氷のクーデレ騎士団長は、部下のクーデレ女騎士と秘密の熱愛中
「この程度で音を上げるつもりか」
膝を突くモリナを見下ろす氷の騎士団長シリウスは、眉一つ動かすことなく冷たい声で問いかけた。
「いいえ。もう一度お願いします!」
立ち上がったモリナは傷だらけの腕を持ち上げると、折れてしまった剣を投げ捨てて新たな剣を構える。
「来い」
無表情で真剣を構えるシリウスに、モリナは結んだ赤毛を揺らしながら飛びかかっていった。
「今日もよくやるなぁ」
「なんでモリナは女なのに、あの騎士団長の稽古についていけるんだよ……」
「俺はもう無理だ。指一本動かせない」
二人の様子を眺めているのは、シリウスに限界まで打ちのめされて横たわる騎士団員達だ。
稽古を開始した時は全員でシリウスに挑んだものの、一人、また一人と離脱していき、今や残っているのはモリナ一人だけだった。
「手加減なんてないんだもんよ。あの人は鬼だ。悪魔だ」
「さすがは冷酷無慈悲な氷の騎士団長様。あの運動量で汗ひとつかいてないなんて、化け物だろ……」
騎士達が倒れている練武場の端からは、稽古を見学に来た令嬢達の黄色い声が響いていた。
「シリウス様! 素敵すぎる!」
「あの涼しげなお顔……! なんて麗しいの!」
「モリナ様も頑張ってくださいませー!」
声援の大きさからは、一番人気のシリウスと二番人気のモリナとの稽古に興奮する令嬢達の熱狂度が窺えた。
シリウス率いるこの第二騎士団は、シリウスとモリナのおかげで女性人気が異常に高い。
クールで眉目秀麗、凄まじい剣捌きを見せるシリウスに対し、女だてらに立ち向かうモリナの勇敢さと気高さは令嬢達の肥えた目を引く。
稽古中は必ずと言っていいほど見物客が溢れ、黄色い声援が飛び交うのが常だ。
「うわ、なんだよ今の動き」
転がっていた団員の一人が呆れた声を上げる。
「本気でモリナを斬り殺す気じゃないのか、あの団長。モリナに厳しすぎだろ……」
「モリナは団長に目をつけられてるからな……」
「おい、流石に止めたほうがいいんじゃね?」
容赦ないシリウスの猛攻に、モリナの手から血が飛び散るのを見た団員達が彼女を憐んで目を見合わせていた時だった。
「お前達」
氷のように冷ややかな声が、転がる団員達に降りかかる。
「喋る元気があるようだな」
「ひっ!」
短い悲鳴を上げる団員達を見下ろすシリウスの背後には、膝を突いて剣に寄りかかりながら気を失っているモリナの姿が。
「立て」
指折りの実力者であるモリナを汗ひとつかかずに叩きのめした氷の騎士団長シリウスは、青ざめる団員達に剣を向けた。
◇
「あの、邪魔なので離してください」
「……」
「聞いてます? 手当てができないのですが」
「……」
ため息を吐いたモリナは手にしていた包帯を机に置き、腹にしがみつく腕を引き剥がしにかかった。
しかし、強固に絡まる腕はピクリとも動かず、ますます強くモリナの体を縛める。
「苦しいです」
「……すまない」
「それは何に対しての謝罪ですか?」
「君に傷をつけてしまった……」
身をよじろうとしていたモリナは、動きを止めて重いため息を吐き出した。
「鍛錬の傷は成長の兆し。そして未熟さの現れ。私は尊敬する上官にそう教えられました」
「……」
「その上官は誰だと?」
「……俺だ」
モリナの肩に顎を乗せたシリウスは、背後からぎゅうぎゅうに彼女の体を抱き締めながら情けない声を出す。
精鋭揃いの王室騎士団、中でも指折りの実力者であり厳しい稽古で知られる氷の第二騎士団長シリウスは、副団長である部下の女騎士モリナと極秘交際中なのだ。
二人の関係を知る者は、騎士団内部にも誰一人としていない。
冷徹なことで有名な氷の騎士団長がまさか、好きな人の前ではデレデレな甘えたになることなど絶対に知られてはいけない。
抱き締めていた腕を緩めて優しくモリナの手を握るシリウス。
「白魚のような手に傷が……」
「もともと白魚のようではありません。剣ダコでボロボロの手ですのでお気になさらず」
スッと手を抜き取ったモリナは淡々とそう告げると、再び包帯を手に取った。
それを横から奪ったシリウスは、モリナを背後から抱き締めたまま彼女の手にくるくると包帯を巻いていく。
「…………」
諦めたモリナは好きにさせようと体の力を抜いた。
頰を掠める彼の黒髪がくすぐったいが、指摘すると意識しているのがバレてしまいそうで息を潜めることしかできない。
ドキドキと高鳴る心臓の音が聞こえていないことを祈りながら、モリナはジッと手当を受けた。
手際よく包帯を巻きながら、シリウスがポツリと呟く。
「次は……もう少し手加減を……」
