14.ヤバイ……俺、才能ない。
実力テストの結果、俺は全部の教科が中等部まで上がった。なぜなら、俺の語学力的にそこが限度だったからだ。うへ。
ちなみにシャロンも全部の教科が中等部まで上がった。
もっと上まであがるんじゃないかと思ってたのに、意外。
そしてセドリックは下は初等部から上は大学部までばらけている。
本人曰く「思い通りの結果になった」とのことで、もしかしてお前……テストの点数操作した……? どんだけ頭良いんだよ!!
さてさて。王立学園では数学や地歴といった学問の他に、剣や魔法も学べる場所である。
今回テストを受けたのは、学問の方に関してだ。剣や魔法については、飛び級は基本的にないらしい。
シャロン曰く「才能を妬まれて何かされたら大変でしょ」ということだ。
ちょっと待ってなんか思ってた以上にオモテの世界物騒なんですけどーっ!? 何かって、ナニ!? お兄さんそこが激しく気になります!!
初等部生は基本的に剣も魔法も両方学ぶ。ということで、魔導師のタマゴである俺も、初等部の間は剣の実技も受ける。
まあ、そうはいってもまだ七歳児なのだから、身体作りが主で、最近ようやく模擬剣での素振りが加わった。
そしてその時点で、俺はあることに気づいた。
俺、才能ない。びっくりするくらい向いてない。
まず、手が小さすぎて模擬剣がうまく握れない。肌が薄くやわらかすぎて、
何回かの素振りですぐに真っ赤になって手が痛くなってしまう。
グローブをつければいいのかと思って、思わぬ出費に涙目になりながらシャロンに見繕ってもらったものの、
布に擦れて結局手が痛い。そのうち頑丈になるだろうと思っていたのだが、ちっとも強くなる気配がない。
ちなみに走るのは速い。
運動神経も悪くない。
動体視力も良い。
だが剣に関しては素振りすらままならない。
見た目がどう考えても戦えなさそうな出で立ちの美少女だからか、そんなダメダメな俺でも、特に叱られたりはしない。むしろ、女子は見学でもOKなのだそうだ。
よって、シャロンには「シェーネちゃんはもう剣を握っちゃダメ!」と言われてしまった。いやいや、ダメって言われてもさ。
「ほら、気長にみれば才能が開花するかも……」と言ってみたが、
「しないよ! シェーネちゃん、才能ないもん!」と辛辣なお言葉がかえってきた。
シャロンにここまでバッサリ言われてしまうとは。ショックだ。
ちなみにシャロンはさすが騎士の家系なだけあって、ただの素振りでもすごいサマになる。先生にも「筋が良い」って褒められる。
俺なんか最近先生に「休んでていいんだぞ? 無理するな」としか言われない……。
そしてセドリックも先生に「さすが魔導騎士の家系の……」と感心されてる。
俺なんか「あそこに花畑があるから行ってきていいんだぞ?」っておサボりを勧められるというのに……。
いやさ、俺だってさ、なにも騎士になりたいとか思ってるわけじゃないよ?
でもさあ、男としてはさあ、やっぱ剣がカッコ良く振れるって、憧れるじゃん。出来ないより出来るほうがいいじゃん。
うーん、悔しいなあ。シャロンとセドリックに嫉妬!
「ふっふっふ……」
その日は、朝からすがすがしい秋晴れだった。
「ふっふっふっふっふ……」
俺、朝から大興奮。ぶっちゃけ興奮しすぎて昨日の晩全然寝付けませんでした。
なぜって?
「ふっふっふっふっふっふ……!」
なんと! ついに、今日の魔法実技、実際に魔法を使ってみるらしい!
おおおおついにきたああああああ!!!
