10.このままの君で。 ※シャロン視点
何やらたくさんの方に見ていただけているようで驚いております。コメントと評価もありがとうございます! 11月7日ハリネズミ
「シェーネちゃん」
ツーン。
「シェーネちゃ~ん」
シーン。
だ、ダメだ……。
シェーネちゃん、全然機嫌が治らない……。
ネネ様からの指令で「シェーネちゃんおしとやか計画」を実行した僕たちだけど、
初日の数十分でシェーネちゃんがキレて、僕たちと口を聞かなくなってしまった。
ネネ様とウィル様は「数日で音を上げるだろう」なんて言っていたけど、そんな気配全然ない。
完全に僕たちを他人扱いしていて、近寄りさえしない。
シェーネちゃんと同室のウィル様にいたっては、シェーネちゃんが部屋に戻ってこないので参ってしまっている。
3人であちこち探したけど見つからなくて、寮長に聞いてみたら、
なんとシェーネちゃんはセドリック様の部屋に泊まっているとのことだった。
届けをだしたら人の部屋に泊まることは可能なので、
きちんと手続きを済ませたシェーネちゃんをどうこうすることは僕らにはできず、すごすご引き上げることになった。
シェーネちゃんは朝はセドリック様と一緒にご飯をとって、昼と夕は食べに来ない。
食卓に出てくる料理のほとんどはシェーネちゃんの食べられないものなので、元々あまり来る意味がないのだ。
それどころか、肉の焼けた良い匂いは、シェーネちゃんにとっては臭いとしか感じられないのだと聞いたことがあった。
そんな臭いが充満した食堂に来ないのは当然かもしれない。
そういうわけで、ネネ様もウィル様もシェーネちゃんに会うことすら出来ていない。
日が経つにつれて、ふたりはどんどん沈んでいっている。
そういう僕も、クラスが同じなのでシェーネちゃんに会う機会はたくさんあるものの、ことごとく無視されて……。
もう、最後にシェーネちゃんと会話をしたのがいつだったかも思い出せない。
そんな中、一回目の優良生の集いがあった。
本格的な活動はまだまだだけど、そろそろ顔合わせをしましょうとのことなんだけど、僕から言わせてみれば、最悪のタイミングだと思う。
放課後。
重い足を引きずって先生から教えてもらった僕たち専用の個室に行くと、
そこにはすでにシェーネちゃんがいた。セドリック様の姿はまだない。
シェーネちゃんは僕に見向きもせず窓辺の揺り椅子で本を読んでいる。
白金の髪が窓から差し込むやわらかな日の光にキラキラときらめく。その幻想的な光景に、ほうと息が漏れた。
なんて綺麗な女の子なんだろう。きゅんと胸が苦しくなる。
「シェーネちゃん、綺麗……」
思わず漏れ出たつぶやきに、シェーネちゃんはこちらを見て嫌そうに顔をしかめた。
久しぶりに僕の言葉に反応してくれたけど、全然嬉しくない。
なんでそんな顔をするの?
君はとっても綺麗で可愛い女の子なのに。
どうして、それを嫌がるんだろう。
「うっ……ふぅっ……」
ポロポロと涙がこぼれ落ちる。
男の子なのにみっともない。でも、とめようとしてもとまらない。袖で何度もぬぐっても、後からすぐにこぼれてくる。
「うおいシャロンっ、泣くなよ……」
シェーネちゃんが、慌ててこっちに駆け寄ってきた。
涙がとまらない僕に、「あーもう」とバリバリ頭をかく彼女は、相変わらず女の子らしくない。
でも、メソメソ泣いてる僕もちっとも男の子らしくない。
「シェーネちゃん、ごめんなざああい」
鼻声で謝ると、シェーネちゃんは何度か口をパクパクした後、「まあ、うん……俺も悪かったよ」と言う。
ああ、シェーネちゃん。やっぱり一人称、「俺」なんだね……。
君がどんなに口調を崩しても注意深く一人称を使わないでいたこと、僕ちゃんと気がついてたよ。
ネネ様、僕おかしいかな?
僕、シェーネちゃんが女の子らしくないの、全然気にならないや。むしろ、なんか、嬉しい。
もし将来シェーネちゃんが僕のお嫁さんになっても、このままでいい。このままがいい。
僕のことを無視している間のシェーネちゃんは、とっても女の子らしくて綺麗だったけれど。
その代わり君が他人になるなら、もう僕は二度とそんなこと望まないよ。
君は「俺」のままでいいよ。
ということを伝えようと思ったんだけど、涙声で全然伝わらなかった。
でも、伝わらなくってよかったかも。だって、よく考えたらちょっと恥ずかしいもん。
――その後、少し遅れてやって来たセドリック様は、グシャグシャに泣いてる僕を見てなぜか大爆笑した。
セドリック様のツボは、ちょっとよくわからない。