「何度も言っていますが、私は公私混同をする人間が大嫌いです。交際中だからと手を抜くような真似は、絶対にしないでください」
「はあ……。分かった。今後も手加減はしない。それでも……君が怪我をしたら気になってしまうのは仕方がないだろう」
「なぜですか? 部下として不甲斐ないからですか?」
「違う。好きだからだ」
「っ!」
「君がいないと生きていけないくらい大切だから、心配なんだ」
モリナは火照る顔を持て余すように彼から背けた。
色恋に慣れていないモリナにとって、二人きりの時に見せるシリウスの甘い態度は心臓に悪い。
できることならやめてほしいと思うのに、これがなくなってしまったらと想像するだけで胸が切なくなるのだからタチが悪い。
自分の言葉に照れるわけでもなくモリナの反応を窺うシリウスが憎らしくて、モリナは話題を変えた。
「……夕食はどうします?」
「もちろん食べていくよ」
「では行きましょう」
二階にあるモリナの部屋から降りた二人は、モリナの家の一階にある小さな食堂に顔を出した。
「おう、シリウスくん。ちょうどできあがったところだよ。冷める前に食べてくれ」
「ありがとう、おじさん」
気軽に話しかけるモリナの父は、シリウスの好きなシチューを大皿にこんもりと盛り付けた。
「しかし、あの泣き虫坊やが今や泣く子も黙る騎士団長様になるとはなぁ。いまだに信じられないねぇ」
「子供の頃の話は忘れてくださいよ……」
「いっつも泣きながらモリナの背中に隠れていたのになぁ」
シリウスの呟きなど気にせず喋るモリナの父は、懐かしい光景を思い出しながらニヤニヤと口角を上げた。
実はシリウスとモリナは幼少期を共に過ごした幼馴染でもあるのだ。
「懐かしいな……。あの頃の俺にとって、君はヒーローだった」
モリナの父が厨房の奥で片付けをしている中、閉店後のガランとした店内で向かい合って食事をするシリウスは小声でモリナに語りかける。
「今も君の強さには驚くばかりだ。他の騎士団長達も君の実力を認めているんだぞ?」
「やめてください。今はあなたのほうがずっと強いんですから」
「……その他人行儀な話し方も、いつになったら直してくれるんだ? もう再会して随分と経つじゃないか」
「敬語を使うのは当然です。あなたは私の上司なので」
二人は訳あって長く離れ離れになっていたが、騎士団で団長と副団長という立場で再会した時は、誰よりもモリナが驚いた。
幼少期のシリウスは泣き虫で、いつもモリナが守ってあげていた。
そんなシリウスがモリナよりも強くなって騎士団長の座についていることが、とても信じられなかった。
剣を合わせることでシリウスの実力が本物だと知ってからは、モリナは騎士として彼を尊敬し部下に徹してきた。
だからこそ、交際を申し込まれて秘密の愛を育む間も、モリナはシリウスを上官として敬い続ける姿勢を崩すことはない。
どこまでも律儀で真面目なところは彼女の魅力だが、シリウスはモリナの態度にほんの少しの寂しさも感じている。
「騎士団長になる夢が叶ったら……俺と同じ立場になったら、昔のように気安く話してくれるのか?」
「……」
答えないモリナにため息を吐いたシリウスは、シチューを口に運びながらそっと呟いた。
「第五騎士団の団長が引退を考えているらしい」
「! それは本当ですか?」
「ああ。近日中に公表されるだろう。そして後任者の選定は通常通り、志願者によるトーナメント試合で決する」
「じゃあ……」
「騎士団長になる、またとないチャンスだ。当然挑戦するだろう?」
シリウスと目が合ったモリナは、グッと拳を握りしめた。
「はい。必ず試合に勝ち抜いて、騎士団長の座を手に入れてみせます」
「そうなれば王国史上初の女騎士団長の誕生だな」
小さい頃からのモリナの夢を知っているシリウスは、強い意志を宿した彼女の瞳を見て目を細めた。
「騎士団長になったあとの目標はあるのか?」
「はい。あなたに求婚します」
「ゴホッ!」
盛大に咽せたシリウスがシチューを吐き出しそうになるのを、モリナは呆れた目で見やる。
「何をやっているんですか? ほら、水を飲んでください」
「君が変なことを言うからだろ……! 俺からの求婚は断っておいて!」
咽せて涙目のシリウスは恨みがましそうにモリナを睨む。
実はシリウスは交際を申し込んだ時に求婚も同時にしていた。
それをモリナは丁重にお断りし、交際だけを受け入れた。
恋人の立場に甘んじながらも、シリウスは懲りることなくその後何度もモリナに求婚したが、聞き入れられることは一度もなかったのだ。
「それは……結婚が嫌だったわけではなくて。私はただ、あなたと結婚するならきちんと約束を果たしたいだけです」
「約束だと?」
「……はい。あなたのお母様との約束です」
