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新しい作品です

パシンッ

頬叩く音が狭い部屋に響き渡る。少女は立っていられなくなり座り込んだ。

目の前にいるのは少女の叔母。死んだ母の姉にあたる人だ。


「何してるの?!さっさと見なさいよ!未来!」


叔母はヒステリックに叫ぶ。そして少女の髪の毛を掴み引きずった。少女には抵抗する力がない。もう3日も食事をとっていなかった。


「ほんっと役に立たないわねぇ。あんたのせいで負けて大損よ。」


少女には未来を見る力がある。と言っても彼女自身がコントロール出来る訳では無い。突然断片的に見えるだけだ。

どこからそれを知ったのか叔母や叔父は少女の力を利用している。未来を見る時少女の瞳は光を放つ。見た未来を話さなければ折檻され、未来が見れなかったら壊れた機械を直すように殴られる。


叔母は興奮しており、尻尾が出ていた。少女は小刻みに揺れるそれを見つめる。

彼女にはそれが無かった。


この世界の殆どは獣の特徴を身に宿している。その中で少女は何も持たずに生まれた。母は彼女が6つの時に死んだ。代わりに少女を引き取ったのは叔父と叔母だった。少女はただ未来を見るための道具になった。


部屋のドアが開いて、叔父が入ってくる。叔父は少女を見るとため息をついた。


「まだ何も見ていないのか。」


「そうなのよ。最近こういうのが多くて困るわ。」


叔母は叔父に近づき、頬に手を当て溜息を吐く。叔父は少女をじっと見つめると叔母にこう言った。


「なら、もう殺してしまおう。」


少女は息を飲む。が、予想が着いていたことだ。もうすぐ自分が死ぬことを未来など見なくとも分かっていた。


「古い文献に書いてあった。死に瀕した時に、重要な未来を見るそうだ。ならこいつを刺して、未来を見させよう。」


叔父はそう続ける。叔母は手を叩いて喜んだ。


「それいいわねぇ!」


そして叔父の持っていた剣を受け取ると少女に向けた。少女は抵抗する気すら起きなかった。


鋭く冷たい鉄が少女の体を貫く。身がよじれるほどの痛みの血の味がせり上がってきた。


「ごふぅ」


口から血が溢れる。叔母と叔父は少女に未来を見ろと叫んでいる。少女の瞳が強く光った。叔母と叔父の顔が期待に染る。


薄れゆく意識の中で少女ははっきりと見た。


降りしきる白い雪。揺らめく旗。荘厳な城。


見慣れないがどこか懐かしいそれを瞼の裏に焼き付け、少女の命はそこで尽きた。


14年の生涯だった。


















ーーーーーーー
























ふわりと柔らかな気配を感じて目を開ける。私は確かにあそこで死んだはずだった。


目の前は真っ白で暖かく何かに抱かれる心地良さがある。

ふと声が響いた。


『あぁ可哀想に。因果が悪意に負けてしまったのだね。済まなかった。』


聞き馴染みのある声。直感した。私はここへ還るのだと。


「良かった…私はもう生きなくていいのね…。」


ぽつり呟く。あんな生涯だったけれど、いい事もあった気がする。そんな風に思えるのはここが泣きたくなるくらい優しいからだ。


『…すまないね。君をまだ還らせる訳にはいかないのだよ。』


声がそう言う。


なんで、なんで、還りたい。私の中がそう嘆いた。


声は私を宥めるように言葉を続ける。


『君が君であることに大いなる意味があるのだよ。私が不甲斐ないばかりに迷惑をかけてしまった。だが、もう少し頑張っておくれ。』


「でも、もう私は疲れてしまいました。戻るのは嫌です。」


あんな日々では、私は私として生きれない。私がきれいだと思ったものも守れない。


「私は生まれてはいけなかったのです。誰にも望まれていないのです。そんな私が生きていい訳ないのでしょう。」


笑顔や感謝を向けてはくれても私を好いている訳では無い。きっと私を知ってしまったら拒絶されてしまう。


『あぁ、そんな事言わないでおくれ。お前は私に、この世界に望まれ、祝福され、皆から愛される存在なのだから。』


私の前に光の粒がふわりと浮かんで弾けた。柔らかいそれに思わず涙が零れた。


『私に出来ることはお前の生を巻き戻すことと、お前の力を覚醒させることだけだ。私はとうに還ったから。』


白く淡い光がどんどん強くなっていく。目を開けていられない。


『あとはお前次第だ。大丈夫。お前は皆に愛される子なのだから。』


押し出されるように私はまた意識を失った。





















ーーーー




















