2人の犠牲者
気がつけば、セレナさんはその場に崩れ落ちていました。
「セレナさん?!」
私の声に反応してルカさんとカランもセレナさんを見ます。
「どうしたんだ?!」
「セレナ!?何があったの!?」
「分かりません!多分、ダメージを受けているようですわ‼私が回復魔法をかけます‼」
私たちは急いでセレナさんの元に駆け寄ります。そして私はセレナさんの手をとります。
………え?
「冷たい…?」
「「え?」」
まるで死人の手みたいですわ!?
「と、とりあえず回復させますわ‼『……この者の体力、魔力全てを回復させたまえ。リサート!』」
これでセレナさんも回復…!?
「っ!?な、何で回復しないのですか!?」
この魔法は現時点で言うと、私の残っているほとんどの魔力を使います。だから、いくら四桁といえども、ほぼ全回復できるはず!!
回復魔法は、命が短い人…要するに瀕死以上の、もう生きられない人には効かないのです。
…まさか。
ブンブンと首を横に振り、不安を打ち消しました。
そんな分けない!!セレナさんに限って…あんな、チートの塊の人が
……死ぬわけ....
「う…うぇ…う、うわあああああああん!!セレナぁぁぁ!死んじゃ嫌だぁ!!」
カランが大声で泣き始める。
「ちょ、カラン!泣かないで…くださ…ヒック」
カランにつられて私も、涙がポロポロと零れました。
「せ、セレナさ、んは死んでな、んかいませんわ!!うぅぅぅ」
何故こんなに涙が出るのですか!?
ルカさんも必死で涙を堪えてる様子。…多分、みんなのお兄さん役だから、泣かないように堪えてるんでしょう…。
何でこんなに涙が出るのか、
……本当は、わかっていますわ。
セレナさんがもう…もう…
「う、うぅぅぅ…うわぁん!!
何でですの!?何でセレナさんが死ななくちゃいけないのですか!?セレナさんは悪い事してません!!一生懸命戦ってたのに…何故ですの?」
仲間を失った悲しみ、魔王に対しての怒り、これからどうすれば良いのかと言う不安で一杯な私達に
「あの方」の声が聞こえました。
「………セレナ?」
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SIDE セレナ
……真っ暗。
何にもない。闇のみ。
これが…
──死後の世界──
「……貴様、何故いる?」
この声…
私は、はぁー…と溜息をついた。
「こっちが聞きたいよ」
ゆっくりと後ろを振り返ると、
やはり、と言うべきか。
魔王がいた。
「…さっさとどっか行ってよ」
「お前こそどっか行け」
「動けないもん」
「奇遇だな。私もだ」
「…………」
「…………」
沈黙。
…いつまでここに居れば良いんだろう?
こんなとこにずっと居るとか…発狂しますよ、私。
「おぃ…毒舌王女」
「何よ、魔王(笑)」
「……貴様…。まぁいい。呼ばれているぞ?」
「……はぁ?」
意味が分からない。ここに居るのは魔王と私だけ。
……一体誰に呼ばれているというのか。
「…バカめ。頭の回転が遅いな。…どうやら、あっちの世界の奴らがお前を呼んでいる様だ」
「………?」
「黙って耳をすませてみろ」
上から目線でムカつくが、とりあえず言われた通りにする。
すると、何かくぐもった声が聞こえてきた。
「……アーロン様!?何故ここに!?」
「あぁ…。今やっと、魔王の魔法が解けたんだ。…アンナはどうしたんだ?」
「あ…アンナ?」
「セレナの昔の名前だ。この名前を知っているのは、俺しかいない
…それで、どうしたんだ?」
「それが…魔王を倒すために、『王者の絶対魔法』を使ったのです。だけど…魔王を倒したその後に急にその場に崩れ落ちて…」
ルカが冷静に状況を説明する。しかし、その声は震えていた。
リリィとカランの泣く声も聞こえてきた。
「なん……だと?」
信じられないと言わんばかりのダー……アーロン。
「………」
「どうした?コメントなしか?」
俯いてしまった私に声を掛ける魔王。そんな奴をギッと睨む。
「う…うるさいわね!!大体あんたが……あんた…」
我慢していた涙が堰を切ったように溢れた。
……分かってる。コレがあいつと私の宿命だと言うことは。
魔王に生まれた者は、嫌だろうが何だろうが『魔王』をしなくてはいけない。
それは『勇者』にも言えたこと。
世界は勇者が女だろうが男だろうが関係なく、その器があれば誰でも良い。
だから私は選ばれた。
前世の記憶を持つ、チートだから。
結局、誰も悪くないのだ。
悪いのは、世界。
言ってしまえば、目の前にいる男も犠牲者。
「…そうだな、私のせいだろうな」
「……は?」
魔王だって自分が世界の犠牲者だって気づいているはず。
なのに……何を言っているのか?
「では、その償いとして貴様を生き返らせてやろう」
「何言って……」
「全部、悪いのは私だ。この世界の犠牲者は貴様『だけ』だろう?ならば、私の最後の力で生き返らせてやろうではないか」
ニヤリ、と口の端を釣り上げて笑う魔王。
その表情を見て、私は気付いた。
「───っ!!まさか、あんた…!な、何言ってんのよ!?あんただって犠牲者……!」
「はて、何の事を言っているのかな?……では、毒舌王女。さらば」
こいつは、一人で泥をかぶろうとして居る。そんなことをしたら、絶対にココから出られない!
「ちょっ……待って…魔王!!」
「さらば。セレナ。いや、アンナよ」
私の体が光だす。
そして私は…意識を失った。