表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/30

第二十五章 禁書庫の真実


 シオンたちは、再び禁書庫へと潜入した。


 前回見つけた古文書には、まだ続きがあった。クロノス・アビサルの過去だけではなく、クロノス・グラスについての詳細な記録。それを求めて、六人は夜の学院を進んでいた。


「ここだわ」


 エリカが、別の棚から古い巻物を取り出した。羊皮紙は黄ばみ、端が擦り切れている。しかし、封印の魔法が施されていたおかげか、文字ははっきりと読める。


「『クロノス・グラスに関する秘録』……これに、もっと詳しいことが書いてあるはずよ」


 巻物を広げると、細かい文字と図が描かれていた。


 砂時計の構造。その仕組み。複雑な魔法陣と、数式のような記号の羅列。そして——


「これを見て」


 エリカが、ある一節を指差した。蝋燭の炎に照らされ、文字が浮かび上がる。


「『クロノス・グラスは、クロノスの力を封じ込めるだけでなく、その力を変換し、人間が使える形で放出する』」


「変換……?」シオンが言った。


「『砂時計の上部から落ちる砂は、クロノスの力そのもの。それが下部に溜まる過程で、純粋な魔力へと変換される。この魔力が、帝国の魔法の源となる』」


 リアムが、目を見開いた。


「つまり、帝国の魔法は——」


「クロノス・アビサルの力を、搾取しているということよ」エリカが言った。



              *



「『砂時計の砂は、無限ではない。魔力を使えば砂は減り、時間をかけて回復する。しかし、回復には限界がある』」


 エリカは、続きを読んだ。声が低く、緊張を帯びている。


「『もし、砂の消費が回復を上回れば、やがて砂時計は空になる。その時——封印は崩壊し、クロノスは解放される』」


 シオンは、背筋が凍った。


「封印が……崩壊する……」


「だから、帝国は魔法の使用を制限しているのかよ」ハンスが言った。「留学生に封印の腕環シール・バングルをつけて、魔力を抑制している」


「でも、それだけじゃ足りないわ」ティアが言った。「学院では、毎日のように魔法の訓練をしているじゃない」


「そうだ」シオンは頷いた。「帝国は、魔法で繁栄している。魔法を使わないわけにはいかない」


「つまり——砂時計の砂は、少しずつ減り続けている」エリカが言った。「封印は、ゆっくりと崩壊に向かっているのよ」



              *



 シオンは、巻物をさらに読み進めた。エリカの肩越しに、古代語の文字を追っていく。


「『クロノス・グラスは、大賢者により、帝国の中心に安置された。その場所は、時の時計塔と呼ばれる』」


「時の時計塔……」


「『時計塔は、後に建設された王立学院の地下深くに封印された。王家と継承者の血族のみが、その存在を知っている』」


 シオンは、顔を上げた。


「この学院の地下に、クロノス・グラスがあるんだ」


「なんてことだ……」ハンスが呻いた。「僕たちの足元に、そんなものが眠っていたなんて」


「だから、ルイーザは時の歪みを感じていたのか」リアムが言った。


 ルイーザは頷いた。銀色の髪が揺れ、儚げな表情が陰を帯びる。


「ええ……学院の地下から、何か大きな力の波動を感じていたの。あれが、クロノス・グラスだったのね」



              *



 エリカは、巻物の最後の部分を読んだ。


「『クロノス・グラスを守る者は、代々の大継承者の血族。彼らは「陽光の刻印ソール・シギル」と「月影の刻印ルナ・シギル」を継承し、砂時計の番人となる』」


「陽光の刻印ソール・シギルと、月影の刻印ルナ・シギル……」


 シオンは、自分の右の掌を見つめた。太陽の模様が、微かに光を帯びている。


 陽光の刻印ソール・シギル。自分が持っている力。


 そして、月影の刻印ルナ・シギルは——


「おじいさんが持っている」シオンは呟いた。「祖父は、月影の刻印ルナ・シギルを使っていた」


「つまり、アーデン一族は本当に、大賢者の末裔なのね」エリカが言った。


「でも、なぜ二つの紋章があるんだ?」ハンスが尋ねた。


「『二つの紋章は、対になる力。太陽は時の加速を、三日月は時の減速を司る。両方が揃って初めて、クロノス・グラスを完全に制御できる』」


 シオンは、その意味を考えた。


 ——僕は陽光の刻印ソール・シギルを持ち、祖父は月影の刻印ルナ・シギルを持つ。


 ——二つが揃えば、クロノス・グラスを制御できる……?



              *



 禁書庫を出た後、シオンたちは秘密の部屋で話し合った。


「まとめると——」リアムが言った。いつもの軽い口調だが、表情は真剣だ。「帝国の魔法は、封印されたクロノス・アビサルの力を搾取している。魔法を使えば使うほど、封印は弱まる」


「そして、クロノス・グラスは、この学院の地下にあるんだぜ」ハンスが続けた。


「シオンの一族は、砂時計の番人。太陽と月影の刻印ルナ・シギルで、砂時計を制御できる」ティアが言った。


「問題は——」エリカが言った。「今、砂時計がどういう状態にあるか、だわ」


 シオンは、考え込んだ。


「確かめる必要がある」


「時の時計塔に、行くのか?」リアムが尋ねた。


「ああ。砂時計の状態を見れば、封印がどれだけ持つかわかるかもしれない」


「危険だぞ」ハンスが言った。「学院の地下なんて、どんな罠があるかわからない」


「でも、このままじゃ何もわからない」シオンは言った。「クロノスが復活したら、取り返しがつかないんだ」


 ティアが、シオンの肩に手を置いた。温かさが、服越しに伝わってくる。


「私も行く。一人で行かせるわけないでしょ」


「僕も行くぜ」リアムが言った。


「俺の探知機が役に立つ」ハンスが言った。


「私の力も」ルイーザが言った。


「私も、古代語の解読ができるわ」エリカが言った。


 シオンは、仲間たちを見回した。それぞれの目に、決意の光が宿っている。


「……ありがとう、みんな」


「礼はいらないわよ」ティアが笑った。「刻印の探求者シギル・シーカーズなんだから、当然でしょ」



              *



 その夜、シオンは一人で寮の窓から月を見つめていた。


 ——クロノス・グラス。クロノス・アビサル。そして、僕の一族。


 すべてが繋がっている。


 自分の先祖がクロノスを封印した。その封印を守るのが、アーデン一族の使命。


 しかし、今——封印は崩壊に向かっている。


 ——僕に、何ができる……?


 シオンは、ソロンからもらった懐中時計を取り出した。


 三日月と太陽の模様。銀色の表面が、月明かりを反射している。


 ——おじいさんは、僕に使命があると言っていた。


 ——この世界を救う使命……


 風が吹き、カーテンが揺れた。月が雲の間から顔を覗かせ、部屋を淡く照らしている。


 シオンは、決意を固めた。


 ——僕は、逃げない。この運命と、向き合う。


 時の時計塔への潜入。


 それが、次の一歩だった。



                                   第二十五章 了


お読みいただきありがとうございます。

「クロノス・クロニクル」、いかがでしたでしょうか。


完結まで毎日18時に更新予定です!


ブックマーク・評価・感想をいただけると励みになります。

よろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