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目が覚めると僕はベッドの上に眠っていた。
目新しいヴェールを被った修道女は甲斐甲斐しく病人たちの面倒を見ており、その様子から何となく僕は普通の病棟に移されていたことがわかった。
体を起こそうとすると腹部に鈍い痛みが走る。
生きている。僕はやはりあの少女に刺されたが、やはり生きていた。
しかしあまりに痛みが強かった驚きでものすごい勢いで息を吸い込んだせいか、むせてしまった。
すると、修道女は僕が目覚めたことに気づき、こちらへやってきた。
「あら、お目覚めですか。 本当に心配しましたよ、だって貴方、もう何日も意識が戻らなくて…… あなたのお隣の病室の方から藤原さんが貴方を刺したって聞きましたよ、本当なんですか?… どうやら貴方が星を見ておかしくなったって言う話も手違いだって聞いたので……傷が完治したら検査をしますので、それで精神に異常がなければすぐに退院出来ますからね、」
僕の手を握ってそう言った彼女は妙に馴れ馴れしく感じられた。
「ありがとうございます、本当にすみません。」
特になにか考えたりせず、適当に返事をする。
それから数日ほどその病室で過ごしたが、検査も無事に終わり、ようやく家に帰ることが出来た。
帰り道すがら、空き地に居た子猫たちがじゃれ合っているのが目に入った。
「かわいいなぁ…」
自然と口角が上がってしまう。 ミルクかなにかをあげたいと思って急いでうちに帰った。
とりあえず今朝配達された牛乳瓶を適当に鞄に突っ込むと、そのまま走って空き地へ足を進める。
空き地に戻ると家から持ってきた皿に牛乳を注いで子猫達の近くに置いてみる。 暫く遠くから眺めていたが、みんな美味しそうにミルクを舐めている。
小さな体で一生懸命生きている子猫たちが健気で守ってやりたくなる。
庇護欲というのはこういうもののことだろう。
そっと近づいて柔らかな毛並みを撫でてやると、心が満たされる気がした。
「早く大きくなれよ。」
少々名残惜しいが、この頃は街の人間はみな酷く星を恐れているため夜中出歩いただけで病院に押し込まれるなんてことはざらにある。
もう二度とあんな生活ごめんだから家に帰るしかなかった。
その後もしょっちゅう空き地へ行って子猫達の面倒を見ていたが、ある日1人の少女が子猫を撫でているのが目に入った。 つやつやと太陽の光を反射し、風になびく柔らかな黒髪に、雪のような肌 、黒曜石の瞳。この辺りでは有名な女学校の制服を着ており、柔らかな仕草は落ち着きを体現しているようだった。
彼女はまさに大和なでしこだ。 左目に傷があるが、ほとんど気にならないほどの美しさだ。
「こんにちは、貴方もよくここに来ているの?」
いきなり声をかけられてしまい、焦ってしまった。
彼女の蜜のように甘い声が暖かな風とよく合っていた。
「こんにちは、僕も時々来てます。子猫たちが気になって仕方がなくて…」
彼女は大きな目を細めて微笑むと、再び優しい手つきで子猫を撫でながら僕に話しかけた。
「あらいけない、名乗りもせず話しかけてしまってごめんなさいね。私、光瑠よ。水渚塚光瑠。あなたは?」
いい名前だ。 ミナツカ、ミツルさん… 漢字は分からないが、良い響きだ。
「凛人です。苗字は砂川って言います、よろしくお願いします、みつるさん。」
彼女は楽しそうに笑うと突然僕の頬に彼女の柔らかな手が触れた。
「りと…… 素敵な名前ね。 貴方のその、綺麗なお顔に良く似合うわ。」
彼女の可愛らしい笑顔を目前にして、僕は不覚にもぎまぎしてしまった。




