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路地裏から出ると、大通りに出た。人が多い。


歓声が絶え間なく上がっていた。よく見えないが、凱旋パレードのようだ。


「公爵様ー!」


「万歳ー!!」


歓声がいっそう大きくなった。叫ぶ声からして公爵が乗った馬が通ったのだろう。


突然目の前に映像が流れる。褒め称える群衆。馬に乗った男性が手を振っていた。

透き通り陽の光を反射して輝く銀髪。ひとつの隙もない整った顔。知性を湛えた青色の瞳。

ウォルヴィス公爵だ。


この映像は現在だ。聞こえる歓声が二重だから。


群衆の中の1人が不思議な挙動をしているのが見える。懐からナイフを取り出した。


まずいっ!


この人がとる行動が予想が着いた。けれどこれが今なら間に合わない。

私の焦りも虚しくナイフが投擲された。普通に投げるよりも異常に早いスピードだ。


このままだと公爵に刺さる。公爵に迫るナイフが見える。止まれ、止まれ!


「とまれっ!」


思わず声が出る。すると公爵の目の前でぴたりとナイフが止まった。ふっとナイフが落ちていくのを公爵が受け取った。


えっ…何が起こったの…?私の想いが届いた?


戸惑う私を他所に、犯人が逃げようとする。


「うわぁぁあ」


走り出した犯人の映像を見つめながら、私はあるひとつの仮説にたどり着いた。


それを確かめるために口を開く。


「ころべっ!」


何かに引っかかったように犯人が転んだ。予想通り。私は口に出すことで、現実の映像に干渉することができるようだ。


そこで映像が途切れる。ふと前を見ると目の前に犯人が居た。ゆらりと立ち上がる。踵を返し人を押し退け、走り出した。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁあ」


