表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

2

とりあえず僕は、その少女をなだめるように声をかけることにした。「君も家族を亡くしたの?…奇遇だね。僕もさ。本当に情けない奴だよ、僕は。」

彼女が埃っぽくて重そうな黒いヴェールをとると、金糸のような髪がふわりと風になびいた。 黒い瞳は驚きで見開かれており、顔立ちはかなり幼く見えた。 彼女は唇を噛み締めながら、その場に立ちつくしているが、怒りにその黒曜石さながらの瞳をぎらつかせて僕の腹にナイフを突きつけた。 『そうだ。お前はこの世の誰よりも情けない奴だ。ここで死して償え。』年頃の少女にしてはひどく荒々しい物言いで、食いしばったはの間から漏れ出た空気はその若い体には似つかわしくないスゥ、スゥ、と 危篤になった老人の呼吸のような音を立てていた。 たしかにここで死ぬのも悪くはない。兄さん達にようやく逢える。 そうだ、死こそ究極の自由なのだ。 そうに違いない。 それでもやはり生存本能のようなものが最後の足掻きをはじめたらしくそれがどうも、僕の心の先端に絡み付いては、滴る水のような気持ちがじんわりと嫌な恐怖感で腹の底を満たしてゆく。 せっかくこの美しい夜に死の機会を与えられたのだ。無視することなどできない。人生最後の、大いなる自由に身を委ね、夢を見ながらそっと瞼を閉じる。 とっぷりと溜まった恐怖に蝕まれながら。

希望と絶望、喜びと悲しみ、狂喜と恐怖… 矛盾した考えの間で板挟みになりながら死を迎えるとは、なんとも人間らしい最期だ。

彼女がナイフを持った手に力を込めると、貸りものの寝巻きの生地をそっと刃先が裁ち、人の体の外側の1番柔らかい肌に鋭い痛みが走る。 嗚呼、これが死か、甘美なる死なのか。

けれと彼女は突然手を止めて、僕の首ををこれまた万力のような力できつく締めた。

意識が酩酊しているなかで、彼女の罵声は、水の中で聴くジムノペディのようにぼんやりと聞こえてくる。 僕は地上に居ながら、すっかり水死体になったような気分でいた。

続きます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