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寝言に応えてはならぬ

作者: 川端柳

「明日は昼から雨だね」

 俺の隣で夢の中にいる彼女は寝言ではっきりそう言った。成程。明日は昼から雨らしい。なら、洗濯物は室内干しにして、折り畳み傘を持って出勤することにしよう。


 今付き合っている彼女と同棲を初めて知ったのは、彼女はたまにはっきりと寝言を言うということ。そしてその寝言は、予言だということ。

 予言といっても大したことを言う訳じゃない。死や事故、天災のような重大な予言はではなく、日常の小さな出来事ばかり。

 寝つきの良い彼女は大抵俺より早く寝入るので、予言の寝言を眠りに落ちる前の俺の耳に時々入る。俺が寝た後ももしかしたら予言を言っているのかもしれないが、寝ずの番をして確認するようなことはしていないから本当のところは知らない。

 寝言で予知をするのだから予知夢なんてものを彼女は見ているのかと思って確認したことがある。結果は否。予知夢から零れた寝言ではないらしい。何なら寝言で予言をしている自覚も無かった。

 不思議だ。どういう原理か全くわからない。


 分からないままだが、それで良いと思う。彼女の寝言を聞くのは面白いから。

「明日のプレゼン、絶対通るよ」

「そうだといいな」

 今日は思わず相槌を返してしまった。いつもはしないのに。

 まぁ、所詮は寝言。返事をしたところで会話になることは無いんだ。

「返事をしたな」

 彼女が言った。顔を見ても瞼は閉じたまま。眠っている筈だ。

 実は起きていて、寝言のふりをしていただけだったのか。

「寝言に応えるとは、何と愚かな」

「どういう意味だよ」

「あぁ、また。お前、相当彼女の戻りを望んでおらぬとみえる」

 何言ってんだ。

 そう言いかけて手で口を押さえる。彼女の口から出る言葉は返事をするなと言っている。このまま会話を続けない方が良いのかもしれない。

「物知らぬ小僧。全ては己のせいと知れ」

 彼女の声で、彼女らしからぬ口調で責められたかと思うと、彼女は俺の隣でそのまま寝息を立てはじめた。予言も、謎の言葉ももうないらしい。

 今夜のは何だったのか。


 翌朝、彼女より先に起きた。二人分の朝食を用意しながら昨夜のことを考える。

 暫くすると彼女も起きてきた。

「おはよう」

 返事は無い。まだ寝ぼけているんだろうか。

 洗面所に行くのかと思ったが、彼女はコーヒーを注ぐ俺に近付いてきた。

「どうしたの?」

「こいつの魂は夢のあわいから戻っておらんよ。昨夜お前が愚かにも寝言に応えたからな」

 トースターが、チン、と虚しく鳴った。

お読みいただきありがとうございます。


昔、『蟲師』というアニメで夢に関する蟲の話があり、他の話に比べて救いのない話だったのをよく覚えています。

『寝言に返事をしてはいけない』という迷信を知ったのもその話でした。

実際のところ、眠りの質に影響するそうで、睡眠時に話しかけるのは良くないそうです。


それではよいお年をお迎えください。

そして、良い初夢が見られますことを。

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