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ツライ……俺が美少女すぎて。  作者: ハリネズミ
Ⅰ.変質者に刺されて死んだ俺は美少女に生まれ変わった
2/17

2.ツライ……俺が悪女すぎて。

「私、悪女の才能があるかもしれない……」

「シェーネ、恐ろしいことは言わないように。

 そんな言葉どこで覚えてきたんだ」

「でも、完璧だったでしょ?」

 

 そういってグレイスに向かってあざとく上目遣いをして見せるシェーネに、彼は何も言えないようだった。

 そんな二人の様子を眺めながら、ソフィアは思わずため息をついてしまう。

 

 ふたりがウュクス本家に行っている間、ソフィアはずっと留守番をしていた。

 彼女はグレイスの従姉妹にあたるのだが、まったく魔法を使えないため、

 家ではゴミ屑のように扱われていた。一族にとって、魔法使いとしての実力こそがすべてなのだ。

 そんな彼女を拾ってくれたのがグレイスで、彼女はそんな彼を心酔している。

 そして、経緯は違えどやはりグレイスに拾われたシェーネのことも、妹のように思っている。

 大切なふたりが、幸せになってくれることが、ソフィア自身の夢なのだが……。

 

 どうにもこのふたり、嫌い合っているわけではないのだが、うまくいかないのだ。

 

 ウュクス本家にて、シェーネは完璧な立ち振る舞いをしてきた。たおやかな美少女を演じ切った。

 出自はわからないものの、プラチナブロンドの髪に淡青色の瞳を持つ少女の容貌は俗世からはかけ離れていた。

 なにより、「ウラの世界にいたので、この世界のことはまだあまりよくわかっていないのです」と言いつつ、

 あまりに難解で魔法使いの中でも一部の人間しか習得できていないウラ言葉で古代詩を諳んじてみた少女を、

 どこぞの馬の骨と言ってしまえる人間はいなかった。

 

 もちろん、むしろぜひ養子に来てください状態である。

 それどころか外に出すとどこの馬の骨に嫁ぐことになるかわからないから本家に引き取りたいと打診され、

 グレイスはそれをなんとか振り切って自身の屋敷にシェーネを連れ帰ったのだった。「やり過ぎたかな? てへぺろ」とシェーネは無表情で言った。

 

「シェーネ……なんか、怒ってる?」

「なんで? 演技までしてすごく協力的だったでしょ?」

「うーん……」

 

 怒ってる? と聞かれて、素直に頷くような女の子ではないだろうに。

 グレイスはどうもそういった機微には疎く、そういった鈍感さにシェーネが

 イライラしているのだということは、はたから見ているソフィアには明らだった。

 

 シェーネが学校に行って、少し距離が離れたら、この関係も落ち着けばいいのだが……。

 でも、シェーネのご機嫌取りをしているグレイスは、なんだか本物のお父さんみたいで、その困った表情をもっと見ていたい……なーんてね。

 と、ソフィアはこっそり笑みをこぼしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 王立クレド学園の小等部入試に、シェーネは無事三位で合格した。ちなみに点数は満点。

 満点なのに三位とはこれいかにといったところだが、ご丁寧に合格通知に書いてあった。

 なんでも、今回満点が三名いたので、一位は一番家の位が高いやつ、他二名は家の位はほぼ同等なので男子を二位に、ってことらしい。

 

「すごい、入学前からこの国について学べてる。学校すごい」

「シェーネ、それは褒めてるのかい……?」

 

 グレイスの言葉を無視して、シェーネは続いてパラパラと学園のパンフレットをめくる。

 

 王立学園(王立の学校はこのひとつしかないため、クレド国の人間はみなそう略して呼んでいる)は魔導士のタマゴも騎士のタマゴも通うし、魔導騎士を目指す子供達もいる。

 そのため、小等部から自分で好きな教科を選んで時間割を作って行き、剣術も魔法も自分の好きなように学ぶことができるになっている。

 そうはいっても小等部では必修科目がほとんどで、絶対魔導士になると決めている人でも、剣術の授業を取らなくてはいけなくなっている。逆もまたしかりだ。

 

 

 なぜなら、魔導騎士こそが、この国での一番の花形らしい。

 

 

 例えばウュクス家はゴリゴリの魔導士家系だから、魔導士になることこそ一番で、騎士など野蛮なものはもってのほかだそうだが、魔導騎士は別らしい。

 あまり剣術に長けた人間がいないため未だなれた者はいないが、もし魔導騎士が出たら万々歳なのだそうだ。

 

「魔導騎士って、そんなにすごいの?」

 

 シェーネの言葉に、グレイスは生真面目に頷く。

 

「すごいよ。代々騎士の家系、魔導士の家系、と言ってしまえる家はそこそこあるけど、

 魔導騎士の家系と言えるような家はいまだひとつだけだ。

 魔導騎士ひとりで、通常の魔導士や騎士の数十倍の戦力と言われている。

 最近では、魔導騎士をどれほど有しているかで国力が分かるとさえ……」

 

 そこまで言ってから、グレイスはハッとした表情になり、「シェーネにはまだちょっと早い話だったね」と頭を撫でる。

 

 その手をうっとおしそうに払いのけて、シェーネは窓から顔を出す。

 

「そろそろつくね……」

 

 パンフレットによると、王立クレド学園は数代前の王が作った離宮を再利用して設立したらしい。

 その数代前の王様は、田舎をこよなく愛していて、広大な畑を全部国で買い取り、そこに自らの別荘を建てた。

 すると思いのほか住み心地が良くて、どんどん増改築を繰り広げていったそうな。

 最終目標はそこを別荘ではなく王宮としてしまうことだったが、その改築の途中に病で崩御してしまった。

 その次の代の王は父王の念願を叶えてやりたいと思いつつ戦に忙しくそこに構っている余裕はなく。

 その次の代の王は戦争が終わってからの復興に忙しく。その次の次当たりで、ようやくずっと放置されていた離宮の再利用方法を考えるようになり、それならばと時の宰相が学園へと作り変えたのだそうだ。

 よって、宮殿自体は校舎になり、貴族が滞在時に使っていた官舎が大改築の末に寮となった。

 

「ああ、見えて来たな」

 

 前面に広がる大庭園の向こうに、小さく霞んで元宮殿が見えて来た。

 

「懐かしいな……」

「グレイスも通ってたの? 聞いてねえぞ」

「ああ……」

「なあ、どうだった? 授業中寝ても怒られない?」

「ああ……」

「女の子のスカートめくってもいい?」

「ああ……」

「ダメだコイツ、聞いちゃいねえ」

 

 シェーネは車窓から顔を引っ込めるともう一度パンフレットを開く。

 

「どんなことやるんだろ……」

 

 前世では成人を迎えた身でも、この世界のことについては下手をしたら他の子どもよりも知らないことが多い。

 きらびやかな学び舎が近づいてくるにつれて、胸はだんだんと苦しくなっていくが、シェーネはそれを表には出さずにじっと耐える。

 そんなシェーネの様子に、グレイスはちっとも気づかない。

 

 親子になりきれていないふたりを乗せて、馬車はどこまでもまっすぐに伸びる道を進み続けた。

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