下
短いです
腕で顔を隠しているが、全く隠れていない。
キエラは赤い顔でジロリと睨むことしかできなかった。
「今淹れて参りますので、少々お待ちください」
笑いを収めた店員は、笑った余韻に顔を綻ばせながら厨房に戻った。
そういえば、いつから彼がドリンクも作るようになったのだろう。
はじめは店主のお爺さんが淹れていたのに。
時間をかけて珈琲を淹れる。
その様子を、キエラは静かに見つめていた。
「お待たせしました」
青年の手には珈琲の入ったグラスが二つ載った盆がある。
どうしてだろうと首を傾げると、青年はキエラの向かいの席に腰を下ろした。
「休憩貰ったんで、ここで一緒に飲んでもいいですか?」
「どうぞ……」
キエラは目を見開いて驚いた。
あのそっけなかった少年が、自分からキエラに話しかけるなんて。それも、こんな親しげに?
「それ、俺が淹れたんです」
青年はキエラの動揺をものともせず、話しかけてきた。
「そうですか…」
知っている、というのもなんだか烏滸がましくて、曖昧な返事をしてしまった。
珈琲に意識を集中して青年から視線を外す。
ふと、キエラは思いついたままに言葉を紡いだ。
「こんなに美味しい珈琲は、初めて飲みました」
すると青年は驚いた顔をしてキエラを見つめたあと、頬を緩めて少し笑った。
「それは良かったです。毎日練習した甲斐がありました。」
キエラは、顔にだんだんと熱が集まってきたのを感じていた。
「ハジメテを、珈琲が苦手なあなたに飲んで欲しくて」
そう言って笑うその顔に、見惚れる。
ドクンドクンと心臓が踊る。
(これは……自惚れても、良いだろうか)
来店を告げる音がなるまで、キエラと青年はそうして珈琲を飲んでいた。
終わり
そのうちまとめて短編にするかもしれません。
完結させるって言うのを目標に書いていたので、これで一応完成です。