モリナの言葉にシリウスは息を呑む。
シリウスの母は、十年前に亡くなっている。
その死に立ち会ったのはシリウスではなく、モリナだった。
「病床のおばさんと、約束したんです」
『おばさん、安心して。私が絶対、シリウスを守るから! 騎士団長になったら、貴族と同じ地位になれるんだって。だから私、騎士になって史上初の女騎士団長になる。そしたらシリウスを迎えに行けるでしょう? そのあとはシリウスと結婚して、必ず幸せにするよ!』
そう意気込むモリナに、シリウスの母は痩せ細った手を伸ばしたという。
『モリナちゃん。あの子のことを、どうかお願いね……あなただけが頼りなの』
『うん、約束する。だから早く元気になってね』
モリナの言葉に安心したシリウスの母は、程なくして息を引き取った。
「母さんが……そんなことを?」
俯いたシリウスは、死に目にも会えなかった愛する母の最期を想った。
母の死を思い出すたびに、それを何年もあとから知らされた時の絶望が蘇る。
そんなシリウスの手に手を重ね、モリナは強い緑色の目を向けた。
「騎士として、一度交わした約束は果たさないと。だからあなたはただ待っていてください。私が相応しい場所に立てる日を」
「……ああ、それならば仕方ない。信じて待っている。お前が俺の隣に並び立ってくれるその日を」
モリナの手を握り返したシリウスが彼女の体を引き寄せようとしたところで、ガタンと音がする。
「おいおい、店でイチャつくのはやめてくれよ」
「お、おじさん! これは……っ」
「そういうのは結婚後にしてくれー」
茶化すようなモリナの父は、幼い頃から見守ってきた二人の恋路を密かに応援しているのだった。
シリウス率いる第二騎士団は、十二ある王室騎士団の中で最も厳しいと言われている。
理由は言うまでもなく、氷の騎士団長シリウスによるスパルタ稽古のせいだ。
その分精鋭揃いの第二騎士団は危険な任務にあてがわれることが多く、今や特攻部隊のような役割を担っていた。
一目置かれる存在ではあるものの、当の団員達にとってはスパルタ稽古のあとの危険任務は少し気が重い。
休憩中、団員達は気晴らしに鬼のような騎士団長についての噂話を始めた。
「なあなあ、聞いたか? 団長って、私生児だったんだと」
「団長の父親のバスラン伯爵が平民の女に手を出して孕ませたってやつだろ?」
「しかも認知すらしないで放置して、頼るアテもなかった団長の母親は子供を育てるために働き詰めで体を壊したらしい。だから団長は幼い頃、かなり貧乏な暮らしをしていたそうだ」
「それがバスラン伯爵に後継者が生まれなかったからって、唯一血を引いている団長を無理矢理母親から引き離して伯爵家に入れたとか?」
「ああ、そうだ。病気の母親はその後、団長に会えないまま亡くなったそうだ」
「そんな不憫な境遇も、あの人がモテまくってる要因なんだろうなぁ」
団員達の視線の先には、令嬢達に囲まれている無表情のシリウスがいた。
容姿端麗で地位も財産もある伯爵家の後継者。さらには騎士団長になるほどの剣の実力を持つシリウスは、休憩時間のたびに令嬢達が取り囲むほどモテモテだ。
「あんなにモテてんのに冷たくあしらって。今日もクールだねぇ、うちの団長様は」
「女には困ってないんだろうよ」
「なんたってあの大富豪、バスラン伯爵家の跡取りだもんなぁ」
「でもよぉ、いくら跡取りだからって、私生児だったせいで伯爵家から冷たくあたられてるって聞いたぜ?」
「騎士団に入ったのも、騎士のコネが欲しかったバスラン伯爵の命令だったんだろ?」
「だからなんだよ? そんなの爵位を継いじまえば関係ないだろーが」
シリウスを見ながら話す団員達から離れるように、モリナは席を立った。
「モリナ? どうしたんだ?」
「別に、なんでもない」
素っ気なく答えたモリナはその場をあとにする。
団員達は荒々しいところがあるが、根はいい者達ばかりだ。
彼らに悪気がないのは分かっているが、これ以上その場にいることが我慢ならなかった。
モリナの脳裏にはハッキリと、連れ去られるのを嫌がる幼いシリウスの泣き顔と叫び声が焼き付いている。
あの時のシリウスとシリウスの母が、どんな気持ちでいたことか。
無理矢理引き離されたあの日が、二人が会った最後の日だった。
二人の別れを目の前で見ているしかなかった無力なモリナは、シリウスの過去を談笑の種にするような場にはいられなかった。
シリウスの父であるバスラン伯爵が碌でもない男であることは、モリナもよく知っている。
死に際にひと目だけでも息子に会いたいと懇願するシリウスの母を、あの男は文字通り一蹴した。
そしてシリウスには何も伝えず、数年後に酔った勢いで母の死をうっかり漏らしたそうだ。