パレードの前に飛び出す。馬が嘶いた。


轢かれるっ!まずい、どうしよう。これは映像じゃないからどうにも出来ない。


でも身体が止まらなくて私も犯人を追いかけて服の裾を掴む。私の力では止まらなくて私も前に引っ張られた。


ふわりと冷たい空気が頬を撫でる。素早く氷ができて犯人を捕らえた。その衝撃で犯人は動かなくなる。

私は急に犯人が止まったことでバランスを崩した。


倒れるっ。


目を閉じて身体に走る衝撃と痛みに備えたがいつまで経ってもそれが来ない。誰かが私を抱き上げた。

目を開けると目の前にウォルヴィス公爵がいた。彼の青い瞳に私が映る。


そういえば私の瞳も青色だった。


「君は……。」


「「公爵閣下〜!!」」


公爵の部下と思わしき人達が駆け寄ってくる。

公爵は私を抱いたままその人たちに言った。


「このまま屋敷に戻るぞ。」


「はいっ?!」


部下の人達は戸惑う。私も戸惑っていた。どうして私を下ろしてくれないの。私は逃げなきゃ行けないのに。


「でっですが、閣下。凱旋パレードはどうされるのですか?」


「元々王家の奴らを喜ばせるためのものだ。放って置けばいい。」


ウォルヴィス公爵は王家のことをよく思ってなかったのかな。

いけない。私には関係ない事だった。


「あの、おろしてくれませんかっ。」


勇気をだして話しかける。ウォルヴィス公爵は高位の獣人特有の威圧感があった。なんの獣人でもない私はそれに圧倒される。


でも怯んでる場合じゃない。早くしないと叔父と叔母が来る。


「何故だ。」


ウォルヴィス公爵は心底不思議そうな顔をしている。


「なぜって…わたしはかんけいないですから。」


「関係あるも何も、君から私とミリアの匂いがする。」


ミリア…私のお母さんの名前…。なんでこの人が知ってるの。

この人が私の……ううん。関係ない。私は生きるんだ。


「わたしはっ…」


何か言おうとした時目の前がぐるっと回った。瞬く間に知らない屋敷の前に来る。

ウォルヴィス公爵はすたすたと屋敷の扉に歩いていき、それを開けた。


「お帰りなさいませ、公爵様。」


老年の男性がこちらに気づき、近づいてくる。私を見ると優しそうな笑みを浮かべた。


「これはこれは。可愛らしいお嬢様ですね。公爵様、こちらのお方は?」


「私の娘だ。」


ウォルヴィス公爵がきっぱりと言い切る。男性は少し驚いたが、直ぐに表情が戻る。

ウォルヴィス公爵は私をゆっくりと下ろした。敷かれている絨毯がふかふかだ。


「先にこの子を綺麗にしてくれ。あとは温かい物を。」


「かしこまりました。」


ウォルヴィス公爵は男性にそれだけ言うと、私の頭を撫でてから、屋敷の奥へ歩いていく。

男性は屈んで私と目線を合わせた。


「始まして。お嬢様。私はウォルヴィス公爵家の執事を務めております、ハリフと申します。よろしくお願いします。」


「よっよろしくおねがいします。」


ハリフさんは優しそうな目をしている。私はハリフさんに連れられて、屋敷の中を歩いた。


「お嬢様。公爵様は少しやることがございますから、少しお待ちくださいね。」


私にそう言うとハリフさんもどこかへ行ってしまった。代わりに綺麗な女性がやって来る。彼女も私と目を合わせて微笑んだ。


「初めましてお嬢様。私はフィミュルと申します。これからよろしくお願いしますね。」


「こんにちはっ。」


フィミュルさんは私をバスルームへと連れていった。綺麗な大理石に、真っ白なバスタブ。中には温かそうなお湯が貼ってある。


「外は寒かったでしょう。温まりましょうね。」


てきぱきと私の服を脱がせる。顕になった私の肌を見て、フィミュルさんが息を飲むのがわかった。


「……ひとりではいれます。」


「…お嬢様。大丈夫ですからね。」


フィミュルさんが私のことをそっと抱きしめる。そして抱き上げて私をお湯に入れてくれた。


…温かい。


ほっとして泣きそうになった。フィミュルさんは私のことを優しく洗ってくれた。身体を洗うのはずっと冷たい水と古いタオルだったから、久しぶりのお風呂は気持ちが良かった。


頭と身体が綺麗になって、服を着せてもらう。

上質な素材でできたそれは私が着ていたどれよりも着心地よかった。


着替えが終わって部屋に通される。フィミュルさんは私を持ち上げ、ソファに座らせた。


「お嬢様、こちらをお召し上がりください。」


そう言って、マグカップを手渡される。中には茶色の温かい液体が入っていた。

息を吹き掛けて冷ましてから、口をつける。


甘い…。ココアだ。


お母さんも眠れない日はココアを作ってくれた。誕生日などの特別な日はマシュマロが入っていた。


お母さんのココアの味に似ている。


じわりと涙が滲んた。バレないように首を振る。

ココアを飲んでいると部屋の扉が開きウォルヴィス公爵が入ってきた。


私は慌ててコップを置き席を立つ。そして見よう見まねのカーテンシーをした。


「ウォルヴィスこうしゃくかっか、アリア・リデルともうします。たすけていただきありがとうございました。」


ウォルヴィス公爵は私の前に屈むと少し困ったように笑う。


「かしこまらなくていい。君は私の娘なのだから。」


「…むすめじゃないです。」


お母さんは私のお父さんのことを話さなかった。そして、私も聞いてはいけない気がして、終ぞ聞くことは無かった。

でも、私は私の父を知っている。


「どうしてだい?」


「……おかあさんがしんじゃったとき、おじさんがわたしははんじゅうじんなんだって。」


私が何の獣人の特徴も持たないのは遠い国の人間という種族との間にできた子供だからだそう。

半獣人は出来損ないだと叔父は言った。だから仕方なく面倒を見てやるのだと。


「いや、君は私の子だ。たとえ獣人の特徴を持っていなかったとしても。」


やけに確信めいた口調でそう言う。そして私を抱き上げ、私の目を見た。


「それに、半獣人は出来損ないではない。人間もそうだ。それぞれ違う力がある。だから君にも君だけの力があるんだ。」


私だけの力…。この力がそうなのだろうか。でも、やっぱりこの人が私の父だとは信じられない。


「……じゃあなんでっ……なんでおかあさんがしんじゃったときにきてくれなかったのっ…おそうしきにもいなかったじゃないっ……!!」


私の父だと言うのならなんで助けに来てくれなかったのか。お母さんが苦しんでいる時。私が叔父と叔母に殴られてる時。


「いまさらっ……いまさらきたって……もうおかあさんはいないのにっ……!」


ウォルヴィス公爵家なら治療薬が見つかったかもしれない。完治は無理でも、もう少し長く生きられたかもしれない。


私は公爵の胸を殴りながら泣いた。


「……すまない。これは私の過ちだ。ミリアを、君を見つけられなかったことも。ミリアの死に立ち会えなかったことも。」


ふと見上げると公爵の瞳も潤んでいた。その瞳には後悔や申し訳なさが滲んでいる。


「今更かもしれない。だが、やっと見つけられたんだ。君のこと愛させてくれないか。」


「……ひとつきいていいですか。」


「あぁ。なんでも。」


「こうしゃくさまはおかあさんのこと、あいしてましたか?」


公爵の瞳が僅かに揺れる。愛おしそうな顔をする。


「当たり前だ。この世の何よりも誰よりも愛していたよ。そして、君や他の子達と同じくらい今も愛している。」


お母さんは時折何かを思い出して切なそうな顔をしていた。私は子供心にお母さんは好きな人がいるのだと思っていた。もしその人がウォルヴィス公爵なら。

お母さんと……お父さんが愛し合っていたなら。

その方がいいと思った。


「……おかあさんもあいしていたとおもいます……おとうさん。」


お父さんは驚いた顔をして、嬉しそうに笑った。その瞳に涙が浮かんでいたことは見ないふりをすることにした。

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