「セドリック! 今日の魔法実技、どんな魔法使うのかな!? 飛ぶのかな!? 燃やすのかな!?」
ちなみに、魔導士のタマゴ組で魔法を使うのが初めてなのは俺くらいだ。
騎士組も初めてがほとんどだけど、みんな最初から諦めてる。魔法なんて、使えないって。
この世界の人間はみんな魔力を持ってはいるけれど、魔力量は人それぞれだし、
使えるかどうかはその人のセンスにかかっている。まあ、一言で言うと才能がないと無理なんだそうだ。
だから魔導士のタマゴとして学園に来る子は物心ついた時から魔力を感じる訓練をしていて、ぶっちゃけ入学時点で魔法を使えない魔導士のタマゴなんかいないそうだ。おーいおいグレイスー。
という事情があるから、シャロンが俺の代わりにガチガチに緊張している。俺が無事魔法を使えるかどうかが心配でたまらないらしい。
「シェーネちゃん、今日は頑張ってね。大丈夫、シェーネちゃんの剣の分の才能も全部魔法にいっちゃってるんだから!」
「いまは超テンション高いから見逃すけど後で覚えてろよシャロン~」
俺はといえば、ワクワクしかしてない。
だって、ぶっちゃけ、自分が魔法を使えないだろうなんて思ってないし。
なんたって俺、ウラの世界で妖精やら精霊やらに育てられたんだもん。
おまけにえらーい魔法使いのグレイスが俺をこの学園に入れたんだぞ? これはもう使えて当然だろ! うわー楽しみだな! わー!
「――とか、正直魔法をなめてました、はい」
調子こいて申し訳ありませんでした。
今思えばあれば完全にイケナイ系のフラグでした。"俺この戦争が終わったら結婚するんだ"とおなじでした。
「シェーネちゃん、遠い目になってる場合じゃないよ~!!」
シャロンがゆさゆさ肩を揺すってくるが、無理。無理なものは、無理。
魔法? ふふっ。そんなの使えるわけないじゃーん。
「シェーネちゃ~んっ!!」
――そもそも、『ウラの世界に住んでいたら魔法が使えて当然』なら、今ごろ俺は当たり前のように魔法を使ってるはず。そこをよく考えてみるべきだった。
「ほらシェーネちゃん。もう一度やってみよ? 体内を巡る魔力を感じて、それをこの石にこめるんだ」
手に持ってるのは、いつぞやセドリックが魔法を見せてくれた時に使ったのとまったく同じ石だ。この魔法石はちょっと魔力を込めただけで反応するように作られているそうだ。人によって反応も様々で、燃やしちゃう人もいれば浮かべちゃう人もいる。
ちなみに俺の手の中の石はだんだん生温かくなっていっている。
これ魔法?
違うわ、体温移ってってるだけだわ。
「魔法って、呪文唱えたり魔法陣描いたりしたらびゃーっと発動するものだと思ってた……」
「それは上級者のやり方だよ~。それに、それだって言葉や陣に魔力を流し込んでるわけなんだから、基本はこれと同じだよ」
そう言うシャロンは、あんなに無理無理言ってたのに俺を激励している間に成功した。ある意味俺のおかげいえーい。
シャロンは俺を差し置いて成功してしまったのでしばらくは真っ青な顔で呆然としてた。せっかく成功したっていうのに、不幸なやつ……。
「シェーネちゃん、がんばって!」
うーん。そう言われても、イマイチどうすればいいのかわかんないんだよなあ。
座学では、魔力は血と一緒に身体を巡っているのだと聞いた。
魔力が一定量を下回ってしまうと、失血と同じように死んでしまうのだそうだ。だから普通は危険なので魔力を使うことはできない。
けれど中には、魔力が飛び抜けて多い人がいる。そういった人たちが、魔法を使えたりするのだそうだ。といっても、魔力が多くてもそれを意識して使うことができないと無理なわけで……そこら辺はやはり才能のようで。
うーん。俺、たぶん魔力は結構あるんだよ。自分の魔力を感じようって実技は楽々クリアできたし。
ただ、その魔力を石にこめるっていうイメージが、どうもうまくいかないんだよなあ。
「くっ……。またか……また俺はかゆいところに手が届かない感じで才能がないのか!」
どうする俺!?
どうなる、俺!?