シリウスが連れ去られてから病弱な彼の母を看病したのは、モリナとモリナの父だった。
たまたまシリウス親子が暮らす近所で小さな食堂を経営していたモリナの父は、食べる物に困っている親子に時々食事を分けてあげていた。
その際にモリナはシリウスと仲良くなり、いつも一緒にいた。
貧しくとも、あの頃のシリウス親子は幸せそうだった。
その幸せな日々を、伯爵がある日突然一方的な言い分で引き裂いたのだ。
『汚らわしい私生児を息子と認めて引き取ってやるんだ、感謝しろ!』
『イヤだ! 母さん……!』
『シリウス!』
最後までシリウスに会いたがっていたシリウスの母の細い腕が、今でもモリナの記憶に強く残っている。
再会してから本人に聞いた話では、伯爵家に引き取られてからのシリウスは、寝る間を惜しんで剣に打ち込んだという。
騎士として大成すれば、母を迎えに行けると言われたからだったそうだ。
幼いシリウスには他に方法も思いつかず、脇目も振らず剣の稽古に励んだ。
なのに彼は、残酷な形で真実を知ることになる。
すでに母が死んで数年も経っていると聞いた時、彼はどれほど絶望しただろうか。
それからどんな想いで騎士団長まで上り詰めたのか、その努力を想像するだけでモリナの胸は痛んだ。
「モリナ」
呼ばれて振り向けば、そこには幼い頃の貧弱な面影などない立派な騎士がいた。
「どうした? 顔色が悪いぞ」
気遣うようなシリウスを見上げたモリナは、稽古用の剣を手に取った。
「暇なら稽古をつけてくれますか?」
「なに?」
「令嬢達に囲まれて楽しそうだったので」
「楽しいわけあるか。……まさか、ヤキモチか?」
小声で言われた言葉には、隠しきれない嬉しさが滲んでいた。
人の気も知らないで、と心の中で舌打ちをしたモリナは、挑発するような目をシリウスに向ける。
「だったら悪いですか?」
「よし、相手をしてやろう」
モリナにヤキモチを妬かれたと勘違いしたシリウスは、クールな無表情を保てていなかった。
◇
「おい、第五騎士団長が引退するってよ!」
その日も第二騎士団の詰め所は賑やかだった。
「本当か? それじゃあ後任者は……」
「例のトーナメント試合で決めるらしい。十日後だ」
十二ある騎士団の各団長は、欠員者が出た際に志願者によるトーナメント試合で後任が決まる。
各騎士団の中から団長の推薦を受けた者だけが、騎士団長昇格への試合に志願できた。
「モリナ、もちろん出るんだろう?」
「当たり前だ。すでに団長から推薦を認められている」
団員達から問われたモリナはクールに頷く。
「俺達の分も頑張ってくれよ!」
「応援してるぞ、モリナ!」
「お前なら絶対に史上初の女騎士団長になれるぞ!」
「……ありがとう」
同僚からの激励に、普段あまり笑わないモリナも薄く笑顔を見せた。
「!!」
「モリナが笑った……」
「……モリナって、やっぱり美人だよな……」
普段は生真面目でクールなモリナの笑みに団員達が色めき立っていると、冷ややかな声がした。
「何を騒いでいる」
「ひぇっ」
「だ、団長……っ」
冷たい瞳のシリウスが、その場を凍てつかせる。
「元気が有り余っているのなら、稽古をつけてやろう」
「か、勘弁してください! 午前中も叩きのめされたばっかりじゃないですか!」
「いいから表へ出ろ。無駄口を叩けなくしてやる」
先日のモリナとは違い、シリウスは本気でヤキモチを妬いていた。
「こちらに騎士団長のシリウス様はいらっしゃる?」
シリウスの猛稽古のおかげでヘトヘトの騎士団の詰め所に、見るからに気位の高そうな令嬢が声をかけてきた。
「なんのご用でしょう?」
またいつもの取り巻きかと、シリウスに代わって対応する団員に令嬢は高飛車な目を向ける。
「私はベルパティ侯爵の娘、ラナーシャ・ペルパティですわ。シリウス様に、我が家から縁談の申し入れがございますの」
「縁談……?」
「お忙しくて伯爵家に戻っていらっしゃらないと伺ったので、直接こちらに出向きましたのよ。彼は今、どちらに?」
「えっと、団長は……」
「ここにいるが」
戸惑う団員の背後に立ったシリウスが冷たい声で応えると、ラナーシャは笑顔になった。
「シリウス様! やっぱりこちらにいらしたのですわね。お聞きいただいた通り、縁談の件で参りましたわ。お喜びくださいな、私の夫にして差し上げますわよ」
傲慢に笑う不躾なラナーシャを見下ろすシリウスは、冷たい声で告げた。
「断る」
シリウスの態度にピクリと固まったラナーシャは、扇子で口元を隠すとギラつく瞳でシリウスを睨んだ。
「……あら、すでに伯爵様にはご了承いただいておりますのに。ベルパティ侯爵家との縁談ですもの、伯爵家如きが逆らえるはずはありませんわよね?」
