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こりすま日記  作者: らいどん


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鏡花読書~蝙蝠物語

蝙蝠(こうもり)物語』(明治二十九年)


『蝙蝠物語』は、「新編 泉鏡花集 別巻一」拾遺・小説に収録された未完の短編。

 以下は、7月4日付けの「鏡花読書~海の鳴る時」の補足的な内容です。


 なぜ本作を読んだのかといえば、先日アップした『湯女(ゆな)の魂』(明治三十三年)の元型にあたる作品だと知ったからで、『湯女の魂』の途中までとほぼ同じ内容が文語文で語られている。

 ただしこちらは、主要登場人物が、私(語り手)、友人、その恋人の娘三人で、コウモリに化ける魔女は娘と友人を誘拐する。「私」は彼らを助けるために、魔女が棲む一つ屋を訪ねることになる。


『蝙蝠物語』(明29)、『海の鳴る時』(明33)、『湯女の魂』(明33)の関係をまとめると、『蝙蝠物語』で幻想的な怪奇譚を書こうとして連載三回で中断した鏡花が、新作講談会の企画を受けて、『蝙蝠物語』のプロットを再利用しつつ完結させるアイディア(語り手が娘の魂を友人に届ける)を思いついた。その結果、『湯女の魂』ができあがり、と同時に、同じシチュエーションを写実で語り直した『海の鳴る時』も完成した――ということだと思われる。

 前の日記で、『海の鳴る時』から『湯女の魂』が作られたかのように書いた自分の記述には、誤解が含まれていた。



 親族の記憶が重なる辰口温泉附近を舞台にした『海の鳴る時』に対して、『蝙蝠物語』と『湯女の魂』の舞台は富山である。


 富山を舞台にした鏡花作品(いわゆる「越中もの」)を挙げてみると、


『蛇くい』(執筆は明25, 26頃か)、『義血侠血』(明27)、『蝙蝠物語』(明29)、『黒百合』(明31)、『湯女の魂』(明33)、『星女郎』(明41)、『(よろい)』(大14)


 ――と(旅芸人の興業地として描かれた『義血侠血』を例外とすれば)、鏡花にとっての富山は、伝説や怪異に彩られた伝奇的想像力の働く土地だったようで、夢見がちなローティーンの一時期をそこで過ごしたことと無関係ではないのだろう。

(鏡花が富山で何をしたのかは、「泉鏡花『妖怪年代記』 現代語リライト」の(題材メモ)のページ

 https://ncode.syosetu.com/n1923jx/7/

 を参照。)


 鏡花作品を読むにつれて、同じ題材に別のモティーフを加えながら再構成する流れが見えてくるのだし、さらにその流れが合流して大きな流れをなすさまが、しだいにあきらかになる。


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