて。
「よろしくね、シェーネちゃん」
俺の同室となる最上級生は、ウィル=アルスター=ソルドという騎士の家系の四男坊だった。
パッと周りを見る限り、女子はすべて男子の上級生がついている。
女子の上級生もいるのに、なんでだ。怪しい。
「まさかこんなに可愛い女の子と同室になれるとは思わなかった!
君の親御さんにはお目当ての『エテロス』がいなかったのかな?」
「……エテロスって、相方?」
「おや賢い」
そう言ってウィルは驚いてみせたが、賢いもなにも、だってそれウラ言葉だもん。
ウラの世界の言葉は俺の今生の母語だ。ネイティブっぽく発音してやろーか。
「エテロスと婚約、結婚する女の子は多いんだよ。なんていうか、女の子の憧れなんだって。
だから親も女の子も、入学が決まってからはお目当てのエテロス探しに必死になるって聞いたよ。
俺は四男坊だからお呼びはまたくかからなかったんだけど、一人エテロスが決まっていない女の子がいるって聞いてさあ。
やっぱエテロスは女の子の方がいいから、先生に頼み込んだんだ」
「はあ……」
「もしかして俺、一番のアタリなんじゃないかな?
シェーネちゃん本当に可愛いね。妖精みたい。こりゃ他の奴らに羨ましがられるだろうなあ」
そう言って笑うウィルは、口元のホクロが色っぽいフェロモン系イケメンのタマゴだった。
この容姿にこの軽口、しかしさりげなく階段で手を差し出したり戸を開けてくれる紳士さによるギャップ。
こいつ、モテる。多分いまもモテてるだろうし、これから成長するにつれて加速度的にモテまくるだろう……。
末恐ろしい。
イケメンは滅べ。
俺が許す。
寮の個室はホテルのスイートルーム並みの広さだった。なんだこれ。
真ん中に広々としたリビングがあり、左右に寝室への扉がある。
おまけにそれぞれの寝室に個別の洗面所とトイレがついているのだから恐れ入った。
何よりも嬉しかったのは、バスルームがあることだ!
こればかりは部屋にひとつだったが、一度に5人くらいは入れそうな大きさだ。最高。
ちなみにこの世界の風呂はお湯を沸かす用の魔法石を使う。
それを水を張った風呂に沈めるとちょうどいいお湯加減になるのだ。
さらには、魔法石によっては様々な効能をプラスできるものもあるらしく、風呂好きの日本人の魂を持つ俺にはたまらない。
平民には出回っていない高価な品らしいから、この時ばかりは貴族のご身分のグレイスサマサマに感謝だ。
まあウラの世界には天然の温泉があったんだがな!
「学校には制服を着用して行かないといけないけれど、寮では好きな服に着替えていいんだよ。
ちなみに、このベルを鳴らしたら寮付きのメイドが呼べるから、用事があったらこうやって――」
そう言って、彼はチリンチリンとベルを鳴らした。
「鳴らしたら、すぐに来てくれるよ」
メイドを待っている間、ウィルはこのベルには魔法石が使われているのだということを教えてくれた。魔法石便利だな!
「帰ってきたら食べるから、この子用におやつを用意しておいて」
ほどなくして現れたメイドにそう頼むと、ウィルは「じゃあ、寮の中をご案内しますねお姫様」と茶目っ気たっぷりに手を差し出してきた。
一瞬たじろいでしまった。
いやー、イマイチどうすればいいかわかってないんだよね。
かわい子ちゃんのフリはできるけど、これから一年間ずっとそれを通すのはキツイし。
かといって、素を出しすぎるのもどうかと思うし。しかし今後を思うとある程度は仲良くなっておきたいし。ふむう。
「お姫様扱い、イヤ?」
「……ええと、その」
「あはは、ごめんごめん。なんか戸惑わせちゃったみたいだから」
「ちょっと、緊張してて」
「うん、そうだね。俺もだよ」
嘘つけと思ったけれど、次の発言には説得力があった。
「これから一年間一緒に過ごすのに、嫌われたらイヤだもんな」
おお、我ら同志じゃん。
そう思うと、ふっと肩の力が抜けた。むずかしく考えずに気楽にいこう。きっとその方が、自然に仲良くなれる。
「よろしくお願いします、ウィルさん」
そう言うと、ウィルは「俺のことは兄だと思っていいよ、こちらこそよろしく」と目元を緩ませる。
まあこっちはロリに見せかけた元成人男子なんだがな! ふはははは特別に妹として見てくれてもいいぜ!!!