「私は承諾していない」
「まあ! そのような態度を取ってよろしいのかしら? 私がお父様に一言お願いすれば、バスラン伯爵の事業は先行かなくなりますのよ?」
「勝手にしたらいい」
「なっ……。ちょっと顔がいいからと、図に乗り過ぎではないかしら? たかだか私生児の分際で、私の夫となる栄誉を断るだなんて傲慢もいいところだわ」
「だったらそちらこそ、汚らわしい私生児との縁談など断ったらいい。忙しいので失礼する」
驚くことにシリウスは、侯爵令嬢の鼻先でピシャリと扉を閉めた。
「だ、団長!? いいんですか!?」
「構うものか。放っておけ」
無表情のシリウスは、呆気に取られる団員達の前で面倒くさそうに席に戻った。
一人で居残り稽古をしていたモリナが詰め所に戻ろうとしていると、そこには怒りに震えるラナーシャがいた。
「騎士団に何かご用ですか?」
ことの経緯を知らず声をかけたモリナに、ラナーシャは叫ぶ。
「ええ、今すぐこの扉を開けてちょうだい!」
「……申し訳ありませんが、部外者を中に通すわけにはいきません」
ただならぬ令嬢の様子を警戒したモリナは扉の前に立ち、規定通りの言葉を口にする。
「どきなさいよ! 私はシリウス様に用があるの! この私との縁談を断るだなんて、あまりに無礼で許せないわ!」
「縁談?」
モリナは一瞬ズキリとした胸の痛みを感じたが、すぐに顔を上げて無表情でラナーシャを見た。
「そういうお話ならば、尚更ここをどくわけにはいきません」
「なんですって?」
「団長は現在勤務時間中です。個人的なお話がしたいのであれば、退勤後に直接お約束を取り付けてください」
「ふん。私に指図するなんて礼儀がなっていないわね。そもそも誰なのよ、あなた」
「第二騎士団の副団長です」
「えぇ? 女のくせに副団長ですって? イヤね。騎士団の質も随分と落ちたのではなくて?」
鼻で笑うラナーシャは、小馬鹿にしたような目でモリナを見た。
その傲慢な目がシリウスの父親である伯爵と重なり、ついモリナの口から本音が出てしまう。
「本人の意に反することを強要するのが、貴族のやり方ですか?」
「はあ? 一介の騎士の分際で侯爵令嬢である私に喧嘩を売ってるの? いいから早く中に入れなさい!」
相手の身分が高いことは百も承知で、モリナは断固とした姿勢を崩さなかった。
「団長がお断りしたお客様を、私が勝手に招き入れるわけにはいきません。どうぞお引き取りを」
凛としたモリナの姿を見たラナーシャは余計に腹を立てた。
「もう結構よ! あなたも、あなたの上司も! この私をコケにしたこと、絶対に後悔させてやるわ……!」
荒々しく去っていく背中を最後まで見届けて、モリナは詰め所の中に入った。
◇
「……心配させてすまない」
「問題ありません」
その日の夜もモリナは、シリウスに背後から抱き締められていた。
何かあるとすぐにモリナに甘えるシリウスは、幼い頃から変わっていない。
「分かっていると思うが、俺は馬鹿げた縁談を受けるつもりはない」
「はい」
「……聞き分けが良すぎやしないか? もっとこう、嫉妬するとか拗ねるとかないのか?」
なぜかシリウスのほうが口を尖らせて拗ね出すおかしな状況に、モリナは笑みがこぼれた。
「ふふ。怒ったほうがよかったですか?」
「いや。……信じてくれて嬉しい」
モリナの肩に顎を乗せてぎゅうっと抱き着きながら、シリウスは誰よりも愛おしい腕の中の存在を全身で感じ取る。
「騎士団で再会した日のこと、覚えているか?」
「もちろんです。とても驚きました。無名の騎士が飛び入りで試合に参加して第二騎士団長になったと聞いただけでも驚いたのに、まさかそれがあなただったなんて」
初めての顔合わせで、互いに目が離せなかったのを今でも鮮明に覚えている。
「あの時、私はまだ未熟で試合に出るほどの実力がなく、志願を断念したんです。もし無理に出場していたら、試合で再会する羽目になっていましたね」
「そうなっていたら俺は今、騎士団長になっていなかったかもしれないな。いきなり君と剣を交わして、取り乱さずにいられる自信がない」
「私もきっと、醜態を晒していたと思います」
肩越しに見つめ合った二人は、同時に笑みを漏らした。
「いつか……騎士として生きていれば、君に会えると思っていた。そうでなくとも、騎士団長になったら君に会いに行こうと決めていた」
「そうだったんですか……私も騎士団長になったらあなたを迎えに行こうと思ってました。私達、同じことを考えていたんですね」
「! モリナ……」
ぐいぐいとモリナの体を押してベッドに倒そうとするシリウス。
「あまり長く二人でいると父が様子を見に来てしまうので、そろそろ下に降りましょう」
