鏡花読書~置炬燵、侠言、留守見舞
『置炬燵』(明治三十六年)
正月四日。学生がこたつで親友と差し向かいながら、ずっと思いを寄せていた令嬢がエリート軍人と結婚してしまったとひたすら愚痴る話。
ほぼ会話からなる、ほんとうにたんなる愚痴に過ぎない。当時の学生の生活や恋愛事情が興味深い程度。
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『侠言』(明治三十六年)
腕のいい大工だが、なりふり構わぬ暮らしをしている若者に、その兄貴分が縁談をもちかける。金持ちの家のお嬢さんが若者に惚れて、ぜひ嫁ぎたいと言っているそうな。若者は江戸っ子ぶりを発揮して、その気があるなら俺のボロ家に裸足で駆けこんできやがれと啖呵を切る。
これもほぼ会話からなる、よくできた落語の序盤を切り取ったような軽い読み物。
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『留守見舞』(明治三十七年)
一通のみの書簡小説。
差出人は、故郷に妻と子供たちを残して、日露戦争の兵隊として出征した男たちの仮宿舎になった家の主婦。宛先は兵士の妻。
兵士たちがいかに紳士的であり、いかに覚悟を持って戦争に臨んでいるかを褒めたたえて、不安であろう相手の妻を慰撫するという内容。
『日露戦誌』という本の企画に応じて書いたようで、特に小説的な興味を引くものはない。
――以上三篇。なぜこれらが小説扱いをされて、巻二十七小品の部に編入されなかったのか、わからない。




