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こりすま日記  作者: らいどん


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鏡花読書~水鶏の里

水鶏(くいな)の里』(明治三十四年)


 水鶏(くいな)の里というのは架空の地名で、「越前国武生(たけふ)の町から北へ、御嶽(おんたけ)の麓に沿い、白鬼女川(しらきじょがわ)を越えて、(なお)北する処に、水鶏(くいな)の里というのがある」とされている。

 白鬼女川というのは、福井県を流れる日野川のことだ。すこし前に「鏡花読書~鏡花小説の舞台と鷺の灯」で、鏡花と福井のことを書いたけれど、本篇もまた、鏡花が思い入れをもって通過した越前(主に福井県)の地を舞台にしている。


 莫大な遺産を相続して、趣味の古物収集に明け暮れる旦那が、深沙大王(しんしゃだいおう)を祀った祠のなかを物色して、賓頭盧(びんづる)尊者(そんじゃ)の首を引っこ抜いたりと、散々な狼藉を働く。

 旦那が去った後、祠に巣くう(いたち)や蛇、境内の森の(ふくろう)、さらには祠の中の白狐の像、額に描かれた翁、破太鼓(やれだいこ)、紙雛、幣束、絵馬に描かれた馬たちや猿といった妖怪たちが撤退の相談をはじめる。そこへ首を抜かれた賓頭盧が、思い知らせてやるとくだを巻く。


「百鬼夜行絵巻」に描かれた器物霊たちのような妖怪が登場するファンタジーなのだけれど、冒頭に怪奇ムードを漂わせた以降は、終始陽気な筆致で描かれる。

 骨董収集家の旦那には、当時の読者ならあの人かと見当がつくモデルがいたのだそうだ。そのあたりの事情については、市川祥子「泉鏡花の<越前もの>と東京」という論文に詳しく書かれているのだけれど、ひとつだけ、例によって根拠のない憶測をつけ加えると……。


 骨物収集家の旦那の家の門に、廃寺の山門から運んで来た仁王像が据えられているという描写から思い出すのは、鏡花が愛読していたというメリメの『ヴィーナスの殺人』という短編で、考古学が趣味で古い彫像を集める癖がある主人が自宅の庭に運んで来た古代ローマの彫像が怪異をなすという物語である。このメリメ作品の人物設定が『水鶏の里』に流用されているのではないだろうか。


『水鶏の里』は明治三十七年、新派合同劇のために『深沙大王』と改題して戯曲化されている。


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