そんな彼の腕からサッと抜け出したモリナがピシャリと言うと、シリウスの肩がガクッと下がる。
「うぅっ、いつまでこの生殺しが続くんだ?」
「結婚するまでに決まっているじゃないですか」
無慈悲だ、と項垂れるシリウスを見て、モリナはクスクスと笑っていた。
◇
「モリナ!」
騎士団長昇格試合が迫るある日、モリナは元気な声に引き留められる。
「レナルド、久しいな」
そこにいたのは、かつて同じ騎士団に所属していた同期だった。
「モリナも出るんだろう? 昇格試合」
「当然だ」
「じゃあライバルだな。といっても、俺じゃあお前には勝てそうにないけど」
「何を言っているんだ。レナルドも第三騎士団の副団長だろう? 騎士団内で重宝されているとも聞いた」
「それがなぁ、俺って頭がいいだろ? だから実戦要員というよりは、戦略とか暗号解読とかで重宝されてるんだよ。だから剣の腕に自信があるわけじゃないんだが、副団長として挑戦してこいと言われてさ……」
同じ試合に出るということもあり、気安い雰囲気で立ち話をする二人に冷ややかな声がかかる。
「モリナ、ここで何をしている?」
いつもより不機嫌そうなシリウスが、ギロリとレナルドを睨みながらやって来た。
「じゃ、じゃあ俺は行くな。試合で会おう!」
察しの良いレナルドはただならぬ空気を感じ取り、そそくさと逃げるように去っていく。
その背中を睨みつけながら、シリウスが問う。
「今のは誰だ?」
「第三騎士団に所属していた時の同期です。今は第三騎士団の副団長で、彼も騎士団長昇格試合に出ると」
「…………」
「どうかしました?」
「モリナ、せめて交際を公にしないか?」
「は? 急になんですか?」
「先日の縁談の件、俺たちの交際を公表していれば、ああいった無駄な話もなくなるだろう。それに……君に変な虫がつくのは耐えられない」
急な話の理由に思い至ったモリナは、呆れたようにため息を吐いた。
「レナルドはただの同期ですが?」
「うっ……」
情けない嫉妬を見抜かれてしまい、返す言葉もないシリウス。
シリウスに歩み寄ったモリナは諭すように声を落とした。
「団長のお気持ちは分かりますが、私は妙な噂で気を乱されるのは不愉快です。それに……試合が近い今、腹立たしい憶測を立てられるのも嫌です」
「それは……」
シリウスにはモリナの言わんとしていることが分かった。
もうすぐ控えている騎士団長昇格試合に志願するには、各団長の推薦がいる。
モリナの実力は推薦に値する確かなもので、シリウスは自信を持って推薦したが、もし今二人の関係が公になれば邪推する者が出てこないとも限らない。
恋人だから贔屓したのではないか、と。
「そうだな。今はタイミングが悪すぎる」
大人しく引き下がったシリウスだが、その背中は見るからに落胆していた。
念のためモリナは釘を刺しておく。
「私が騎士団長になるまで、この関係は隠し通すべきです。それができないなら……」
「分かったから! それ以上言うのはやめてくれ。俺が泣き縋る姿を見たいわけじゃないだろう?」
「本当に仕方のない人ですね」
普段は氷のように冷たく強い彼が捨てられた仔犬のような顔をするのを、モリナは愛おしく見つめたのだった。
◇
その日、第二騎士団にとある命令が下された。
「特攻ですか?」
「情報が入った。以前から追っていた麻薬密売組織が大規模な取引を行うらしい。一網打尽にするチャンスだ」
「いつですか?」
「三日後……騎士団長の昇格試合がある日だ」
「時間は?」
「朝らしいが……お前、まさか」
前のめりなモリナに嫌な予感がしたシリウスが眉を寄せると、モリナはなんでもないことのように言う。
「私も行きます」
「ダメだ」
「なぜですか? 試合は正午からです。取引が朝ならば、奴らを制圧したあとでも充分間に合います」
「団長命令だ。お前は今回の作戦には参加せず、試合に集中しろ」
「そのような気遣いは無用です。私事で重要な任務に穴を開けるわけにはいきません!」
「お前のためではない。他の団員達のためだ。お前を試合に間に合わせようと、コイツらはきっと無茶をする」
シリウスが指した先では、団員達が大きく頷いていた。
「そうだぞ、モリナ! 団長のいうとおりだ!」
「お前がいたら気になって仕事に集中できないだろ!」
「大事な試合を控えたお前に怪我なんかさせられないと思ったら、焦って敵を取り逃がすだろうか!」
「みんな……」
「団員達のためにも、お前は試合だけに集中しろ」
仲間達の気持ちを目の当たりにしたモリナは、有り難さを胸に頷いた。
「承知いたしました。……ですが、作戦会議にはきっちり参加します」
「ああ、ダメだと言っても聞かないだろうからな」
