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ツライ……俺が美少女すぎて。  作者: ハリネズミ
Ⅳ.美少女な俺、楽しい学園ライフ
16/17

16.トラ、ウマ、オオカミ。

 ――ああ、このどうにもならないって感じ、あの時と同じだな。

 

 俺が、育樹 葵として過ごした最後の日。

 変質者に刺し殺された日。

 あの時は足が竦んでしまって、助けを呼ぶことも身を守ることもできずに死んでしまった。

 

 あれから俺、めちゃくちゃ後悔してる。

 もっと必死になって俺を守ってやれば良かった。無様なくらい生にしがみつけばよかった。

 何でもいいから適当に投げつけて、相手がひるんだ隙に逃げたら、もしかしたら助かったかもしれない。諦めなきゃよかったのに。

 

 

 だから俺、シェーネ=ウュクス=グレイスは、諦めるのが大っ嫌いだ。

 

 

『コイツチイサイ。オレガマルカジリ』

 

『チガウ。イチバンニオレガクウ』

 

『チガウ。オレガクウ』

 

 中途半端に知能があるおかげで、魔獣達は呑気に言い争いを始めた。

 こいつらには俺はもうまな板の上の鯉に見えているんだろう。

 

 その間に俺は、魔法実技の最後の仕上げにかかる。

 

 一日中こんこんと自分の魔力を探り続けて、よーやくわかったんだよ。

 先生は魔力は血と一緒に巡っているって言ってたから、てっきり心臓に余剰分が溜まってんだと思ってた。

 シャロンにも聞いて見たけど、やっぱりそういうイメージのもと、心臓から魔力が石を持っている手に集まって行くよう意識したんだと。

 でも俺はそれじゃうまくいかなかった。

 どうしてか?

 

 俺、全身が魔力の塊みたいになってんだ。

 

 頭のてっぺんから爪先にいたるまで、髪の毛の一本一本まで。

 言うならば、身体丸ごと賢者の石みたいな。存在が超レアな魔法アイテムみたいなことになってる。

 そのことに気づいたのがお昼過ぎ頃。じゃあその魔力をどうやって石にこめようと悩み続けて夕方になり、

 ひとつの方法を考え出したもののためらっているうちにこのような事態になってしまった。

 

 でもいまはもう、ためらっていられるような状況ではない。状況も道具も覚悟も揃ったんだから、あとはやってみるだけだ。

 

『頼むからど派手なの来いよマジで頼むから……! シャロンやセドリックみたいな"花びらが出て来る系"だったら詰むんで!』

 

 ちなみにシャロンはちまっとだけ花びらが出た。魔力の性質や量によって、石の反応は多種多様だ。

 だから、俺だとどんな反応が起こるかは、本当にやってみないとわからない。

 

 ナイフを鞘から抜こうとして、石を握りしめている手が硬直してしまいまったく動かないことに気づく。足で鞘を踏んづけてなんとか片手で引き抜いた。

 後は、ナイフで手を切るだけ。俺の予想が正しければ、それを石に垂らせば魔力をこめることができる。

 

 よし、やるぞ……。

 

 ……くそ、暗くてどこ切ればいいか全然わかんねえ。

 

 どのくらい力いれたらいいんだ? どのくらい血が必要なんだ?

 

 ええい、とにかく早くしないと……。

 

 そう思ってさあ切ろうとナイフに力をこめると、ぶるぶると手が震えてしまう。

 落ち着け、落ち着けと何度も心の中でとなえても、まったく言う事を聞かない。

 もういいやと思って震えた手で果敢に臨もうとして――ボタボタと涙が零れだした。

 

『……っ。く、そ……っ』

 

 ギッと唇を噛みしめる。馬鹿みたいに溢れて来る涙を拭う事すらできず、何度も自分に言い聞かす。

 

 大丈夫だから。

 

 これは、"俺を刺し殺したナイフ"とは違うから。

 

 ナイフで指をちょっと傷つけようとしているだけで、腹に刺すわけじゃないから。

 死ぬ気なんかサラサラないから。むしろ死なないための行動だから。

 

 だから怖がんなよ、俺。頼むから。

 

 ぼろっぼろに泣きながら、ナイフを石を持っている手に近づける。

 吐き気と頭痛で頭がクラクラしてきたが、グッと腹に力を込めて、ナイフの刃を手探りで肌に当てた。

 

『いっけえええええええ!!!!!』

 

 鋭い痛みと共に、そこから石に向かって熱いものが流れ出て行くのを感じる。――魔力だ。

 

 石はみるみる熱くなっていき、手の中で膨張していく。耐えきれずかたく握りしめていた手のひらを開くと、そこから勢いよく飛び上がった。

 石は小さな太陽のように強く光り輝き辺りを照らし出す。

 まったくの暗闇だった一面が真昼のように明るくなり、そこで初めて、俺を囲んでいる魔獣の姿を見る事が出来た。

 それは狼に似た姿をした魔獣で、一般的な狼よりも3倍くらい大きいように見えた。

 そんな魔獣が5匹、俺をぐるっと取り囲んでおり、なんかもう生きた心地がしない。

 

 彼らは『ナンダ』『マブシイ』『ナニモミエナイ』と呻いて苦しそうにもだえているが、どうにも逃げ出す隙がない。

 どうしようかと次の作戦をぐるぐると考えていると――「もう大丈夫だよ」という声が、頭上から降ってきた。

 

 え――。

 

 気がついた時には、俺は誰かの片腕に抱きかかえられ、魔獣の群から助け出されていた。

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