暖かさと柔らかさの余韻が残り、目を開けた。見慣れた屋根裏部屋。埃を被った物が沢山置かれている。目の前にある扉は何重にも鍵がかかっているはずだ。


あの不思議な出来事は鮮明に思い出せる。あの声は力を解放すると言った。その力は何なのだろうか。


瞳に僅かな痛みが走った。未来を見る時と同じだ。


映像が流れ込んでくる。でも未来ではない。だってお母さんがいたから。


私のことを唯一愛してくれた。私の憧れ。誰にでも優しくて。私もそうなりたかった。


思い出が、綺麗な記憶が流れてくる。あぁ、これは過去だ。私の大好きだったものだ。


お母さんと私は6つになるまで一緒に暮らしていた。街の外れにある小さな家で。お母さんはパンとケーキを焼くのが得意だったから、そのお店をしていた。私はお母さんが仕事をしている間は街を自由に駆け回っていた。

色んな人と出会った。その頃から未来を見ていたから街で起こる事件を未然に防いでいた。

お母さんだったらそうするだろうし、助けた時のありがとうの言葉が嬉しかった。相手の笑顔が嬉しかった。

お母さんから未来を見れることは秘密にしてと言われていたけれど、この頃は私は純粋にこの力を喜べた。

日が暮れると家に帰って、その頃にはお母さんも店を閉めていたから、一緒に夕食を食べた。

お風呂に入って、今日あったことをお母さんに抱かれながら話して、眠くなったらおやすみのキスをくれて、眠りについた。


幸せだった。でも、お母さんは私が6歳になって直ぐに流行病にかかった。病気になる未来は見えなくて、見てもどうにも出来なくて、私は自分の力が嫌いになった。


お母さんの葬式の時に叔父と叔母と出会った。最初はいい人だと思っていたけれど、違った。

私の力を利用する人だった。


見慣れた屋根裏部屋になって景色が変わる。またお母さんが見えた。まだ若くて、耳と尻尾が見えていて、まだ赤ん坊の私を抱えている。

時間は夜で、大きな城の門からこっそりと出ていった。その門には旗がたっていて、銀色の狼が書かれている。


これ、私が死ぬ前に見た…。この家紋は私でも知っている。むしろ知らない人はいないだろう。


ウォルヴィス公爵家。三公爵家の1つ。銀狼の獣人だ。

北を守護する大貴族で、王家に匹敵するほどの力を持つ。


何でお母さんはそこから出てきたの?私は元々あそこにいたの?


また、場面が変わる。今度は叔父と叔母が写った。


『いやぁねぇ、今日は凱旋パレードだなんて。』


『本当だな。あの忌まわしいウォルヴィスの奴らのだなんて。』


『なんでも、魔獣討伐で功績を挙げたそうよ。あいつが未来を見てたらうちだって。』


『本当に役たたずだな。』


…思い出した。私がここへ来て2年経った時、8歳の時だ。1回私は死にかけた。魔獣が現れる未来を見れなかったから。食事を何日も抜かれ、意識を失うまで殴られた。その時に叔父が零していたウォルヴィスの凱旋。


この景色は過去?未来?でもこんな、なんでもない会話の未来なんて見たことがない。


まだ映像は続く。叔母はそろそろねと立ち上がり、部屋を出て階段を上がる。そして幾重にも鍵の掛けられた扉の前で立ち止まった。叔母が鍵を開け始める。その音が重なって聞こえた。


今、鍵を開けているんだ。それじゃあこの映像は現在!


そこで映像が途切れた。鍵の擦れる音が扉の外から聞こえる。私は立ち上がり、扉の横へいった。壁にぴたりと背中をつけ、様子を伺う。

がちゃんと錠が落ちる音がする。何度もこの音を聞いていたから分かる。あれは最後の鍵だ。


叔父と叔母が私をここへ連れてきて最初にやった事は私を弱らせること。抵抗する力を奪うことだ。

前は動けるほどの力が無かった。でも今は身体のどこも痛くないし、動きやすい。


扉が開いた。今だ。


入ってきた叔母を押し退け、扉の外へ出る。さっき過去を見たから、ここから屋敷の外への出方も知っている。メイドや侍女も私の存在を知らない。だから捕まる心配もない。


叔母は後ろで何かを叫んでいるがここから下まで声は届かない。ドレスでは私に追いつけないだろう。


階段をかけおり、1階へ向かう。途中みすぼらしい格好をした私に驚いた使用人も居た。


「早くっ、早くあいつを捕まえなさいっ!」


叔母の声に使用人達が戸惑う。その隙に私は玄関へ向かった。重たい扉を開けて外へ出る。眩しい光が目に入った。


出れた、出れた!


馬車で追いつかれたら逃げきれない。出来るだけ細い道を選んで走る。私が閉じ込められていたのは王都のタウンハウスだったらしく、道が綺麗に整えられていた。









読んで頂きありがとうございました。

よろしくお願いします

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