そうして迎えた試合の朝、早々に会場へ入ったモリナが剣の素振りをしていると、見知った顔が現れた。
「モリナ、早いな!」
「レナルド」
「今日はよろしくな」
「ああ、手加減はしない」
「はは、そこは少し加減してくれよ。お前の実力なら俺に勝ち目はないんだから、せめて怪我しないようにさ」
二人が会話をしていると、焦ったような声が割り込んでくる。
「レナルド、ここにいるか!?」
「あれ? 団長、どうしました?」
「試合前に悪い。どうしてもお前の力が必要で……」
駆け込んできたレナルドの上司、第三騎士団の団長は一枚の紙を取り出した。
「この暗号を解けるか? 第二騎士団が追っている例の組織についての情報だ。今日大捕物があるってのに、誰もこれを解読できなくて……」
「任せてくださいよ。えーっと……」
紙を受け取ったレナルドは、少し間を置いてから目を見開いた。
「これは……っ! マズイです! 今日の取引情報はデマです! いつも取引を邪魔する第二騎士団を壊滅させるのが目的だと!」
「!?」
「なに!? 急いで第二騎士団に知らせてやらないと……!」
「第二騎士団はすでに現場に待機しています」
話を聞いていたモリナが伝えると、第三騎士団長は渋い顔をした。
「他の部隊は?」
「今回は少数精鋭にすべきだと、現場にいるのは第二騎士団だけです」
「非番の騎士団や団長クラスは今日の試合設営に駆り出されてるんじゃないですか?」
「今日の朝を取引日にしたのも、騎士団の関係者が手薄になるのを見越してのことか!」
「とにかく第二騎士団長に作戦の中止を伝えないと……!」
レナルドの焦った声に、モリナが前に出る。
「私が行きます」
「なっ!? 君は試合を控えているだろう?」
驚いた第三騎士団長に、モリナは真剣な目を向けた。
「ですが、第二騎士団の作戦や動向を誰よりも把握しているのは団員の私です。相手に気取られないよう団長にこのことを知らせられるのは私だけです」
「だが……」
「迷っている時間が無駄です。すぐに出ます」
結んだ髪を揺らしながら飛び出していくモリナに、レナルドが慌てて声をかける。
「おい、モリナ! 試合はどうする気だ!?」
「戻らなければ棄権だと伝えてくれ!」
剣を握りしめ、モリナは駆け抜けた。
「団長!」
「モリナ!? なぜ来た!?」
現場に現れたモリナに、シリウスは目を瞠った。
「例の情報はデマです! 奴らは第二騎士団を壊滅させるのが目的です」
「なんだと? どうりで向こうの動きがおかしいと思った……急いで撤退する。総員、退避だ!」
すぐに判断したシリウスの指示で、団員達は撤退していく。
そんな中、シリウスはモリナの背を叩く。
「こっちのことはいいから、お前は早く試合に……」
その時ふと、こちらを狙う殺気に気づいたシリウス。
キラリ、と光る矢。
考える暇もなく、体が動いていた。
「モリナ!!」
モリナが気づいた時には、モリナを庇ったシリウスが矢に倒れていた。
「団長!? しっかりしてください、団長!」
「モリナ……っ」
伸ばされたシリウスの手が、パタリと地に落ちる。
「いやっ……目を開けて! ……シリウス!!」
「ここは……?」
「目が覚めたんですね」
「モリナ! 試合は!? 新しい騎士団長は……うぐっ」
起き上がったシリウスは、傷口の痛みに呻いた。
そんな彼の体をベッドに押し戻しながら、モリナは淡々と答える。
「……試合には出ていません」
「!?」
「今頃、新しい騎士団長が決まっていると思います」
シリウスは痛む体などお構いなしに怒鳴り声を上げる。
「なぜ出なかった!? 何を考えているんだ! お前の夢を叶えるまたとないチャンスだったろう!?」
怒鳴られたモリナは、静かに俯いた。
「恋人が重体だっていうのに、放っておけるわけないじゃないですか」
「なに?」
「…………」
「……せっかくの機会を、俺のせいで台無しにしたのか? 俺には公私混同するなとあれほど言っておいて、いったいどういうつもりなんだ!? お前がこの日のためにどれほど努力してきたか、俺が知らないとでも!?」
ショックを受け言い募るシリウスを前に、モリナは拳を震わせた。
「心配したんだから! このバカ!」
「!?」
叫んだモリナはシリウスに抱き着く。
小さな嗚咽と震える肩、包帯越しに感じる濡れた感触から、シリウスは彼女が泣いているのに気づいた。
「こんな状態のあなたを放っていけるわけないじゃない……!」
普段真面目な彼女の涙と言葉に、シリウスは動揺しながらも彼女を抱き締め返す。
「モリナ……」
「私だって、あなたがいないと生きていけないの! 騎士団長になる夢が叶ったって、肝心のあなたがいなくちゃ意味がないでしょう! どうして分からないの!?」
普段冷静な彼女の叫びに、シリウスは胸を打たれて呼吸も忘れるほどだった。
「……すまない」
自分はこんなにも愛されていたのかと実感したシリウスは、喜びを噛み締めると同時に申し訳なさで胸がズキズキと痛む。
その痛みは、騎士としてモリナと再会した時に感じた衝撃によく似ていた。
愛おしさと切なさと、言葉にできない感情にシリウスは情けなくも泣きそうになる。
「次の機会は必ずあります。それに……恋人が倒れたくらいで動揺する人間には、まだまだ騎士団長は務まりません。今以上に厳しい鍛錬が必要だと思います。だから……」
シリウスの包帯を優しく撫で、その腕の中でモリナはそっと顔を上げた。
「これからも部下として私を鍛えてください、団長」
シリウスはそれ以上、何も言えなかった。
◇
「麻薬密売組織の裏に、バスラン伯爵が?」
事件後、復帰早々にシリウスはモリナを呼び出して、二人きりの室内でバスラン伯爵が今回の件に関与していたことを報告した。
「ああ。今回の件で全てが露見した。先日のデマ情報、情報源はバスラン伯爵だったんだ」
「じゃあ伯爵は、あなたを陥れようとわざと偽の情報を?」
「そうだ。その背後にいた組織の黒幕はベルパティ侯爵だった。どうやら俺に縁談を断られたラナーシャが痛い目に遭わせてくれと頼み込んだらしい。それに加えて邪魔な第二騎士団を一掃したい思惑があったようだ。俺のことをある程度痛めつけて、お前をはじめとした団員達を皆殺しにする算段だったと」
淡々と語るシリウスは、まるで他人事を話しているかのようだった。
「伯爵は今、どこに?」
「牢獄だ」
「!」
「俺がこの手で奴を突き出した。刑が決まるのも時間の問題だろう。ベルパティ侯爵も罪に問われるのは避けられない。面倒ごとが一気に片付いてスッキリしたな」
本当に晴れやかな表情のシリウスは、さらに衝撃の事実を打ち明けた。
「これでバスラン伯爵家は取り潰しになるだろう。爵位を継ぐ者がいないのだから」
「まさか、爵位の継承を拒んだのですか?」
頷いたシリウスは立ち上がり、モリナの前に立つとその手を取った。
「俺が欲しかったのは君を迎えに行けるほどの地位と名誉だ。それは騎士団長になった時点で手に入れた。憎いあの男の爵位など、死んでも継ぎたくはない。その後も伯爵家に身を置いていたのは、あの男が犯罪組織と関わりがあると睨んでいたからだ。内部にいたほうがいろいろと情報が入るからな」
「どうして一人で片付けてしまったんですか? 私を頼ってくれてもよかったのでは?」
「すまない。だが、自分の手で片をつけたかったんだ。あの男は自分が欲していた〝息子〟に全てを奪われ踏み躙られた。まったく見事に地に落ちてくれたものだ。……これでやっと母さんの敵討ちができたよ」
窓の外に広がる空を見上げるシリウスは晴れ晴れとしているが、モリナはまだ少しだけ腹の虫が治まらない。
「どうせなら爵位も財産も、もらえるものはもらっておけばよかったじゃないですか」
「なんだ、君は俺の爵位や財産が目当てだったのか?」
茶化してくるシリウスに、モリナは別の意味で苛立つ。
「そんなわけがないことくらい、分かってますよね? 私が欲しいのはあなただけです」
「ッ!」
怒ったモリナがシリウスの腕を掴んで上目遣いに見上げると、その手に手を重ねてシリウスは彼女を抱き寄せた。
「いきなりそういう可愛いことを言い出すのはやめてくれ! ああ、いったいいつになったら君と結婚できるんだ!? こんなに愛しているのに!!」
「私が騎士団長になるまで我慢してください」
「我慢できない! 今すぐ結婚したい!」
駄々をこねる子供のようなシリウスに、モリナは思わず吹き出してしまう。
「あはは! そんな姿、団員達の前で見せないでくださいよ? 氷の騎士団長の格が落ちます」
「君こそ、そんなに可愛い笑顔を他の男に見せたら許さないからな」
「わ!? 犬みたいに撫で回すのはやめてください!」
子供のようにじゃれ合う二人は、目が合うと同時に微笑み合った。
「次は必ず、夢を叶えて約束を果たします」
「ああ、信じているよ。それまで極秘交際継続だな」
「……お手柔らかにお願いしますね」
「それは難しい」
モリナの後頭部を掴んだシリウスは、逃げる隙を与えずキスをした。
「ん、もう……強引なんだから」
「俺の我慢が利かなくなる前に、早く夢を叶えてくれ」
「任せてください。なにせ私は、氷の騎士団長の部下ですから」
氷のクーデレ騎士団長は、部下のクーデレ女騎士と秘密の熱愛中 完
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